人と接するのが苦手な人は、思ったよりたくさんいる

pixivで累計480万PVを記録し、6月に書籍化して話題となっている『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』。28歳、性的経験なしの永田カビさんが、「レズビアン風俗」にいくまでの一部始終を赤裸々に綴った実録マンガですが、単なる体験記ではなく、自身の内面に向き合い、自分の人生を取り戻していく姿に、多くの人の共感と感動を呼んでいます。著者の永田カビさんに、書籍化の裏話や、現在の心境、家族とのかかわりかたなどをお聞ききしました。

「これでみじめな思いをせんで済むぞ〜〜」と思った

—このたびは『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』重版おめでとうございます。初の単行本にもかかわらず、もう4刷までいったとか。

永田カビ(以下、永田) ありがとうございます。じつは私はまだ、自分の本が並んでいるのを見れていないんですけど……。

—え、そうなんですか?

永田 大阪の中心部に住んでいるのに不思議ですよね……9軒くらい回ったんですけどね! なので「書店で自分の本が並んでいるのを見ての実感」のようなものはまだ感じられていません……。

担当編集 予想以上の大反響で、2刷までが一部の書店とネット書店で消えてしまい、とり急ぎ重版しつつ全国をカバーしている……という状況です(7/19追記:5刷も決まりました)。電子書籍版も出ましたので、そちらもぜひ。

—累計480万PVを記録したpixiv版の「レズ風俗レポ」。書籍化の話をもらったときはどう思いましたか?

永田 まあ、ありがたくも多くの方に読んでいただいた時点で「あわよくば……」とは思っていました。5%くらいは期待していたのが見事に実現して、人生最大にうれしかったし、これでみじめな思いをせんですむぞ〜〜〜!と高笑いしました。

—高笑い(笑)。

永田 ちょうど、webマンガやSNS発のマンガが話題になって書籍化する流れがメジャーになってきたタイミングで、もう他人のマンガを読むたびに「どうせこれも書籍化だろ……ほらやっぱりした……!」と眺めながら嫉妬でのたうちまわっていたので……。

—永田さんらしいエピソードですね。書籍として手にとった方からは、pixivで読んだ方とはまた違った声も届いているでしょうか?

永田 書籍の場合、表紙やタイトルがあるぶん、買う前の印象と読んだ印象のギャップについての声が多かったですね。表紙は裸の女の子ふたりで、タイトルではバーンと「レズ風俗」と入っていますし……。否定的ではなく、肯定的だったのがありがたいですが。お金を払って買っていただいているというのもありますし、本ならではの反応だなと思いました。

フィクションよりもノンフィクションのほうが恥ずかしくない

—色っぽいものを期待して買った方は驚くかもしれませんね。単行本の表紙にまで登場してしまったレズ風俗のお姉さんからは、何か反応はありましたか?

永田 あれからお会いしてないし、反応も聞けてないですね……。単行本のおまけでも描きましたが、お店自体はあれからも何度か利用しているんですが同じお姉さんではないので。あと、作者が聞いても正直な感想は言えないだろうし……。
 お店の方はpixivで話題になったときから「これ、うちの店です!」と反応してくれて、公式Twitterなどでも 「レズ風俗レポ」関連の感想などを検索してふぁぼったりされているんですけどね。おかげで自分でエゴサする手間が省けています(笑)。

—単行本では、永田さんの「さびしさ」の歴史の描写に紙幅がさかれています。「こういう内容を加筆しよう」というのはどういった経緯で決まったんでしょうか?

永田 これは、出版社の人との最初の打ち合わせのときに、私が言いました。「何を一番描きたいですか」と聞かれて、「レズ風俗に行くまでの過去10年くらい」と。

—ここまで自分の内面をさらけだしたものを描くというのは、かなりハードルが高い行為に感じたのですが……。なかなか壮絶な体験を描かれていますが、フラッシュバックなど起きませんでしたか?


