2007年に発売された「iPhone」はスマートフォンの代表格だ。今では忘れがちになってしまうが、それ以前にもスマートフォンは存在した。この記事ではそんな「iPhone以前のスマートフォン」を振り返りたいと思う。
iPhone以前のスマートフォン、覚えていますか?実は20年あるスマホの歴史
目次
スマートフォンとは?
スマートフォン、と聞くとどんな形状のものを思い浮かべるだろうか。
平べったい板状。筐体全体がディスプレイになっていて、全面タッチパネル。ほぼ全員がそう思い浮かべるだろう。
それらはすべてiPhoneの特徴であり、同時にあらゆるスマートフォンの特徴でもある。
しかし、あなたはiPhone以前にもスマートフォンがあったこと、覚えているだろうか?
iPhone以前のスマホ、覚えていますか?
「スマートフォン」という言葉を使い出したのはiPhoneではない。その歴史は意外と古い。
日本では1999年の時点で「スマートフォン」という言葉は確認できる。その年の4月に発行されたNEC技報では、「モバイルコンピューティングの技術動向」という特集でスマートフォンの現状についてまとめられている。
そこでは「携帯電話とPHSにPDAの良いところを取り込んだ一体型端末」として紹介されている。
iPhoneの祖先は「携帯電話」ではない
PDAとは「携帯情報端末」と言われるもので、携帯電話とは別のものである。これはEメールやインターネットができる携帯デバイスのことだ。代表的な機種にAppleが開発した「Newton」、Palm社の「Palm」がある。
実はスマートフォンの祖先は携帯電話ではない。スマートフォンは携帯電話が進化したものではなく、このPDAに通話機能を追加したものだ。
元々、携帯電話はインターネットに繋げることはできず、Eメールも独自のアドレスが割り振られていた。パソコンと携帯電話でメールを参照し合ったり、カレンダーを同期したりすることはできなかったのだ。あくまで携帯電話は野外で通話できることが機能の中心であり、添え物としてEメールがあった。
逆にPDAはEメールの利用やインターネット通信が機能の中心である。その両方を合わせたものがスマートフォンということだ。
携帯電話とスマートフォンは出身からして違うものであり、その歴史も別々である。
PDA(携帯情報端末)が進化したのがスマートフォン
井上真花、山田達司、田中裕子『Palmクロニクル』(技術評論社)114Pより引用
2001年、代表的なPDAである「Palm」の開発者であるジェフ・ホーキンスが発表したスマートフォンが「Treo」だ。
「Treo」はPalmに通話機能が追加された機種である。特徴は、画面下にキーボードを設置したこと。それまでのPDAはスタイラスペンによる手書き入力が主で、これでは両手を使う必要があり、不便だった。キーボードを付けることにより、片手での入力が可能になり、利便性が上がったのである。
これ以降、スマートフォンはどれもこの形式を踏襲していく。
2002年にはマイクロソフト社がスマートフォン用のOSを開発。各企業でこのOSを搭載した機種の開発が進んだ。こうしてスマートフォン市場は徐々に活況を向かっていく。
「スマホ」の代名詞だった「Blackberry」
井上真花、山田達司、田中裕子『Palmクロニクル』(技術評論社)118Pより引用
こうしたなかで、頭一つ抜けたのがカナダのRIM社が開発した「BlackBerry」だろう。
BlackBerryの特徴は、個人向けではなく、法人向けに特化して販売したこと。企業アカウントのメールアドレスと同期できるようにし、これによってビジネスマンを中心に普及が進んだ。2004年の時点で、約3万社がBlackBerryを採用している。ニューヨーク市の消防庁やロサンゼルス市警察も貸与端末として支給していたという。
その象徴的な存在がバラク・オバマだ。2008年の大統領選で、オバマがBlackBerryを操り、ツイッターを駆使する姿は、先進的な大統領像として受け取られた(余談だが、当選後にオバマ自身がツイッターに投稿していたわけではないと判明して話題になった)。
携帯電話とスマートフォン、どう違う?
ここで携帯電話とスマートフォンの違いをおさらいしよう。
- インターネットに接続できる(昔は接続できないか、モバイル版のWebサイトしか見られなかった)
- メールやスケジュールをPCと同期ができる(昔は携帯電話独自のEメールしか使えなかった)
- 無線LANが使用できる(昔はそんな機能なかったのだ!)
