テレビはダサい」に抗う『水曜日のダウンタウン』プロデューサーの働き方

『水曜日のダウンタウン』や『芸人キャノンボール』のプロデューサーの藤井健太郎さんと、雑誌『テレビブロス』の編集部員であり、cakes連載「すべてのニュースは賞味期限切れである」のおぐらりゅうじさんの対談は後編です。テレビとテレビの中の人がダサくなってしまう理由や、子供の頃から好きだったダウンタウンとの仕事など、刺激的な話が盛り沢山のテレビ談義をお届けします。3万部を突破した藤井さんの単著『悪意とこだわりの演出術』試し読みとあわせてお楽しみください。

左:藤井健太郎 右:おぐらりゅうじ

「テレビ業界はダサい人が多い」の理由

おぐらりゅうじ(以下、おぐら) 藤井さんの『悪意とこだわりの演出術』に書かれていたことで感銘を受けたのは、やっぱり「テレビ業界の人はダサい人が多い」っていうところですね。

悪意とこだわりの演出術
悪意とこだわりの演出術

藤井健太郎(以下、藤井) そこ、みんな食いつくんですよ。ってことは、外の人も潜在的に思ってるってことですかね。

おぐら まぁでも事実、本物のおしゃれな人はテレビ業界を目指さないでしょうし、その影響で、番組のアートワークにしても、使われている楽曲にしても、ほぼダサいのは間違いない。

藤井 デザインとか見映えをあんまり重視してないんですよね。大衆に向けていく過程で、そういう部分は必要ないとジャッジされていったんだと思いますけど。

おぐら そのせいで、テレビを見ることがイコールでダサい、という雰囲気も一時期ありました。

藤井 家にテレビがないのが格好いい的な。さすがに最近はそんなことないですけど、それはテレビがだんだん弱いメディアになってきたからで。少しはデザインとかを気にするようになってきたし、強かった頃のほうがやっぱり、ね。

おぐら 王様だったがゆえに、鈍感だった時代。

藤井 ちなみに、僕の言っているダサいの種類は、広告代理店の人みたいな方向のダサいですよ。

おぐら それ、まったく興味がない人のダサいより、よっぽどタチが悪いですよ。

藤井 就職活動の段階で、とりあえず商社と広告代理店とテレビ局を受ける、みたいな人が多かったら、そりゃそうなるよなっていう。

おぐら あとは、これも本に書いてあった、テレビは他のカルチャーと比べて浅い、っていうのも、人材の質の問題ですよね。全員とは言わないまでも、テレビ業界の多くの人が、流行りのタレントや芸人にはめっちゃ詳しいのに、最新の音楽とか演劇とかはノーマークだったり。

藤井 文化的な素養って、業界に入ってからじゃ遅いんでしょうね。社会に出る前に、何をどんなふうに見て育ってきたかってことで。やっぱり学生時代に飲み会中心の生活だった人は、ちょっと……。

おぐら しかも、そういう飲み会中心だった人が就職戦線で勝ったりするから。これは就活市場がコミュニケーション能力を持ち上げすぎた弊害です。

藤井 それに、本当の才能や深い知識のある人は、テレビ業界に行こうとは思わないんですよ。たぶん。

おぐら 映像表現が好きで、ちゃんと才能があったら、自分で配信して世に出るか、就職するとしても、今だったらライゾマティクスとかに行くでしょうね。

藤井 しいて言えば、笑いっていうジャンルに関しては、まだテレビが一番強いとは思います。劇場とか現場のお笑いは別として。

おぐら でも藤井さんは、テレビを選んだわけですよね?

藤井 格闘技とか音楽とか、好きなものはいろいろありましたけど、テレビが一番好きでしたよ。あと就職でいえば、僕が安定志向っていうのが大きいです。テレビ局員なら、ある程度好きなことやれて、安定した給料もらえるだろうなって。変な話、瞬間的にだったら、今会社辞めてフリーになったほうが稼げるとは思いますが、まぁ絶対ないですよね。長い目で見た時に、金銭的なことはもちろん、何のメリットもないですもん。心配性なだけっていうのもありますけど。

おぐら その心配性な性格は、番組作りにも出てますよ。計算された笑いの構造、別の言い方をすれば、スベらないための仕掛けが綿密に張り巡らされている。

藤井 小ネタをいっぱい仕込んだり。

「地獄の軍団」長の冷静さ

おぐら 僕はこれまで、いろんなテレビ制作者の方にインタビューしてきましたけど、わりと熱っぽいタイプの人が多かった。自分なりのバラエティ哲学を語るような。それが藤井さんは「テレビ局は安定してるから」って。ここまでクールな人、初めてです。

藤井 熱がないわけではないんですよ。表には出づらいっていうだけで。世代もあるのかもしれませんけど。

おぐら 確かに、今20代から30代で活躍している俳優やミュージシャンも、クールな人が多いかも。「有名になりたいとか全くないんで、仲間と自由にやれたらそれが一番です」みたいな。「音楽で世界を変えてやる」的な人は、だいぶ減ってるでしょう。

藤井 大人しいタイプは増えてますよね。時代の温度なのかな。

おぐら だってマッチョな男、減ってません?

藤井 でもEXILEとかはあるわけだから。映画のヒット作の話と同じで、それも界隈論じゃないですかね。

おぐら 演出家時代のテリー伊藤さんのようなクレイジーな人って、今あんまりバラエティ業界にいないですか?

