恋人選びの条件の話題になったとき、「彼氏にするなら価値観が合う人がいい」「尊敬できない相手とは付き合えない」と語る女の人は多い。
しかし、私は過去に、恋人のことを尊敬していたことなど一度もない。 価値観が合う合わないも、どうでもいいと思っている。元カレたちと私の価値観が合っていたのかズレていたのかどうかも分からないほど、気にしたことがない。そこには本当に興味がない。
一緒に仕事をするのであれば、価値観は合っていた方がいいし(そうでないと、すり合わせなければいけない局面が多々出てくるから大変)、たとえば、上司や先輩のような、こちらがその人の傘下に入って活動する間柄であれば、従わなければいけない相手のことは尊敬できないとキツいから尊敬できる人を選びたいなと思うけれど、恋人という間柄においては、価値観の一致や尊敬が必要になってくる場面がないじゃん、と思う。
だって私は、恋人とは語り合わないから。お食事デートもしないし、お出かけもしないから。
「あなたとしかできないこと」をしたい
どういうことかというと、私にとって恋人とは、ひとえに、性行為担当の相手なのである。 「あなた彼氏ね、私は彼女ね」という風に話がまとまった日から、そこには「他の人とは性行為をしてはいけない」という制約が発生する。 その流れもふまえ、恋人としかできないことって何だろう、と考えたら、それはお出かけでもお食事でもお喋りでもなく、性行為だ。他のことは、どれにしたって友達ともできるし、恋人がいる時期に他の人としても問題にならない。でも、性行為は、他の人とすると大問題になる。
なので、私としては、恋人とはひたすら性行為がしたい。一緒にいる間中、ずっと「あなたとしかできないこと」をしたい。学生時代ならともかく、社会人になったらほとんどの人が週5日は仕事を頑張ってクタクタになっていて、まともな体力のある状態でしっかり会えるのなんて多くて週2日あるかないかだ。
週2日しかないのに、他の人ともできることをして遊んでいる場合ではない。お出かけやらお食事やらお喋りなんて、二の次三の次すぎて、しいて言えばゴールデンウィーク規模の連休なら採用してもいいけれど、たった週2日の恋人との時間を大切に過ごすにあたっては、もはや出番がない。そこに恋人がいるのならば、私はとにかく、性行為がしたい。だってこれは、あなたとしかしたくないことだから。あなたがいる時じゃないとできない、唯一のことだから。
なので、私は恋人と、いわゆるデートをしない。付き合ったら、ひたすら密室に引きこもってイチャイチャだらだらと過ごす。外には行きたくない。外など他人が邪魔なだけだし、行きたいデートスポットなどない。
そもそも、好きな人がコンテンツとして一番面白い。遊園地でジェットコースターに乗るよりも彼の膝の上の方に乗りたいし、映画を見るよりも彼の目を見ながらキスしてる方が楽しい(好きになった人と恋人関係になる前は、動物園に行ったり、バーでデートしたりするけれど、それは仕方なくやっていることだ。デートは好きな人と付き合うための伏線としては、どうしても必要なことなので、そこは受け入れて頑張っている。「これは伏線……付き合うまでの辛抱だ……」と思いながら、無理してこなしている。決して乗り気ではない)。
彼に対して尊敬が芽生えるキッカケがない
そこに彼氏がいたら、私はとにかく性行為がしたい。語り合う気はない。それに、喋りすぎるのはエロい目で見れなくなるキッカケになったりもするし、カップルが語り合うのは性的な意味でリスキーなので避けたいという気持ちもある。彼に「仕事でこんなことがあってね」などと相談をしたりもしないし、「今週どうだった?」などと彼の近況を訊いたりもしない。顔を見たら、ただ駆け寄って抱きついて、部屋に入ったら彼の膝に座って顔を近づけたりしているだけなので、深い話なんてしない。
だから、恋人と私との間には価値観の出る幕がないし、尊敬が芽生えるキッカケがないので、もしかしたら彼は尊敬に値する人材かもしれないけれど、それを知る機会がない。
「そうは言っても、彼とは普通に会話するわけでしょ? 深い話じゃなくても、考えが食い違ったりすることとかないの?」と訊かれることがあるけれど、彼が何かを話している時、私は「喋ってるなぁー」としか思っていない。喋っていて、可愛いなぁ、と。仮に、彼が話す内容に対して「ん?」「それはよく分からない」と思ったとしても、この会話はミーティングじゃない=統一の見解を出さないといけない場面ではないから、価値観がどれだけズレていようと私の意見をぶつける必要が一切ないし、そうなってくると、何かを話している彼、というのは、ただ「好きな人が口を動かしてて可愛い」「好きな人が声を出していて可愛い」という微笑ましい景色であり、「喋ってるなぁー」と思っているうちに、話は終わる。
そんな私が、彼氏にする相手のどこを見るのか、何を大事に恋人選びをするのか、と言えば「性行為の良さ」となる。だって性行為係の人だから。
性行為の良さは、実際にしてみないとわからないことだけれど、良い性行為をしそうな男の人を選ぶようには、している。
これまでの連載に登場した、私が一目置いた男の人たちも、良い性行為をしそうな可能性を秘めている人だった。例えば、靴にインソールを入れていた彼。一緒にいる女性のためにインソールはくくらいの、やれるだけのことをする気がある男性は、性行為に対しても、「せめて俺にやれるだけのことはする」というスタンスがありそうだ、と期待が持てる。だから一目置いていた。
どうりで床上手なわけだ
数年前、当時の彼と一緒にカレー作りをしていた時のこと(お食事デートは気乗りしないけれど、長時間一緒にいればホテルなり家なりで一緒に食事をとることは多々あるし、それは性行為の延長なので楽しい)。
とても料理上手な彼だったのだけど、一切レシピを見ない人だったので、一体どういう感覚で料理をしているのか私はいつも不思議に思っていた。
「美咲ちゃん、俺バター買ってくるから、この玉ねぎ切っておいてくれない?」
「わかった。どのくらいで切ればいいの?」
「え?薄切りで」
「いや、薄切りじゃわからないから、どのくらい?」
「え、だから適当に」
「適当とか、わからないから。何ミリ?」
「え、だから、食感が残る程度にだよ」
この人は、食材を刻んでいる時点で、ここから炒めて、さらに煮込んで、その後に残るその食感を見すえていたのか。 そこまで見通した上で、包丁を入れる厚みを決めていたのか。
その時に私は、なるほど、そういう感覚で生きてたら、どうりで床上手なわけだわ……と合点がいったのだった。
(次回8/3更新予定)
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