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41歳黒田 V決定戦最年長勝利 味方野手・安部への死球に激怒

セ・リーグ 広島6−4巨人(2016年9月10日 東京D)

 泣いた。歓喜の輪の中で、広島・黒田は新井と目が合った瞬間に、こみ上げるものを抑え切れなかった。移籍前も復帰後も、野球観を共有し、チームを引っ張ってきた盟友。それは流した汗の結晶だ。強く熱い抱擁を交わして称え合う。胴上げは5回。言葉には達成感がにじんだ。

     「最高です。新井とは前回いた時からチームを強くしたいと話し合ってきたので、こみ上げてくるものがあった。やっと達成することができた」

     V決定試合では史上最年長での勝利投手。投打で闘志を前面に出した。3回の打席で11球粘ると、逆転した4回には投球を安部に当てたマイコラスに激怒。味方野手への死球に投手が憤るのは極めて珍しい。チームの一体感を重視する右腕らしい振る舞い。攻撃陣の奮起は必然だった。

     「常に集大成と思っている。今日で終わってもいいと思って投げた」

     こん身の力を振り絞ったのは6回だ。表の攻撃で無死満塁を逃し、嫌な空気が覆った1死一、二塁。村田を内角高めの宝刀ツーシームで空振り三振、ギャレットを中飛に仕留めると吠えた。6回6安打3失点。流れを渡さない力投だった。

     引退に揺れた気持ちを封印し、現役続行を決意した20年目の今季。日米通算200勝、同500試合先発など数々の偉業を達成してきた。人がうらやむ名誉と実績。その裏側では葛藤を抱える。すでに41歳。体は悲鳴を上げ、心と投球が一致しない現実に苦悩する。

     6月3日、ソフトバンク戦(マツダ)では、自身初の3者連続を含む1試合4被弾。「受け入れないといけない。目を背けると次がない」。表面上は平静を装い、この世界で生き抜くために必死にもがく。妥協や慢心は一切ない。その姿勢が栄光の歴史を紡いできた。

     「過去の実績では勝負できない。今がすべて。マウンドで結果が出なかったら、ボクはプロとしてダメだと思う」

     独自の美学。百戦錬磨の黒田でも、全盛期で語られる時間は永遠じゃない。だからこそ厳しい鍛錬を常に課し、注ぎ得るエネルギーをチームに費やしてきた。率先垂範。今も昔も、生きざまは変わらない。マウンドの外では、しかし、敢えて先達として振る舞った。

     いいボールを投げているやんか−。さりげない気遣いで若手を乗せ、背中を押した。「少しでも自信を持ってくれたらいい」。無論、助言も惜しまなかった。ただ、伝えるのは要点のみ。「言い過ぎるのはよくない。甘えが出るので」。大成するよう、自分の頭で考える習慣をつけさせた。

     25年ぶりの優勝。そのど真ん中に黒田がいた。盟友・新井とともにずっと希求してきた。弱いチームを変えよう、勝って見返してやろう…と必死だった。メジャー移籍後に輝かしい年輪を刻んだが、立ち振る舞いは07年までと変わらない。若手に野球観を押しつけるわけでもない。悲願成就には、環境の成熟が必要だったのかもしれない。

     「ボクと新井が帰ったことで、何かが変わってくれたらうれしい。若い選手に何かを残し、彼らが何かを感じ取り、それを次の世代に語り継いでくれれば、戻って来た価値があると思う」

     プロ野球人のあるべき姿を背中で示し、ファンやチームメイトに深い感銘を与えた。それでもまだ、大舞台に向けた戦いが待っている。「自分の力をすべて出し切りたい。チームとしてステップアップしないといけない」。次は日本一。そこで41歳の感動ストーリーは最終章を迎える。   (江尾 卓也)(スポニチ)

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