永田 なんか、思った以上に快適でした。私はもともと別名義デビューして雑誌でフィクションの読み切り漫画を描いていたんです。でも、ものすごく行き詰まって……。フィクションって、その内容は作家の内側から生まれるものなので、結局内面をさらけだして裸にならないといけないのはノンフィクションと同じなんです。でも、どうやら私はフィクションの場合、それがうまくできなかったみたいで……納得いく出来にならなかった。失敗しているのを見られるのもまた恥ずかしくて、どんどん萎縮していって、本当につらかったですね。

—そういう経緯があったんですね。

永田 それに対して、ノンフィクションだとむしろ恥ずかしくなくて……なんででしょうね(笑)。フラッシュバックのようなことも起きず、それどころかつらかった気持ちが昇華されていってすっきりしました。

—たしかに、読んでいるこちらもいろいろな思いが「昇華」されるような作品だなと思いました。

あなたが特別ダメなわけじゃないよ、と伝えたい

—絵柄が別名義時代とはかなり違ったテイストですが、作品に合わせて絵柄を変えたのでしょうか?

永田 「レズ風俗レポ」は、描きやすくて省エネできる絵柄です。別名義時代は、めちゃくちゃ絵柄が濃くて気合い入りまくってる人たちがひしめいてるような雑誌で描いていたので、そのテイストに合わせていたんです。その雑誌の担当さん曰く、誌上で他人のマンガと並んだ時に負けないようにと、マンガ家さんたちの間で絵柄の濃さのインフレが起こってる状態だったらしいです……。

—絵柄のインフレ(笑)。

永田 それもなかなか負担だったのかもしれない……。もちろん、それで画力を鍛えていただいた部分もあるので、良い経験ではありました。「レズ風俗レポ」を描くときには、人が「オッ?!」と気になって読んでくれそうなものを描こうと思っていたので、そちらに重点をおくためにも、絵柄の省エネをしようと決めて今の絵柄になりました。


永田さんの作業現場

—つまり、「レズ風俗レポ」は、そういった意味でも「素の永田さん」が表れた作品だということですね! 書籍化により多様な反応があったということですが、もらってうれしかった感想はありますか? やはり「共感」されるとうれしいんでしょうか。

永田 共感そのものもうれしいですし、誰かが少しでも楽になれたなら、それはとてもうれしいと思っています。「自身の苦しみが言語化されてて読んで楽になれた」とか、自身のプラスの変化を添えて感想をくださる方もいて。

—コミュニケーションや性的経験についての悩みというのは、悩んでいてもなかなか人に打ち明けられないことだと思います。

永田 そうですよね。マンガを描いている時点では、「わかりやすく描けてるかな……?」という表現のことでいっぱいいっぱいで、そこまで思い至らなかったので、読者の方自身にそういう影響を与えられたということにびっくりしました。

—いま、人とのコミュニケーションや自分の「さびしさ」に悩んでいる方に、あらためてメッセージはありますか?

永田 えっ!? どうしよう……そんな……。

—落ち着いてでいいですよ! 同じ立場からで……!

永田 う~~ん…… 人と接するのが苦手な人は、人と接していないので、隠れていて可視化されていないんだと思いますが、思ったよりたくさんいるので、あなたが特別だめなわけじゃないですよ!とだけ……。

—「みんなはできているのに」という焦りはありますよね。だからこそ今回の「レズ風俗レポ」を通じて「私もだよ!」と言いやすくなったのではないかと思います。

永田 そういう影響が生まれているなら、とてもうれしいですね。


次回「“人肌”は、自分のすべてを救ってはくれなかった」は7/28公開予定

(聞き手・構成:平松梨沙)


pixiv閲覧数480万超の話題作、 全頁改稿・描き下ろしで書籍化。

この連載について

さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』永田カビインタビュー

永田カビ

pixivで累計480万PVを記録し、6月に書籍化して話題となっている『もっと読む

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コメント

s_yut 「皆はできているのにという焦り」が分かりすぎる。これけっこう刺さる本かもなあ 約2時間前 replyretweetfavorite

coroMonta 話題の漫画家さんや~と思って読みきったら聞き手がひらりささん。 ┃  約2時間前 replyretweetfavorite

sarirahira 前編のトピックは ・書籍化が決まったときに高笑いした ・レズ風俗のお姉さんの反応は? ・別名義時代のこと ・読者の反応に思うこと などなどです https://t.co/oPoah1hWSJ 約3時間前 replyretweetfavorite

sarirahira 絶賛5刷決定、『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』永田カビさんのインタビューをしました! https://t.co/oPoah1hWSJ 約3時間前 replyretweetfavorite