九電、金銭支払い打診 黒川第1発電所
熊本地震で九州電力の水力発電所「黒川第1発電所」(熊本県南阿蘇村立野)の貯水槽が損壊して大量の水が流出した問題を巡り、九電が発電所近くで発生した土砂崩れで住家被害を受けた住民に金銭の支払いを打診していたことが関係者への取材で分かった。支払い名目を「引っ越し代」「借地料」として一部住民に「200万円」の金額を提示。水流出と土砂崩れの因果関係を認めた上での「補償」を求める住民らは困惑している。
九電によると、4月16日の本震後、推定約1万トンの発電用水が流出。発電所近くの斜面で土砂崩れが発生し、そのふもとにある少なくとも民家9戸が泥流で被災し、うち1戸で住民の男性(当時69歳)と妻(同61歳)が死亡した。
関係者によると、九電は被害を受けた住民たちが避難する仮設住宅などを回って個別に接触。一部に対して今月上旬、避難に伴う「引っ越し代」や被害家屋の状況を調べるための「借地代」として「200万円」の金額を提示した。補償を求める住民からは「曖昧な名目の金銭の受け取りは難しい。意図を明確にしてほしい」との声が上がっている。
九電は有識者による検討会で地震と斜面崩壊や貯水槽の損壊との因果関係を調べている。九電地域共生本部報道グループは取材に「金銭支払いや補償に関して現時点で決まっているものはなく、回答できかねる」と答えた。【中里顕】
立命館大法科大学院の吉村良一教授(損害賠償法)の話 因果関係や法的責任が特定されていない段階で企業が住民に金銭を支払うのは、過去に石綿被害などで例がある。ただ、支払うに当たって企業は「これで原因究明や補償が終わりではない」と明確にし、住民側もそれを確認するなどの慎重な対応が必要だ。