豊臣勢の中では少々情けない人物として描かれている片桐且元。
歴史好きの小林隆さんが語る『真田丸』での且元の役割とは?
片桐且元と聞いて、坪内逍遥の戯曲『桐一葉(きりひとは)』のような、徳川との交渉役として悩み、苦しむ且元を最初はイメージしていました。三谷さんも、「せっかくの大河ドラマだから、格好良くいきたいよね」と言っていたんですよ。でも、「めちゃくちゃ情けないのも面白いね」とも言っていて、結局、後者の方に舵(かじ)を切ったようです。
それにしても『真田丸』の且元は、情けないですよね。何をやっても裏目に出てしまいます。人生の間が悪いというか……。且元は関ヶ原の戦い以降、豊臣と徳川との間を取り持ち、高いレベルでの政治交渉や判断をしていく人物だから、ある程度の優秀さは備えていこうと思っていたのですが、出てくる脚本、出てくる脚本、すべてダメ男で、途中で当初思い描いていた人物像を保つことは、無理だと悟りました。
決定的だったのは、第20回「前兆」での落書事件です。茶々の懐妊を皮肉り、秀吉の子ではないと書かれていた落書の件を、殿下に報告してしまいます。本来の且元は、こんなことを殿下に伝えたら絶対にダメだってことはわかる人だと思います。しかし、物語の中で役割上、他にキャラクターを作るわけにもいかず、且元にそういった役割が振られることになったのでしょう。史実と作家との間の板挟み。究極の板挟みです(笑)。
且元が常に何かとの板挟み状態になってしまうのは、相手のことをきちんと考えているからだと思っています。且元は三成と同じく北近江の出身で、殿下が長浜城の城主となってこの地を治め、若く優秀な人材を求めた際に登用されました。
三成のように飛び抜けてはいなかったかもしれませんが、殿下が見込んだくらいですから、且元も優秀な人物だったと思うんですよ。けれども、残念ながら要領がよくありません。むしろ要領よくやろうとは思っていない節があります。馬鹿正直というか、実直。実直さは、自分に通じるところがあるかもしれません。間が悪いところもそうですね。三谷さんとは劇団以来30年以上にわたる付き合いですが、昔から格好悪くて情けない役柄を求められていますし、そういうところも見て書いているのかなと感じました。
三成のように飛び抜けてはいなかったかもしれませんが、殿下が見込んだくらいですから、且元も優秀な人物だったと思うんですよ。けれども、残念ながら要領がよくありません。むしろ要領よくやろうとは思っていない節があります。馬鹿正直というか、実直。実直さは、自分に通じるところがあるかもしれません。間が悪いところもそうですね。三谷さんとは劇団以来30年以上にわたる付き合いですが、昔から格好悪くて情けない役柄を求められていますし、そういうところも見て書いているのかなと感じました。
戦国時代を描く作品では、多くの場合、且元は関ヶ原の戦い以降に徳川との交渉役としてようやく登場します。清正や正則らとともに賤ヶ岳七本槍(しずがたけしちほんやり)として勇名を馳せていますが、その後は、合戦での目立った活躍は見られず、表舞台に立つことはありませんでした。検地を行ったり、神社仏閣の建設に携わったりと、三成と同じように主に事務方として活躍していたようですね。『真田丸』では、関ヶ原の戦い以前の且元も演じることができたので、とても新鮮でした。
第40回「幸村」では、大坂の陣のきっかけとなった方広寺の鐘銘(しょうめい)の件が、且元の口から語られました。この件に関しては諸説ありますが、家康へのサービスだったという最近の研究による説が採られています。当時、名前を入れることは、相手への敬意を表していたそうですね。且元としては、徳川にも喜んでもらおうという一心で、「家」「康」の2文字を入れて「国家安康」とした案を採用したのでしょう。ドラマの中でも、銘文を考えた清韓と二人で、会心の作だと喜んでいるシーンがあります。
けれども、その思いとは裏腹に徳川には言いがかりを付けられ、豊臣には裏切り者のような目で見られます。とてもうまく描かれていますが、“且元一人のせい”というようになっているのは、かわいそうですね。三成もいなくなってからは、且元がほとんど孤軍奮闘していたんです。しかし、自分が留まることで豊臣の足並みがそろわなくなるのであれば、大坂を去るしかありません。すべては豊臣を守るためです。
この後、且元は徳川へ付くわけですが、自分の中でもまだ整理がつきません。あれだけ豊臣に尽くしたのですから。でも豊臣から去ったら、他にはもう徳川しかなかったのでしょう。且元にも守るべき家臣や領民、家族があります。自分一人が腹を切るだけでは済まないと、断腸の思いで大坂城を後にしたのだと思います。
且元は、“お上様(かみさま)”と呼ばれることになる秀頼の母・茶々とは、深い縁がありました。且元の父・片桐直貞は浅井長政の忠実な家臣で、小谷城落城直前まで仕えていた人物です。父の背中を見て、且元も父のようになりたいと思っていたことでしょう。長政自刃後も生き延びた茶々、初、江の三姉妹への思い入れもあったと思います。まさか茶々が殿下の側室になるとは、想像していなかったでしょうけれど。その茶々と愛息の秀頼をお守りするように殿下から頼まれたので、その言葉通りに行動していたわけですが、豊臣は大きな柱を次々に失っていき、徳川に追い込まれていきます。且元もその一人です。
本人の前ではっきり言えないから苦労させられるのですが、且元から見れば、茶々は世間知らずです。且元を演じていると、茶々を含め、秀頼の周りの人々はもう少しどうにかならなかったのかな、と考えさせられます。茶々を演じている竹内結子さんも「皆がもう少しずつ利口だったら、こうはならなかったのにね」とおっしゃっていて、「同感!」と思いました。
秀頼が幼い頃に三成からもらった桃の木も、随分と大きく育ちました。この桃の木は、秀頼を象徴しているんですよね。仰ぎ見る大坂城の大きな天守閣は秀吉の偉大さを、そして、育っている桃の木は秀頼の成長を表していると感じるんです。
秀頼が立派に成長すれば、もう一度、殿下がいた頃のような豊臣の世が戻ってくると、且元は本気で考えていたと思います。8月に沼田で行われたトークショーで、参加者の方から「今後の見どころは?」と聞かれたので「豊臣の人材不足です」と答えたら、会場がドッと沸きまして。まさか、こんなにウケるとは……。いつの間にか見回すと誰もいなかったという状況で、且元としては切実だったのですけれども(笑)。秀頼役が子役の石田星空くんから中川大志くんに代わった時、「こんなに大きくなって」と思いました。秀頼は豊臣の希望の星です。孤軍奮闘もむなしく、如何(いかん)ともしがたい状況になって城を去ってしまった且元ですが、「あとは若君に託します」という思いです。
秀頼が立派に成長すれば、もう一度、殿下がいた頃のような豊臣の世が戻ってくると、且元は本気で考えていたと思います。8月に沼田で行われたトークショーで、参加者の方から「今後の見どころは?」と聞かれたので「豊臣の人材不足です」と答えたら、会場がドッと沸きまして。まさか、こんなにウケるとは……。いつの間にか見回すと誰もいなかったという状況で、且元としては切実だったのですけれども(笑)。秀頼役が子役の石田星空くんから中川大志くんに代わった時、「こんなに大きくなって」と思いました。秀頼は豊臣の希望の星です。孤軍奮闘もむなしく、如何(いかん)ともしがたい状況になって城を去ってしまった且元ですが、「あとは若君に託します」という思いです。