西内まりやが大変そう

ちょっとでも新しく活躍する芸能人が現れると、すぐに言い出す人が現れる「事務所のゴリ押し」。今回の「ワダアキ考」は、とりわけこの言葉を使われがちな西内まりやを取り上げます。モデル出身で、歌手としても活躍し、先日実写映画『CUTIE HONEY -TEARS-』の主演が発表されるなど、女優としても活躍中の彼女。「ゴリ押し」という言葉に逃げないで、武田さんの評論を見て考えてみましょう。

「事務所のゴリ押し」という分析のつまらなさ

ふと、『笑っていいとも!』の「テレフォンショッキング」を思い出す。旬の女性アイドルや女優が出てくると、アルタの観客は一斉に「キレーイ!」等々の褒め言葉を多量に浴びせかける。本人は恐縮しながら、マイクが拾えるかどうかの声量で「そんなことないです……」とささやき、はね除けつつも受け入れる、という特殊な応対を見せる。ひとしきり投げられた後、タモリがとぼける、あしらうなどの反応を見せれば、そのやり取りは終わる。投げられた声をタモリも本人もそのまま流してしまう場合もあり、すると、「キレーイ!」がスタジオ内で行き場を失い浮遊したままになる。観客は女性ばかりなので、男性アイドルや俳優への熱狂は素直に本人に刺さるのだが、とりわけ若い女性の場合、「キレーイ!」は空砲になりやすかった。

少し前ならば剛力彩芽など、今ならば西内まりやなど、「事務所のゴリ押し」という評定で流行りの誰それが素早く捌かれるのは酷だと思う。芸能事務所は各方面にゴリゴリ押しこむのが仕事なのだから、うまいことゴリゴリ押されている人を見て「どうせゴリ押しだろ」と投げるのが鋭い指摘だとされている感じはつまらない。テレビの中の芸能人について議論すべきは、芸能界の力学ではなく、その場に流れる空気だと思っている。つまり、なぜ『笑っていいとも!』に出られたのか、ではなく、さほど興味を持ってくれているわけではないアルタの客から放たれた「キレーイ!」にどのように応対するか、に着目したいのである。

ゴリゴリに乗っかってグイグイ飛躍する

さて、この数年、あちこちで見かけるようになった西内まりやは、先人たちがそうであったように「これからはモデル業だけじゃなく色々やります」と宣言した上で、その先人たちを上回る活躍を見せている。すっかり平凡な形容になるが、誰もがうらやむ容姿を持ち、モデル業も役者業も歌手活動も堅調だ。昨年観た映画『レインツリーの国』での演技はいたって平凡だったが、巧みな演技をされてはむしろ困るようなベタでピュアな映画だったので、フィット感はあった。ゴリゴリ押してくれた結果として目の前にそびえ立った仕事に取り組んでいく。雑誌『ニコラ』や『Seventeen』のモデル時代から追いかけているファンはそのステップアップに感嘆するだろうが、いつの間にか頻繁に見かけるようになった人たちは、理解する方法を探しあぐねた結果、いつもの「ゴリ押し」を用いがち。

西内まりやは歌がうまい。堂々としている。第56回日本レコード大賞最優秀新人賞受賞、翌第47回では優秀作品賞を受賞しているが、こういうのも「ゴリ押しだろ」と片付けられてしまう。デビュー曲で、ハイテンションでキャッチーなロックを歌い(「LOVE EVOLUTION」)、続いてパワフルなバラードを歌い(「ありがとうForever...」「Save me」)、おおよそ定着した頃に突如ガーリーな格好でキラキラしたポップソング(「Chu Chu」)を歌うというのは、アヴリル・ラヴィーンが通ってきた道を急ぎ気味に通過していることになる。新境地を開拓し続けているが、そもそも受け手が境地を把握する前に「新」を提示してくるものだから、用意されたゴリゴリに乗っかってグイグイ飛躍している様子を、遠くから冷めた目で見つめてしまう。

人様に見せる葛藤が同じになってしまう

デビューして間もない頃から『情熱大陸』に出たいと言及してきた西内まりや。起業家やベンチャー方面のブログなどを見ると、いつかは『情熱大陸』に出たい、といった文言を時折見かける。あの番組はどこかの場面で「葛藤を抱えている今」を開陳するのがデフォルトだから、その状態を開けっ広げにしたがっていることに驚く。実際西内は今年2月に『情熱大陸』に出演しているが、モデル・歌手・女優の3つを並行していることについて「1つの仕事に練習を積み重ねられない」と悩みを告白し、これまではネガティブな言葉を発してこないようにしてきたが「でも本当は苦しい」と涙を流した。

大変だな、と思うのは、忙しすぎて丁寧な仕事ができないということではなく、忙しすぎて、人様に見せる葛藤が同じになってしまう、ということ。モデルになったばかりの時に、西内は「“作ってるまりや”をうっかり出してしまう。素直な自分を出して、“まりやちゃんてふつうだな。モデルなのにつまらないな”って思われちゃいけないと思ってた」(『まりやまにあ』)と漏らしていたし、『情熱大陸』に出る半年前には、『Seventeen』を卒業した際の囲み取材で、ファンや報道陣を前に「一番、悩んでいる時期」(ORICON STYLE)と胸中を告白しているし、同時期のインタビューでは「どこかにずっと、本当の自分ではない『西内まりや』という別の存在」があった(V.I.P. Press)と語っている。

次々と宿題提出を迫られている感じ

ゴリゴリに乗ってグイグイ飛躍していくと、賛辞はグイグイの力量に向かい、批判はゴリゴリに向かう。こうなると、本人はその葛藤を、本当の自分とメディアの中にいる自分との差異に用意しがちになる。「『笑っていいとも!』でいたずらに『キレーイ!』を浴びるタイプ」の人の前に、のぼるべき階段が一気に出揃うと、階段をのぼる度に生じる葛藤が一緒になってくる。バリエーションを持たせることができない。

堂々たる歌唱力など、突出している部分をじっくり磨き上げればいいのにと思うけれど、次々と宿題提出を迫られていく。『シン・ゴジラ』で喝采を浴びる庵野秀明監督が12年前に実写化している『キューティーハニー』の再実写化『CUTIE HONEY -TEARS-』が来月公開されるが(監督はA.T.)、主演を務める西内にとってはつっこみを浴びやすい題材となるのではないか。おそらく、いつもの葛藤が更新されるはずだが、好き・嫌いではなく、とにかく「大変そうだな」という感想を投げてしまう。

(イラスト:ハセガワシオリ


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武田砂鉄

365日四六時中休むことなく流れ続けているテレビ。あまりにも日常に入り込みすぎて、さも当たり前のようになってしったテレビの世界。でも、ふとした瞬間に感じる違和感、「これって本当に当たり前なんだっけ?」。その違和感を問いただすのが今回ス...もっと読む

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コメント

pingpongdash "アヴリル・ラヴィーンが通ってきた道を急ぎ気味に通過"-- 31分前 replyretweetfavorite

akirafukuoka 結構な超人であるところの 41分前 replyretweetfavorite