個人情報保護で連携分断…自治体と病院
相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」の殺傷事件を検証している厚生労働省の検討チーム(座長=山本輝之・成城大教授)は、殺人容疑で再逮捕された植松聖容疑者(26)への対応について「措置入院解除(退院)後の関係機関との連携が個人情報保護の観点から分断されていた」と指摘する方針を固めた。措置決定や解除の判断については適切だったとする見通し。近く中間報告をまとめ、厚労省は病院と自治体などの情報共有を含めた退院後の支援制度の創設に向けた検討に入る。
検討チームは医師や障害者団体の代表ら9人で構成。植松容疑者の診療記録などを確認した専門家13人の評価などを踏まえ、問題点の洗い出しを進めていた。
植松容疑者は事件約5カ月前の2月19日、精神障害によって他人に危害を加える恐れがあるとして強制入院の措置が取られ、その後に「大麻精神病」などと診断された。当初は興奮状態で隔離されていたが、次第に落ち着き、尿検査で薬物反応も消えたことから、3月2日に退院。病院は退院後の外来通院の予約を取り、薬物依存治療が受けられる市外の施設も紹介した。
これらの診断や判断について、検討チームは「合理性がある」「標準的な診療水準を満たしている」との見解で一致。大麻使用の疑いを病院が警察などに通報しなかった点も「届け出義務はなく、制度上問題のある対応とは言えない」と判断した。ただし議論の中では、入院中に薬物依存治療に道筋を付けたり、双極性障害(そううつ病)などの可能性を考えて生活歴を調べたりするのが望ましかったとの意見も出た。
一方、退院後は、植松容疑者の居住地などについて関係機関が情報を共有しておらず、市は個人情報保護を理由に、転居先と聞いていた自治体や措置入院前まで働いていた「やまゆり園」に退院の事実も伝えていなかった。措置解除後の患者のフォローは自治体任せなのが現状だが、病院や行政の保健・福祉部門などが連携して支援を続ければ「孤立化を防ぎ、薬物の再使用リスクを減らすことができる」などと提言する見通しだ。
厚労省が再発防止策とする支援制度は、個人情報保護法に抵触しないよう本人の同意を前提に自治体が本人の所在を把握し、通院と並行して自宅訪問をするなどの仕組みを検討している。【熊谷豪、山田泰蔵】