19:55:56
帰宅の途。快速電車に飛び乗る。ドアが閉まる。鞄の角がドアに挟まる。A4のクリアファイルから飛び出す書類。『品質管理報告書』『夏季賞与明細』『新規事業企画』『健康診断結果』の文字が一瞬の内に目に飛び込む。はらりはらりはらり落ちる。
19:55:57
座り込む。書類をかき集める。乗客の視線を痛いほど感じる。羞恥心。吹き出す汗。猛スピードでクリアファイルにしまいこむ。あと一枚。ピンク色の書類がピンク色のスカートを履いた女性の足元に落ちている。女性が『健康診断結果』を拾ってくれる。
19:55:58
二人座り込んだまま。女性の目が『健康診断結果』に釘付けになる。羞恥心。吹き出す汗。ピンク色のスカートに落ちる水滴。汗。僕と彼女の汗。焦る二人。乗客の視線を痛いほど感じる。口を開きかける彼女に僕は視線で訴える。やめろやめろやめろ。
19:55:59
二人見つめあったまま。視線で会話する。『あなたこれ大丈夫なの?』『心配ない君こそ大丈夫なのか?』『私のことなんかほっといて。あなたこれ本当にまずいわよ?』『分かってる。君にそんなこと言われたくない』見つめあったままだった視線が、離れる。
19:56:00
僕の胸は高鳴り、彼女をもう一度だけ見たいと願う。100%僕の好みのタイプだ。性格なんてどうだっていい。これから先、僕が女性を外見だけで、これほど好きになることはきっとない。一目で記憶に焼き付ける!
僕は視線を戻す。彼女は僕を見つめたまま。
丸っこい目が訴える。
『あんたイカしてる』
丸っこい目で応える。
『僕は君に恋をした』
丸っこい手を繋ぎ僕たちは電車を降りた。
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