ネコは平気で人のきんたまを踏む。
夏場の私は半裸である。もちろん家での話である。パンツ一枚がスタンダードである。その状態で小部屋の椅子に座って文章を書いている。コンピュータと向き合う原始人といった感じである。これについてはそういうものだと受け入れてもらわないと今回の話は始まらない。
椅子のうえでアグラをかくという妙な体勢で書くことが多い。ここにネコがやってくる。これが恐怖である。ネコは私のアグラに飛び乗ってこようとするのである。冬場は問題がない。ジーンズやら何やらを履いているからである。しかし真夏、パンツ一枚の状態で股間に飛び乗られるのは危険である。きんたまを守るものは布一枚だ。
しかも飛び乗ってくるのは影千代という我が家で一番の巨ネコである。体重七キロである。それが「くぅ~ん」というネコというよりは犬のような甘え声で小部屋に入ってくる。これは「おまえの股ぐらに乗りたいよお」という意味である。
影千代は床からこちらを見上げて、ジャンプのタイミングを計りはじめる。この時点で私の心臓は血流を増している。きんたまが無事で済みますように。私はふるえて祈っている。そして影千代が跳躍する。影千代が宙に浮いている一瞬、いつも心臓がキュッとなる。直後に股間に着地される。きんたまがグニッと踏まれる。きんたまグニッの心臓キュッ。
影千代は私のアグラの上でスヤスヤと眠りはじめる。
あなたは人の気持ちを考えたことはあるのですか。私はネコに言いたくなる。あなたはオスネコですよね。あなたにもきんたまがあるんだから、きんたまを踏まれることの怖ろしさは想像できるはずです。人にされて嫌なことは相手にもしない。これはとても大事なことなんですよ。小学生に道徳を教える女教師のような口調で語りかけたくなるが、言葉の壁があるから無効である。影千代の返答は「スピー」。
たまに「ピスー」。