音楽の燃料 (シャムキャッツ インタビュー前編)

さまざまなプロフェッショナルの考え方・作られ方を、その人の本棚、読書遍歴、本に対する考え方などから紐解いていくインタビュー。今回はシャムキャッツの夏目知幸さん、菅原慎一さんに登場して頂きました。インタビュー前編です。

前作『TAKE CARE』のリリースから早一年五ヶ月、長く邦楽インディ・シーンを牽引し続けてきた4人組ロックバンド、シャムキャッツが、最新シングル「マイガール」をリリース。そんな今作は、自主レーベル設立という新たなステージに立った彼らのこれからを示す、最高のロック・アンセムとなるだろう。

シャムキャッツの楽曲にはどこか文学的な歌詞の世界観が存在し、それは時に一つのストーリーのような展開を見せる。今回はそんな彼らの読書遍歴を、最新シングルの話を踏まえながら伺った。インタビュー前半では夏目知幸(Vo,Gt)の本との出会いに迫る。

漫画にはかなり影響されてますね。コマ割りがちゃんとあるイメージというか、「MODELS」っていう曲は特にそういうのを意識しました(夏目)

— まずは奥田民生さんの『ラーメンカレーミュージック』です。

夏目知幸(以下、夏目) 僕、最初に買ったCDが奥田民生さんで、曲とか雰囲気からカッコいいなっていうのはずっと思ってたんですけど、あんまり本音を言わない人というイメージがあったんです。でも、『ラーメンカレーミュージック』には民生さんがソロになってから20年、どういうことを考えてきたのかが割と素直に書かれていて、少しだけ背中を見せてくれた感じです。なるほど、そういうふうにやっていたのかっていうことが、少しだけわかる。バンドをやってる身として感銘を受けましたね。

— 特にどういう点に感銘を受けたんですか?

夏目 例えば、僕らはライブをするのが当たり前じゃないですか。やっぱりいいライブをしたいし、練習しないといけないし、たまにですけど上手くいかない時もある。そもそも曲を作って人前で演奏するのって、あんまり普通のことじゃないから、この「ライブをする」っていうのは何なんだろう?と胸のどこかで、ぼんやりと思うことがあったんです。

でもその点に関して民生さんはシンプルで、“そもそも曲を作るってことは、人に聴かせたいってことだから、ライブするってことは楽しみの一つだ”ってわかりやすくバン!と書いてあって、たしかにそうかも!と思いました。全編にわたって、そういう力強さがある本です。

— シンプルだけど力強い。

夏目 シンプルです。で、すごく納得がいく。ほかには、アメリカ人がエレキギターを最初に作ったんだから、アメリカ人の声に合わせたのが、エレキの音だと。だから日本人には合わない部分があるけど、それでも向こうのミュージシャンの感覚に近づきたいっていう思いがあるとか。実用的なガイドもあります。バンドのなかでリズムギターはちょっとだけ後ろノリで弾いたほうがいいとか。

— 民生さんはラーメンカレーミュージックレコードなる自主レーベルを立ち上げましたけど、そのへんも何か影響を受けてたりするんですか?

夏目 影響というか、自分たちと一緒には並べられないけど、勇気にはなりますよね。民生さんが、そういう道を選んだんだって。

— さっき話してくれましたけど、シャムキャッツの皆さんも民生さんのように本音を言わない人っていうイメージがあります。言葉で多くは語らないというか。

夏目 そうですね、あんまり言ってもしょうがないかなって。この前、民生さんにお会いできたんですけど、話してみたらイメージどおりの方でした。あまり多くを語らない。こちらが聞いても「知らん!」って教えてくれない。カッコいいなと思いましたね。

— 次は『たまもの』です。

夏目 「マイガール」のジャケットの写真は佐内正史さんに撮ってもらってるんです。佐内さんと知り合った時、佐内さんが「シャムキャッツって、風吹いてるよね」って言ってきたんですよ。「曲聴いてると、風吹いてるなあ、いいなあと思った」って言ってくれて。で、その話を佐内さんのファンでもあるコンコ堂って古本屋の店長に話したんです。そしたら「風吹いてるといえば……」って出してきてくれたのが、『たまもの』です。この中に「風が吹いている」ってタイトルの写真があって。

この本の写真家の神蔵美子さんは、もともと既婚者だったんですが、評論家の坪内祐三さんと知り合って、旦那さんと離婚して坪内さんと結婚するんです。でも、何年か経って違う人を好きになってしまって、今度はその人と暮らし始めて、最終的にまた離婚してしまう。ただ、坪内さんが特別な存在になりすぎて、関係がどうしても切れない。そこに葛藤しながら……まあ自分勝手なのかもしれないけど、その一連の姿が面白いんです。

— 映画みたいですね。

夏目 そうです。で、元旦那の新しい彼女のことが気になってしまって、写真も彼女のほうにピントが自然と合ってたり、そういう細かいところを見るのも結構面白いです。

菅原慎一(以下、菅原) 俺も神蔵さん、知ってる。友達の写真展にいらしてたな。

夏目 この写真集に出てくる登場人物、全員がものすごく才能のある人たちで、坪内さんはもちろん、神蔵さんが好きになる末井昭さんは、編集者なのにサックス吹いたり文章も書いたりする人で、原稿も面白いんです。

