連載「こっそり学ぶPPA(取得原価の配分)」 ①PPAとは?
PPA(Purchase Price Allocation:取得原価の配分)とは、M&Aにおける被買収企業の資産・負債の受入価格を買収企業において確定する会計処理であり、現在では、M&Aには必須の手続となっています。
特に留意すべき点は、買収時点の貸借対照表に既に計上されている資産や負債だけでなく、オフバランスとなっている、いわゆる無形資産の計上が必要な点です。
2010年の企業結合会計基準等の改正により必須となったPPAですが、未だ実務に定着しているとは言いがたい状況であり、一部のM&Aに慣れ親しんだ企業を除き、企業関係者からは「実際にどのように手続を進めればよいのかわからない」という声をよく耳にします。
そこでPPAの実務について、数多くの無形資産価値算定業務に携わってきた実務家の観点から、企業担当者が留意すべき点についてご説明します。なお、文中意見にかかわる箇所は、個人的見解であることをあらかじめお断りします。
(図表1)PPAにかかる無形資産価値評価のイメージ
(※筆者作成)
M&Aに必須のPPAとは?
PPAは、原則としてM&A実行後1年内での会計処理が求められます。買収企業にとってはM&A後の業績に影響する重要な会計処理であり、見積りの要素を含む性質上、多くのケースで企業の依頼を受けた外部評価機関が無形資産の価値算定を行います。
ただ、外部評価機関を利用する場合であっても、企業側には情報提供など一定の関与が求められます。
買収企業の経営企画や経理部門の担当者にとっては、外部評価機関とのコミュニケーション、社内関連部署への情報伝達、マネジメントへの報告や説明、監査法人との意見交換等々、さまざまな業務が生じるプロセスであり、適切なタスク・スケジュール管理とPPAの実務に関する理解が、手続をスムーズに進めるために必要となります。
【PPAのポイント】 ・日本基準においても、2010年4月1日以降より必要となった ・買収完了後、1年以内の処理が求められる
PPAにおける無形資産の評価は、「無形資産の認識」→「無形資産の評価」の2つのステップで行われます。
無形資産の認識
日本基準の場合、無形資産の認識要否は、
(1)分離して譲渡可能か(企業結合会計基準適用指針第10号58、59、59-2項)
(2)価額を合理的に算定可能か(同適用指針第10号367-2項)
という2つの要件を満たすかどうかにより判断されます。
PPAにおいて認識される無形資産には、図表2のようなものがあります。
このうち、商標(ブランド)、顧客との契約、特許権、契約関連資産などが、実務上認識されることが多い無形資産として挙げられます。
(図表2)PPAで認識されることが多い無形資産
区分 | 無形資産 |
---|---|
マーケティング関連 | 商標・商号 サービスマーク、団体商標、証明マーク 商業上の飾り 新聞のマストヘッド インターネットのドメイン名 競業避止契約 |
顧客関連 | 顧客リスト 受注残 顧客との契約・関連する顧客との関係 契約外の顧客関係 |
契約関連 | ライセンス・ロイヤルティ・スタンドスティル条項 広告・建設・経営・サービス・商品納入契約 リース契約 建設許可 フランチャイズ契約 営業許可・放映権 利用権 サービサー契約 雇用契約 |
技術関連 | 特許権を取得した技術 ソフトウェア・マスクワーク 特許申請中・未申請の技術 データベース 企業秘密(秘密の製法・工程等) 仕掛中の研究開発 |
(※筆者作成)
参考:企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第10号
https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/documents/docs/ketsugou/ketsugou_10.pdf
次回は、PPAにおける無形資産の評価について取り上げます。
[文]株式会社Stand by C 取締役/公認会計士・税理士 大和田 寛行
執筆者紹介 |
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(詳しくはこちらから http://standbyc.com/) 2010年1月に創業。極めて高度な専門性を持つプロフェッショナル集団としてM&Aに関わる会計・税務を中心としたアドバイザリーサービスを提供し、数々のクライアントのM&Aに関する意思決定をサポート。 |
アゴラ編集部より:この記事は「M&A Online」2016年8月23日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。
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