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shi3zの長文日記 RSSフィード Twitter

2016-08-30

ジブリの映画はなぜヒットを繰り返すのか 07:32

 先日、川上量生著の「コンテンツの秘密」を読んだら、意外にも面白くて気がついたら半数以上のページにマーキングするくらいハマっていた。


 この本は、ドワンゴの会長を続けながら、スタジオジブリ鈴木敏夫さんのカバン持ちとして、「プロデューサー見習い」の肩書で活動した川上さんの「卒業論文」であるという。


 東証一部上場企業の会長が外の会社の、しかも社長でもないプロデューサーのカバン持ちとして弟子入りするというアングル自体も面白いけど、そこで川上さんが感じ取ったことはもっと面白かった。もっと早く読めばよかったと後悔しているほどだ。




 中でも、客観的情報量(いわゆる純粋な情報エントロピー)と、主観的情報量(観客が認知できる情報量)の話は非常に面白く、僕が物事を捉える基準になりつつある。


 ジブリの映画がなぜおもしろいのか、といえば、客観的情報量を適切に減らしつつ、主観的情報量を上げているからだ。実写映画は客観的情報量は多いが、そこから主観的情報を読み取るのに苦労する。情報が咀嚼されていないからだ。


 そこで、アニメは、一度アニメーターの頭のなかで画面に写りこむものが咀嚼され、必要な情報だけ取捨選択されて絵に反映される。取捨選択された線や色といった情報は、人間が認知しやすい状態になっているので、主観的情報量を多く感じやすい。


 実写映像を歯応えのあるステーキだとすれば、アニメは一度ミンチにしたあと整形したハンバーグであるといえるかもしれない。


 子供はステーキよりハンバーグが好きではないか。そして大人も例外ではないかもしれない。僕はどちらも好きだけど。


 まあ僕があんまり川上さんを褒めるというのも気持ちが悪いけど、この本は本当に面白くて目からウロコという表現がピッタリで、なおかつ今僕が抱えている様々な謎を解く鍵になるという点で素晴らしかった。



 そんなわけだから、川上さんにそういう知見を抱かせたスタジオジブリについて俄然興味が出てきた。


 そこでここ最近は鈴木敏夫さんの本をいくつか読んでいた。



 そして同時に、「いいものを作ればヒットする」なんていう、簡単な話ではないことが非常によく分かってきた。


ジブリの仲間たち(新潮新書)

ジブリの仲間たち(新潮新書)


 本書は、ナウシカから思い出のマーニーまで、鈴木敏夫さんから見たスタジオジブリ変遷の記録である。


 実は意外にも、「魔女の宅急便」までは鈴木さんはあんまり宣伝を念頭に置いていなかったのだという。


 しかしヒットしなければ次の策品を作ることはできない。

 次へつなげるために作品を売り込む、ヒットを仕掛ける、というのが鈴木さんの仕事で、そのためにキャッチコピーを考える、タイアップを仕掛ける、時には作家である宮崎駿さんや高畑勲さんを怒らせても、自分の信じたことをやりきる。


 「こうすればヒットする」というルールは、実はない。

 鈴木さんは「宣伝費=興行収入」という大胆な法則を発見する。

 しかし当たり前だが、60億の宣伝費をかけて60億の興行収入では制作費が回収できずに赤字である。


 そこで、たとえばタイアップを組んでヤマト運輸のCMに魔女の宅急便を使ってもらったら、その広告費を宣伝費に組み込む。お金はヤマト運輸が出してるわけだから、そのぶんが浮く。そういうやり方で実質宣伝費を積み上げていく。


 しかし一言で語り尽くせないほど泥臭いのがプロデュースの世界だ。

 本書ではそれが痛いほど伝わってくる。


 全くの門外漢の僕から見れば、「スタジオジブリの映画なんてヒットするに決まってるじゃん」と思っていたのだが、その裏には様々な計算と戦い、特に内部の無理解との戦いがあって、それを乗り越えて千と千尋の空前のヒットに繋がる、という話を読んで、「いいものさえつくれば・・・」「ジブリだったら・・・」なんていう甘い考えだった自分を猛省した。


 週末、スタジオジブリの原点であるナウシカを見てみた。


 今あらためて見るとやや詰め込みすぎな内容に感じる。

 連載漫画があったから、見る前と見たあとに「ああ、こういう設定なのね」と理解することはできるけど、映画だけを単体で見るとかなり難しい。子供の頃はぜんぜん理解できなかった。ただ、ナウシカがメーヴェで空を飛ぶ様が涼しげで、そこだけ楽しんで見ていた。


 同時に、ナウシカというキャラクターの魅力や、ミトをはじめとする家臣たちのドタバタな魅力、環境問題をSF的な視点で扱う斬新さなどに目を引かれる。


 当時、これだけ野心的なアニメを作るというのはさぞや大変だっただろう。


 しかし映画の興行を成功させるというのは、本当に大変なんだなあ



 続けてもう少し古い著作である「仕事道楽」も読んでみた。

 同じような話も出てくるが、ぜんぜん違う話も出てくる。


 これを読み終わったら、もう読むものないかな、と思ったら、なんと鈴木敏夫さんの元見習いであり、川上さんの兄弟子にあたる石井さんが本を上梓したばかりだった。



 石井さんとは、彼がプロダクションI.G.に居た頃、「東のエデン」のプロモーションのときに知り合った。

 すごいタイミングで凄い(個人的に)タイムリーな本を書いたものだ。


 Kindle本ではないので、持ち歩いて読むしかないのがやや面倒だけど、鈴木敏夫さんの仕事術を間近に観察しながら、客観的に分析した本なので面白そう。相槌は打つな、とか、自分を捨てろ、とか。


 石井さん自身も凄いプロデューサーなので、読み進めるのが楽しい。

 まだ全部読んでないのでこの本についてはまた今度



 しかしとにかく、モノを売る、売り込む、プロデュースする、興行を成功させるというのが、想像していたよりずっと大変そうだということはわかった。それでも鈴木さんは狙ってヒットを出してる、それって無茶苦茶凄いことだと思う。


 外すときも狙って外しているというか、最初から「これは外しても仕方ない」というハズシ方をしてる。その潔さも凄いと思う。


 ヒットを仕掛けるって、簡単じゃないよなあ