現金運び役ら全額追徴 大阪高検、求刑指示
大阪高検が振り込め詐欺などの特殊詐欺事件で起訴された犯罪グループの末端メンバーに対し、被害総額と同じ追徴金を裁判で求刑する方針を決め、管轄する近畿2府4県の地検に指示していたことが捜査関係者への取材で分かった。小遣い感覚の低い報酬で事件に関わる末端に「割に合わない」と思わせる新たな公判戦術で、特殊詐欺の抑止を目指す。高検によると、全国的にも先進的な試みだ。
この方針は、高齢者を狙った還付金名目の特殊詐欺事件で、神戸地裁が1月に言い渡した判決が契機になった。末端の連絡役や現金の運び役を担った無職の男2人に、それぞれ求刑通り被害総額と同じ追徴を認定し、判決は確定した。
2人は電子計算機使用詐欺罪などに問われた千葉市若葉区の男(40)=懲役5年6月=と千葉県船橋市の男(35)=同4年=で、医療費の還付金名目で現金をだまし取ったとされるグループのメンバーと共謀。社会保険事務所職員などになりすまして2014年1月以降、大阪や神奈川などの高齢者ら約40人から約3600万円を詐取した。
この事件で2人は、金融機関の現金自動受払機(ATM)などから「出し子」が引き出した現金の運搬や連絡役を担当。報酬は連絡役が約80万円、運搬役は数万円だけだった。神戸地裁は報酬額にとどまらず、被害総額と同じ追徴金約3600万円の納付を、それぞれに命じた。
弁護側は「この額を追徴すれば、被害額を大幅に超えるため違法」と訴えて控訴したが、大阪高裁も1審の判断を支持。2人は上告しなかった。捜査関係者によると、実際の追徴額は刑執行時にグループ全体で負担するよう調整されるため、被害総額を超えることはないという。
高検は異例なこの司法判断を踏まえ、末端も積極的に起訴に持ち込み、「全額追徴」を求刑する方針を今春、近畿の各地検に伝えた。ある検察幹部は「末端への追徴が認められれば、口座や不動産を差し押さえることができる。グループの弱体化が図れる」と語る。
警察庁などによると、昨年の特殊詐欺の被害額は482億円(1万3824件)。【藤顕一郎、岡村崇】