■VR空間へ
『ゼーガペイン』は今年で10周年。それを記念して2016年7月1日と8日にはVR空間でのテストイベントが行われ、15日には『舞浜サーバー起動テスト記念式典』が開催されました。これはおそらく世界初、史上初のVRアニメイベントです。
これを可能にしたのは株式会社クラスターです。社長は若き天才プログラマー加藤直人さん。ひきこもっていたとき、イベント行きたいけど出かけるのめんどくさいと思ったそうで、「ひきこもりを加速する」というテーマのもと、VR空間内に大人数が集まれるイベント空間を作り上げてしまったというわけです。
最先端VR技術が集約されていますが、クラスターへの集まり方は簡単。無料アプリ、その名も《cluster.》をダウンロードして、twitterアカウントでログインするだけです。クラスター社のホームページはこちら。
■VRゴーグル
というわけで、ぼくは自宅でVRゴーグルをかけ、VR空間に入る準備をします。視界にはノートパソコンのディスプレイと同じものが見えています。操作はキーボードとマウス。行きたいイベントを選んで、入場ボタンを押せば、自分の分身としてのアバターがVR空間内のイベント会場の入り口に!
VRゴーグルをかけていれば首の向きに合わせて視界が変わっていきます。しかもVR酔いしないように、視界は滑らかに動くのではなく、一定角度ごとに断続的に動きます。認知科学の知見がVR技術に反映されているのです。これはもう完全に『ゼーガペイン』の場面です。VR元年は今年2016年。『ゼーガ』はその十年前、2006年にすでにVRを作品の重要なポイントにしていたのです。
©サンライズ・プロジェクトゼーガ
■VR会場とアバター
さすがハードSF『ゼーガペイン』ファン、事前の告知期間はやや短めでしたが、開演前からたくさんの人がVRイベント会場に集まっていました。大きな会議場やコンサートホールのように、階段状に席があって、一番下にステージ、そして会場全体は星空の全天球に覆われています。ぼくは会場上にある入り口から階段を降りていって、すでにVR空間に入っていたゼーガのデザインディレクターであるハタイケさんに御挨拶を。
《cluster.》内では会場を自由に歩いたり走ったりできる他、拍手や笑い声が出せて、ジャンプもできて、他の人のアバターと触れ合うとハイタッチもできます。このインタラクションのある身体性のおかげで、イベントの動画を見ているのとはまるで違う、みんなと時間を共有している感動が深まるのです。しかも今回クラスターさんのご好意で、『ゼーガ』内で選ばれし者の額に浮かぶセレブアイコンが自分のアバターの前に出せる機能も!
■世界初のVRアニメイベントスタート
今回のイベントは応援メッセージ、新しいゼーガのコンセプト発表、そしてSFトークと盛りだくさんの内容です。
主人公のソゴル・キョウの声優である浅沼晋太郎さんと、その幼なじみカミナギ・リョーコを演じた花澤香菜さんからのメッセージで、会場はさっそく盛り上がりました。《cluster.》では画像や動画をみんなで見ながら、近くのアバターのリアクションやコメントも見ることができるので、現実のイベント会場と同じように体験を共有できます。
■SFトークスタート
続いてハタイケさんからinfo-zega、「情報のゼーガ」という新しいコンセプトが発表されました。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)についての技術がこれからさらに発展するにつれて、たとえば《花に触れる》という体験も、現実だけでなくVRでもARでも可能になっていきます。ぼくたちの現実がVRやARと融合しながら拡張していくわけです。
後半は加藤さんとぼくにバトンタッチです。加藤さんは京都大学大学院で量子コンピュータを研究していて、その後このVR空間を作っておられます。量子コンピュータもVRも『ゼーガペイン』のSFエッセンスであり、加藤さんは両方の専門家というわけです。そしてぼくもちょうど連載インタビューエッセイ「想像力のパルタージュ」で理化学研究所の量子コンピュータ研究者に取材したばかりで、結構ハードなトークになりました。
■量子コンピュータをSF考証する
量子コンピュータ研究はこれまで理論面が目立っていましたが、ここ最近は実際に動く量子コンピュータが様々に実現化され、基礎研究が進んでいます。量子コンピュータは、電子や原子あるいは分子といったミクロな粒子の量子状態を使って、古典コンピュータでは扱えない量子アルゴリズムを実行する計算機です。古典コンピュータであるスーパーコンピュータよりも速い問題もありますが、必ずしもすべての問題で量子コンピュータが有利なわけではありません。
『ゼーガペイン』ではこうした物理学的な知見を巧妙にSF設定に取り込んでいます。主人公たちは自らを量子情報と化しているのですが、量子情報は非常に壊れやすいため、常に主人公たちは苦労することになります。また、量子情報は複製できないという量子複製不可能定理が実際に量子力学にはあるのですが、これは主人公たちの量子情報が転送されるたびに破損していくという設定に盛り込まれていて、物語にSFの側から緊張感を与えています。
©サンライズ・プロジェクトゼーガ
SF設定は科学をムリに物語に落とし込むものではなく、物語をSF的により魅力的にするものだということは、多くのスタッフのみなさんから教えられています。『ゼーガペインADP』でも量子コンピュータ他、様々な先端研究を物語に取り入れていますのでご期待ください。
■これからのVRイベント
ハタイケさんのinfo-zegaというコンセプト発表も加藤さんとぼくの量子対談もかなり濃い内容になりましたが、VR空間のカッコよさもあって、参加したみなさんは楽しまれたようです。大学の講義みたいだったけど面白かったなど、感想がすぐに可視化されるのもVRだからこそ。最後はみんなでセレブアイコンを出しつつ記念撮影をしました。
©クラスター
VRゼーガイベントは今度も開催される予定です。今回のVR会場は今も開放されていますので、ぜひアバターの身体性を感じてください。
■次回予告???
ぼくはログアウトしてVRゴーグルを外します。
「緊張したかナ?」
ソファの上あたりに何かがフワフワと。
「あれ、きみこのまえの打ち合わせのときもいたよね? 確か執筆支援AIって」
ぼくのメガネはAR対応ではもちろんありません。
「次回は何を書くか決めたかナ?」
「まだなんだよ」
「じゃあ早速、執筆支援しましょう。SF設定のビジュアル化、デザインについて書けばいいんだナ」
(次回へ続く)