まずは「チヤホヤされたい」欲望をきちんと認めたほうがいい

コミュニケーションの心得について、本を書いたアナウンサーの吉田尚記さんと文筆家の芳麗さん。実はコミュニケーションが昔は苦手だったそうですが、今は言葉を生業にしています。そんなお二人が、上手に話せるようになるための心構えを語ります。全4回でお届けします。

Domaniとテレクラキャノンボールの共通点

芳麗 今日は私とcakesの担当編集さんと私の新刊の担当編集者の全員の希望で吉田尚記さんに、「コミュニケーション」をテーマに対談をお願いしました。

吉田尚記(以下、吉田) ありがとうございます!

芳麗 まず、簡単に自己紹介させていただくと、私はcakesでも女性誌にまつわるエッセイを連載していて……。

吉田 読みましたよ〜。とてもおもしろかったです。女性誌って、欲望のワンダーランドですよね。美容院に行くと必ず読みますけど、すごい野心だし、欲望のあり方が理解不能だなと思ってたんです。
 でも、このエッセイを読んだらいろいろとわかって、女性誌にもそれぞれの個性があって、いろんな思いがあるんだなと。

芳麗 ありがとうございます。

吉田 この間もね、すごいキャッチコピーを見つけたんですよ。「だって、『幸せそう』って思われたい」という。なんで「幸せになりたい」ではなくて、「思われたい」なんだって(笑)。

芳麗 見栄とプライドが前に出た、とても女性誌的なコピーです(笑)。

吉田 えっとね、(スマホで検索)これは「Domani」っていう雑誌ですね。

Domani(ドマーニ) 2016年 05 月号 [雑誌]
Domani(ドマーニ) 2016年 05 月号 [雑誌]

芳麗 最近、いちばん攻めてる雑誌です(笑)。「Domani」は、今年、もう一つ秀逸なコピーがあったんですよ。「35歳を過ぎたら『やせない体』で生きていく!」っていう。

吉田 おおっ!

芳麗 朝、電車の吊り広告で見かけた途端、思わずツイートしちゃいました。

吉田 なんだかすごいけど、どういう意味ですか?(笑)

芳麗 女性の間では「35歳過ぎるとなかなかやせない」っていう共通認識があるんです。その目を背けたい現実に敢えて真っ向から開き直っているから、ハッとするっていう(笑)。
 ちなみに、そのコピーがでかでかと踊る号の表紙は、エビちゃん(蛯原友里)はへそ出しのトップスでめちゃくちゃウエストくびれてましたけどね(笑)。

Domani(ドマーニ) 2016年 07 月号 [雑誌]
Domani(ドマーニ) 2016年 07 月号 [雑誌]

吉田 なるほど(笑)。この言葉って、「テレクラキャノンボール2013」を思い出すなぁ。

芳麗 あの映画の?

吉田 そうです。どれだけ早く女性とセックスできるかを賭けてAV監督たちが旅するロードムービーです。

芳麗 私、観逃してしまったんですけど、激しく賛否両論でしたよね?

吉田 僕らのまわりでは絶賛しかなかったですよ。一部の女性にとっては違うのかもしれないけれど。
 それはさておき、なんでそう思ったかというと、この映画の中で、ビーバップみのるさんというAV監督が「ヤルかヤラナイの人生なら、俺はヤル人生を選ぶ」って言うんですよ。

芳麗 はぁ……、名言っぽいけど、何言ってるんだろう(笑)。

吉田 まさにそれ(笑)。かっこいいフレーズだけど、実は何も言っていない。「35歳を過ぎたら『やせない体』で生きていく!」っていうのも同じ、別に何も提示していないですよね(笑)。

芳麗 おっしゃる通りだ(笑)。

人間の2大お悩みは、「太ること」と「人とうまく話せないこと」

芳麗 いきなり雑談が止まらなくなっちゃいましたけど(笑)。そろそろ、本題にいきましょう。私が吉田さんにお会いしたかったのは、私のコミュニケーション本を書くきっかけが吉田さんの本にあるからなんです。

3000人にインタビューして気づいた! 相手も、自分も気持ちよく話せる秘訣
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吉田 どういうことですか?

芳麗 実は、担当編集者に本書の依頼を頂いた時、吉田さんの『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』を渡されたんです。「僕はこれまでコミュニケーション本には興味がなかったのですが、この本は、とても素晴らしい本だと思うんです」と言われて。

なぜ、この人と話をすると楽になるのか
なぜ、この人と話をすると楽になるのか

吉田 まじっすか! 光栄なお話。

芳麗 この本には、独自なコミュニケーションについての視点、技術や実践法が書かれているって。

吉田 超うれしい。

芳麗 ご本、非常におもしろかったです。吉田さん自身はもともとコミュ障だからか、コミュニケーションが苦手な人の本音や心理がよくわかっていらっしゃる。会話の最初の一歩を踏み出す時の恐怖心とか、相手につまらない人間だと思われたくない自己顕示欲だとか。

