『 ぼくと透明なネコ』(by 猫飼えないショウエイ)
・その5
「こんなに、うれしいことはない・・・」(by アムロ・レイ)
猫語り
短編『猫屋敷の夜』
漫画の週刊連載をしていたころ、仕事場のすぐ近くに、いわゆる「猫屋敷」があった。
立派とはいえない小さな造りの家に、たくさんの猫が出入りしていた。
総勢20匹くらいだろうか、大人もいれば、子猫もいる。大半が白を基調とした色で、太っているのは一匹だけ。やつがおそらく、ボスだ。
その家は、管理が行き届いていないのか、ちょっとした異臭も放っていた。周囲には近所迷惑扱いをされていたが、私は内心、うらやましさを感じていた。
パラダイスやんけ・・・・・・。
当時の私は、精神的にかなり追いつめられていた。
遅筆であるため、スケジュールに隙はない。
その週の原稿が終われば即、翌週の原稿をスタートさせることが必須だった。睡眠時間をどれだけ削ることができるかという、チキンレースでもしているかのような状態。
おまけに、読者の反応が芳しくなかった。
ここまで苦しい思いをして描く必要があるのか? といった現実逃避の気持ちもわいてくる。
雑誌での連載というものは、おなじ誌面に載っている他の作品との、椅子取りゲームだ。人気がなければ、すぐに席を奪われてしまう。
あのハードな日々を長く生き抜いている作家さんたちを、本当に尊敬する。そこにあるのは、誰よりも面白い漫画を描きたい、という情熱にほかならない。
他人の作品を読んで面白いと感じたときに、そんな自分を叱咤するような人間でなければいけない。悔しさを感じなければいけない。
私には、まだまだ情熱が足りなかったのだろうし、「嫉妬」という感情も欠けていた。
子供のころから、勝負事があると、勝てそうなときでもわざと負けることが多々ある人間だった。
負けても悔しくならないし、悔しがっている相手を見ることのほうが、しんどかった。
話がそれてしまったが、夏の終わりごろには、猫屋敷の住人のうち二、三匹は、私がふれることを許すようになっていた。
食事の買い出しに行った帰りに、その数匹をなでるのが、当時の私にとって唯一の楽しみだった。癒しだった。
ある夜、買い出しに向かったスタッフに、頼み忘れたものがあることに気づき、私も追うようにコンビニに行った。
少しでも早く仕事に戻りたい私は、会計をスタッフに任せて足早にマンションへと歩く。
猫屋敷の前に、ほぼすべての猫がでていた。夏の夜はそんな感じだ。
私が寄ると、おさわりOKのもの以外は散っていく。私は残った二匹を平等になでる。
・・・・・・ああ、幸せだ。
このほんのわずかな時間のおかげで、私はなんとか気力を保てている。ありがとうございます、お猫様。
とはいえ、つねに時間に追われている身だ。私は意を決して立ちあがり、マンションへと向かう。
お猫様たちは、少しくらいさみしさを感じて、私の後ろ姿を見つめていたりするのだろうか。ほのかな期待を抱きながら、振り返ってみた。
すると、追いついてきたスタッフが、お猫様に囲まれていた。
おさわりOKのだけではない、すべてのお猫様にだ。
それはまるで、スターに群がるファンのごとき光景であった。
な、なんで!? なにそのパラダイス!
私の中に、ないはずだと思っていた感情が猛烈にわきあがってきた。
嫉妬。
なんだよお前ら、その態度の違いは! もうなでてやんねえからな!
スタッフも、自分で描こうと思ってた大変な背景、あんたにまわすぞ!
つーかお前ら、なつきすぎだ! なんだその甘えた仕草、見たことないぞ!
どういうことだ、その人からマツタケの匂いでもすんのか? マツタケじゃない、かつお節だ。いや違うわ、なんだっけ、あ、マタタビだ。
えーい、気に喰わん。もうお前らとは絶交だ!
・・・・・・ウソです。
ごめんなさい。あなたがたに嫌われたら、私はわずかな気力も失い、もはや締め切りを守れなくなるでしょう。
どうか下僕扱いでかまいませんので、今後もかまってやってくださいませ。
あとスタッフさん、お猫様に好かれる術を、教えてください。
――しかしその後も、お猫様たちが、私のまわりにあれほどの群がりを見せることはなかった。
人望、といったものなのかもしれない。いや「猫望」というべきか。
嫉妬について学んだ夏の夜の話である。(おわり)
今日のおさわりOK猫
親子で寝る pic.twitter.com/fIxZisQoKg
— 猫猫アルバム (@catpic_album) 2016年8月14日
今日のアザラシ猫、もしくはエビフライ
(Yさん家の子)
今日の団子猫
(Mさん家の子)
今日のネコリョーシカ
だんだん大きくなる pic.twitter.com/Da7cVSu4G1
— アニマル画像館 (@go_animals) 2016年8月14日
今日の猫グッズ
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こりと心を癒してあげてつかーさい。
『ペットボトルくん』(by ショウエイ)
・その67
音楽も最高だった。まさかあの曲が使われてるとは・・・。
・Amazon『シン・ゴジラ音楽集』
(試し聴きアリ。あの曲は6曲目他、バリエーション複数)