菅原 『自殺』って本出してるよね。

夏目 そうそう。あとね、お母さんがダイナマイト自殺をしてるんです。末井さんのお母さんが近所の青年と不倫して、それがバレてしまったのでダイナマイト心中するっていう。闇って言ってしまったら簡単だけど、家族とか愛情とかっていう部分で人と違うものを抱えてるんですよね。

amuseum magazine

— 次は『amuseum magazine issue two』です。

夏目 2月に1週間くらいイギリスに旅行したんですよ。駅の中にある本屋さんで売ってたんです。めちゃくちゃ面白いデザイン・アート本で、インスピレーションとかって、案外こういう本から生まれたりする。(ページが)突然黄色のレイアウトになったりとか、そういう部分からの閃きがあったりして。この本はすごく洒落ていてポップなのに、駅の本屋で売ってたところにもグッときました。自分の仕事部屋のすぐ手の届くところに置いてあります。迷った時に見ると気持ちがラクになる。紙とか印刷とか日本とちょっと違うから、そういうところも刺激になります。

— 日本の駅の売店にこういう本が売ってたらビックリですよね。

夏目 無理ですよね。紙の質感とかデザインそのものは、ちょっと『spectator』とかに近いものはあるかなぁと思うんですけど。

菅原 ムック本みたいな感覚なのかな。日本でいうと。

夏目 うん、たぶんね。なんかワクワクするな。

— ほかにも見ていて気持ちがラクになるアートブックとかってありますか?

夏目 絵とか写真に関するものは結構あります。あとはZINEが好きなので、普段から読みますし、海外でもいろいろ書いました。あ、今日は持ってないんですけど、すごくいい写真集があるんです。『GRANT HATFIELD Mercury Retrograde』っていう本で。東京にcommuneっていうZINEのお店があって、そこで見つけました。このZINEを出してるDeadbeat Clubっていう小さい出版社があって、そこから出してる写真集は全部いいです。

— イギリスでは、美術館や博物館みたいなところにも足を運んだんですか?

夏目 行きました。リバプールでストロベリーフィールズを見たりとか、普通に観光しましたね。もともと好きだったんですけど、2年くらい前からアズテック・カメラやオレンジ・ジュースにグッとハマったんです。もともと僕はブラーが大好きで、イギリスの空気を吸ってみたいと思ってたんですね。で、実際にイギリスに行ってみて、これまで想像してたものが自分の中でより具体的になった。「この空気感だから、この音なのか」みたいなものを感じました。

— シングル「マイガール」を聴きましたが、励ますような歌詞やアウトロの雰囲気など、「ヘイ・ジュード」(ザ・ビートルズ)みたいだなと思ったんです。そのあたりにもイギリスの空気みたいなものが反映されているのでは?

夏目 そうです。「マイガール」に関しては、かなりビートルズを意識した曲だから、そういう要素がちりばめられてます。

菅原 リズムとか音の選び方とかにも。

夏目 ビートルズだけじゃなくて、プライマル・スクリームも。イギリスっぽい感じは意識したかもしれない。イギリスが好きなんです。ちょっとひねくれ方が独特っていうか。向こうも日本と同じ島国だし、なんか似てる部分があるのかなあと思います。自分も皮肉屋なので、そういうところも好きです。

— 最後は『ちいさこべえ』です。望月ミネタロウさんの漫画ですね。

夏目 ミネタロウさんってアメリカのオルタナティブ・コミックが好きで、作品を出すごとに、その雰囲気を強く感じさせるものになってきてると思うんです。それに加えて、日本的な漫画の要素がいい感じに合わさったものが『ちいさこべえ』で、すごく気に入ってます。もちろんストーリーもいいんですけど、漫画って演出がかなり大事だと思うんですよ。その点でもすごくグッとくる。キャラクターの存在感が読むごとに強くなっていく感じがして、主人公をサポートする女の子がどんどん可愛く見えてくるんです。そこが気に入ってますね。

— アルバム『AFTER HOURS』の時は三人称を使った歌詞を物語的に書いていたそうですが、それも漫画からの影響ですか?

夏目 漫画には影響されてますね。コマ割りがあるイメージで曲を書いているからかもしれない。「MODELS」(『AFTER HOURS』)っていう曲は特に漫画的なものを意識したんです。『AFTER HOURS』を作り始めてから、気持ちを言葉にするというよりは、言葉を並べて景色が見えるように……というのを考えてました。『AFTER HOURS』『TAKE CARE』の前2作は、自分の地元を描く感じで、今はかなり広いフォーカスで捉えてます。空撮しているけど、そこで暮らしてる人たちのことをボンヤリ想像してるというか。

— じゃあ今回も主語は三人称なんですか?

夏目 今回は三人称はあえて使いませんでした。

— それはどうしてなんですか?

夏目 うーん、なんだろうなあ。ラブソングだからですかね。三人称でもできますし、これまでは逆に(一人称を)避けてたんですけど、今回は情熱に火を点けたかった。自分の中にあるガソリンで燃やしたい、って気持ちがあったんですよね。物語の力に頼るだけじゃなくて、自分の声を少し出そうかなと思って。

菅原 それってつまりロックをやるってことなのかなと思う。

夏目 そうだね。

※後編に続く

Photographs by Motoki Adachi

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ホンシェルジュ

本棚は人を表す、といいます。本連載は、さまざまなプロフェッショナルの考え方・つくられ方を、その人のもつ本棚、読書遍歴、本に対する考え方などからひも解いていこうという試み。本がいまの自分をつくったという人から、ほとんど本を読まない人の本...もっと読む

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