吉田 そうです。僕はオタクですから。

芳麗 その読者の本質を踏まえたうえで、コミュニケーションをゲームにたとえて、実践的なコミュニケーション法を書いていて、これはおもしろいなと。
 もちろん、私に同じ本を書いてほしいという依頼ではなく、私のインタビュアーとしての視点と体験を通して、コミュニケーションの本質や技術を書いて欲しいと。

吉田 なるほど。芳麗さんは3000人以上インタビューされてるんですものね。

芳麗 私自身も子供の頃からコミュニケーションが苦手だったけど、正直、どんな本を読んでもピンとこなかったんです。コミュニケーションに悩んでいる人が、雑談力とか、発声法とか学んでも、あんまり意味がないのかなって。

吉田 わかります。なんだろうって思いますよね。

芳麗 でも、人の悩みの多くは人間関係ですし。

吉田 さっきの「『やせない体』で生きていく!」もそうですけど。やっぱりコミュニケーション本とダイエット本は、いつの時代も店頭からなくならないですよね。結局、人の悩みって「太ること」と「人とうまく話せないこと」の2点に集約されるんだろうなと。

芳麗 体のことと心のこと、ですね。言ったら、恋愛も夫婦関係も婚活本だって、広くはコミュニケーションの問題ですしね。

吉田 そもそも「自分はコミュ障だから、ダメなんだ」という結論に達する時点で、その人は「コミュニケーションに価値を感じている人」=「人からチヤホヤされたい人」であることを認めたほうがいいと思うんですよね。

芳麗 そうか、コミュニケーションの欲求って平たく言えば、誰かにチヤホヤしてほしいってことなんですね(笑)。かわいらしい。

吉田 みんな澄ました顔をしていても、必ずソレがある。それこそ、アドラー心理学を有名にした『嫌われる勇気』でも「すべての悩みは人間関係の悩みである」って言ってますから。僕、アドラー心理学がこんなに有名になる以前から好きだったんですが、自分の思考も、この本もアドラー心理学に影響を受けている部分は大いにあると思います。

芳麗 人と人とは、どうせ分かり合えないもの。それを前提に、コミュニケーションを楽しもうという精神ですね。

吉田 はい。他者と分かり合いたいなんて思うところからスタートするからややこしいことになるんだと思う。

コミュニケーションに必要な我慢は、たった2つ。

芳麗 吉田さんの本には、「別にコミュニケーション上手にならなくても、自己アピールして人の心をつかまなくてもいい。その場を楽しめればいい」というメッセージが何度もでてきますよね。あの考えは、とても共感します。

吉田 コミュニケーションに利益や結果を求めない方がいいというのが僕の考えです。そもそも、こちらの思惑も人柄も、他人に伝わるものってコントロールできないですもん。

芳麗 ほんとですね。

吉田 だから、いわゆる「自称:コミュ障」も治さなくていいと思う。そんなに簡単に治るものじゃないですしね。ただ、コミュニケーションをとりたいなら、必要最低限の技術は磨いておくこと、それから、コミュニケーションというゲームには、残酷なリスクがあることを知ること。

芳麗 リスク、ですか?

吉田 これはJリーグの元チェアマンである川渕さんがおっしゃってたんですけど、サッカーって痛いスポーツなんですって。ボディタッチとかいっぱいあるから怖いし、痛い。
 コミュニケーションもそれと同じで、プレイしたいなら、そこは避けられない。

芳麗 なるほど。

吉田 そのためには2つ我慢しなくちゃいけないことがあると思ってます。

芳麗 2つの我慢?

吉田 それは、「聞く勇気を持つこと」と「言われても凹まないこと」です。

芳麗 おお。

吉田 「聞く勇気を持つこと」というのは、「聞きたいことを聞いたら、もしかして怒られるかもしれない」というリスクを乗り越えることです。「聞く勇気」を持たないと会話も関係も先に進まないですから。

芳麗 そうか。誰かにものを尋ねるというのは、常にリスクがあることだと。

吉田 そうです。もう1つのリスク「言われても凹まないこと」は、人と関われば、人は何かしら言ってきます。もちろん自分にとってマイナスの評価もありうる。その時に「言われても凹まないこと」。誰かとコミュニケーションを取りたいと思うなら、この2つの我慢だけはしないといけないです。あとは、そんなに我慢することもない。

芳麗 事前にこのリスクを踏まえて、我慢しようと腹をくくれば、コミュニケーションへの恐怖心も薄れるし、凹んでもまだ耐性がありそうですよね。

吉田 はい。我慢するところが2つだけ、と割り切れれば際限なく我慢しなくていいですよね? あとは、空気とか、読まなくていいので、どんどん実践すべきだと思います。

次回「コミュニケーションを表面的にする“モテたい”教」へつづく

構成:中島洋一


リアル世界での人間関係に悩み、とまどい、苦しむ不器用な人たちへ。
のべ3000人以上のインタビューを行ってきた芳麗さんがコミュニケーションの心得をアドバイス!

3000人にインタビューして気づいた! 相手も、自分も気持ちよく話せる秘訣
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なぜ、この人と話をすると楽になるのか
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この連載について

モテとコミュ障のあいだで—吉田尚記×芳麗

芳麗 / 吉田尚記

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