スマートフォンが日本にやってきた!
こうして欧米では徐々にスマートフォンが浸透していった。
この流れを受けて、独自のスマートフォンを開発する日本企業も現れる。
2005年12月14日、WILLCOMが「W-ZERO3」を発売したのだ。
伊藤浩一、霧島煌一、ぬりかべ魔神、重森大、ジョルス『W-ZERO3の本』(毎日コミュニケーションズ)5pより引用
シャープと共同で開発した国産スマートフォン。PHSによる音声通話、Eメールの送受信、Webサイトの閲覧、ワードやエクセルの閲覧・編集が可能な機種である。
伊藤浩一、霧島煌一、ぬりかべ魔神、重森大、ジョルス『W-ZERO3の本』(毎日コミュニケーションズ)9pより引用
スライド式のキーボードを採用している。当初は10万台を目標にしていたが、半年で15万台を売り上げた。
日経トレンディが発表している「06年ヒット商品ベスト30」では5位にランクイン。ちなみに1位は「ニンテンドーDS Lite&鍛脳ゲーム」、2位は「軽自動車」、3位は「資生堂 TSUBAKI」4位は「mixi」と並んでいる。
また、NTTドコモは「FOMA M1000」を発表。
武井一巳『スマートフォン FOMA M1000 徹底活用マニュアル』(メディア・テック出版)9pより引用
これはNTTドコモが組み立てた独自のモバイルインターネット環境である「iモード」が使えないことで話題になった。無線LANの使用や、Outlookとのメールやスケジュールの同期が可能である。
これに備えて、地下鉄の無線LAN状況を拡充したというのだから、強い力の入れようである。
そして、ボーダフォン(現・ソフトバンクモバイル)は、ノキア開発のスマートフォン「Nokia 6630」を国内向けにローカライズして発売。各社、海外のスマートフォン市場の拡大を受けて、それを取り込もうとしていたのだ。
徐々に増えていくスマホユーザー、だけど……
日本にもスマートフォンが出てきたが、爆発的な普及とまでは行かなかった。多くの携帯電話ユーザーは、スマートフォンには移行しなかったのだ。
2006年にインプレスR&Dインターネット生活研究所が出した「スマートフォン利用動向調査」によると、以下の調査結果がわかっている。
- スマートフォンの認知度は全体の18%
- そのうちの42%のユーザーは「買い換えるほどではない」と思っている
- スマートフォンに移行しない理由は「一般の携帯電話の機能で十分」「使いづらそう」「端末価格が高い」
多くのユーザーが、スマートフォンには消極的だったのだ。
そして世界が変わった
2007年、世界はそんな幹事だった。スマートフォンは存在していたが、それほど認知はされていなかった。知っている人でも「使いづらそう」と、乗り換えるのを躊躇していた。ほとんどの人は今の携帯電話で十分だと思っていたのだ。
それが変わってしまうのが、2007年の1月。
スティーブ・ジョブズによるiPhoneのプレゼンテーションである。
スタイラスペンを廃止して、指で操作ができるタッチスクリーンへ。キーボードを取り払って、全面タッチパネルへ。
今までのスマートフォンを改良して、アップルがより良いスマートフォンを販売する。その宣言が行われた。
当時、「iPhoneが本当に普及するのか?」という議論は散々行われた。その答えは、今の世界を見渡せばわかる。
iPhoneは普及するどころか、すべてのスマートフォンのデファクト・スタンダードとなったのだ。
もうすぐiPhoneは誕生10周年になる
多くの人がスマートフォンに乗り換えた。たった1つの商品が、市場を塗り替えていった。
そして来年は、iPhoneが誕生してから10年になる。そろそろ、また新しい波が起きそうな時期だ。世界のどこかで誰かが、世界を変える新しい製品を作ろうと、せっせと手を動かしているのだろう。
世界が変わるのは、明日かもしれない。
【参考文献】
伊藤浩一、霧島煌一、ぬりかべ魔神、重森大、ジョルス(2006)『W-ZERO3の本』毎日コミュニケーションズ
井上真花、山田達司、田中裕子(2007)『Palmクロニクル』技術評論社
インプレスR&Dインターネット生活研究所(2006)『スマートフォン利用動向調査』インプレスコミュニケーションズ
武井一巳(2005)『スマートフォン FOMA M1000 徹底活用マニュアル』メディア・テック出版
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