藤井 いるにはいますよ。ただ、そういう人がおもしろい番組を作ってることがなぜか少ない。本人は超クレイジーなのに、番組は超普通っていう。謎のパターンですよ。

おぐら 平和な番組のほうがヤラセもやりがちって、本にも書かれてましたね。

藤井 まあ、それは構造上の問題がメインだから全く同じ話ではないけれど。ただ、芸人さんや笑いと向き合うのは真面目で几帳面なタイプが多いイメージはありますね。

おぐら 藤井さんの番組は「悪意がある」って言われたり、藤井さんの番組スタッフを「地獄の軍団」って呼ばれたりしますけど、普通にワイドショーや情報番組のほうが、よっぽど悪意ありますよね。泣きながら会見している様子とか、悲壮感でボロボロになっている姿とか、あんなに何度も何度も繰り返し流すなんて、悪意でしかないでしょう。

藤井 そういうほうが数字が取れるっていうのもあるんでしょうけどね。

おぐら それと、AD時代の残酷物語が、本には一切書かれてなかった。

藤井 苦労話も、なくはないけど、そこまで残酷なことはなかったです。

おぐら こんなにクールで完璧になんでもこなす藤井さんが上にいて、後輩たちはどう思ってるんですかね。もちろん、大きな目標にはなりますけど。

藤井 下に対しては、厳しくはないというか、必要以上の干渉はしないですね。めんどくさいので、あんまり怒らないし。その代わり、感じろよって。

おぐら それはそれでこわいです(笑)。

子供の頃から見ていたダウンタウンとの真剣勝負

おぐら ダウンタウンは、学生時代から好きでしたか?

藤井 ダウンタウンっ子でしたよ。逆に、お笑い全般が好きとかではなかったので、むしろほぼダウンタウンしか好きじゃなかったくらい。だいたいの番組はチェックしてました。2時くらいからやってた『かざあなダウンタウン』を中学生の時に夜更かしして見てたのは覚えてますね。

おぐら それがいまや冠番組の総合演出ですから、やっぱり最初は緊張というか、プレッシャーはあったでしょう。

藤井 正確には『水曜日のダウンタウン』の前に、『リンカーン』のディレクターとして現場でご一緒していたので、全く面識がゼロではなかったんですけど。

おぐら とはいえ、レギュラー番組でいえば『クイズ☆タレント名鑑』と『テベ・コンヒーロ』の時は、演者の人たちとそれなりに近い距離で、足並みをそろえて番組作りをしてきたわけですよね。

藤井 当然、それまでの番組とは違いますよね。あのダウンタウンに対して、いきなり来た面識もないディレクターが、自分の番組に全面的に乗っかってくれって言うのは無理がありますから。

おぐら 制作スタッフ発信の企画がなかなか通らなかったり。

藤井 企画も簡単には通らないけど、でも一方で、企画が大したことなくても、ダウンタウンの力でおもしろくしてしまう。

おぐら そうなるともう、誰も何も言えないですね。

藤井 その落とし所として、ダウンタウンに何かをプレゼンするという企画に落ち着いて、笑いと情報をバランスで入れることになった。そこで「説」というワードを入れたいという相談をしました。

おぐら 番組サイドはあくまで情報を中心としたプレゼンを担当、ダウンタウンがそこに笑いを足す、というような。

藤井 もともとはそんな感じはじまりましたね。だから最初はお勉強というか、真面目な説を多めに入れるつもりではありました。

おぐら と言いながら、笑いを取りにいった説も最初からありましたよ。

藤井 まあ、実際はありました。で、そこからさらに少しずつ。

おぐら 笑いも積極的に取り入れて。

藤井 気が付いたら、やりたいこともできるようになってきたと。

おぐら この前、ツイッターに「2015年〜2017年くらいがキャリアのピークになるんじゃないかと思ってます」って書いてましたよね?

藤井 だからもう、今がピークなんじゃないですか。10月から『クイズ☆スター名鑑』という新番組が始まるので、『水曜日のダウンタウン』とあわせてゴールデンのレギュラーが2本、それに加えて単発もそれなりに作っているので。

おぐら 『悪意とこだわりの演出術』で単著も出しましたし。

藤井 クオリティ的にも量的にも、今のこの感じをいつまでキープできるのか。

おぐら 藤井さんはもっともっと偉くなって、ちゃんと後進を育てないとダメですよ。

藤井 でもなんかずるずる行くよりは、普通に穏やかな日々を過ごしたいんですよね。

おぐら 仕事が減れば、ライブや格闘技の試合にも行けるし。

藤井 そうそう。まぁまぁの給料もらって、楽しく暮らすっていう。

おぐら 忙しすぎる今が異常なのは間違いないと思うので、どうか心と体に気をつけて、これからもおもしろい番組を作り続けてください。だって今、ADよりも仕事してますよね?

藤井 ADのほうが早く帰ってますね。36歳なのに、1週間ベッドで寝てないとかありますから。

おぐら もうじゃあ、今日はこのまま帰ってください!

藤井 いや、まだ編集が途中なんで……。

(了)

『悪意とこだわりの演出術』の一部をcakesで公開中!
松本人志の圧倒的な打率と類い稀な構成力
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この連載について

初回を読む
悪意とこだわりの演出術』発売記念対談

藤井健太郎 / おぐらりゅうじ

テレビが面白くなくなったと囁かれる昨今、『水曜日のダウンタウン』や『芸人キャノンボール』といった挑戦的な番組づくりで熱狂的なファンを生み出しているのがTBSテレビプロデューサーの藤井健太郎さん。今回、3万部を突破した藤井さんの初の単著...もっと読む

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