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フォークをはじめて、歌の力に気がついた-「オトコ」の生き方(泉谷しげるさんコラム-第2回)

コラム

「オトコ」の生き方

家が火事になって、一人でもできるフォークをはじめた

16~17歳のときに組んでたアマチュアバンドでは、洋楽のコピーばっかりやっていた。ローリング・ストーンズの曲はコードが3つしかないから、よくコピーしていた。ビートルズの曲は凝り過ぎで難しい。もちろん、ストーンズだって簡単に弾けないんだけど、教則本としては最高だったよ。他にもブルースとかソウルとか、みんな大人っぽいものに憧れていた時期。綺麗な女性に「一緒に飲まない?」と誘われて、見た目は立派なマダムなのに年を聞いたら「18歳だ」って言うから驚いた。そんな時代だった。

オイラはロックをやっていたから、別にフォークは好きじゃなかった。でも、メンバーの楽器を家で預かっていたのに漏電で火事になって、全部燃えちゃった。それで楽器を弁償しないといけなくなって、アルバイトしたんだ。そんなとき、ふと「フォークをやるなら、自分一人でいいんだ」って気づいたんだ。フォークは、ロックと違って知性的でキレイ。まあ、オイラは野性的な「お汚れフォーク」だったけれど。演奏も、エレキギターと違って増幅で誤魔化せないから、テクニックがいる。仕方ないからイチから練習し直した。指も痛いし大変だったから、リードギターじゃなくて、ボブ・ディランやジョン・レノン的な、リズム・ギターでいこうと決めた。

泉谷 しげる(いずみや しげる)

衝撃的だった忌野清志郎の歌!

フォークは生ギターだから、歌詞がよく聞こえる。ジョン・レノンの素晴らしいところは、誰にでもわかる言葉を使って歌詞を作るところ。それであれだけの浮遊感を出すんだから、凄いと思う。ボブ・ディランの歌詞は、男の愚痴だよな。知的なフリして言葉をこねくり回して、「何だコイツ」って思ってた。実際に演奏を見たら凄くて、びっくりしたけど。日本人で言うと、フォーク・クルセダーズの北山修さんなんかも、難しい言葉を使わない。

あとは、声、ボーカルの力、歌の凄さ。ボブ・ディランも凄いけど、忌野清志郎は次元が違った。ただのショーじゃなくて、その場の空気を征服しちゃう。ボーカルで和ませもするし怒りも感じさせるし、次元を超えさせる。セックスアピールって言った方がいいのかな。歌を聞いているだけで、ソイツが素晴らしい人間だと思える(笑)。忌野清志郎率いる初期のRCサクセションは衝撃的だった。「これはプロになるぞ」とオイラが思った最初のバンドだったよ。

歌手じゃなくても、声の良さは大切だと思う。たとえば渥美清さんは、顔はメチャクチャだけど声が凄くいい。経営者でもいい声をしている人は、それなりの地位にいる。単にキレイな声っていうだけじゃなくて、ガラガラ声でもどこか“引っかかるところがある”、個性がある。フォークシンガーで言うと岡林信康さんは凄いし、矢沢永吉も吉田拓郎も、みんな声の個性がある。

若い奴らが活躍できる場を作る

最近の若い奴らの歌や声は、みんな似たような感じで、どれが誰だかすぐにわかんないのも多い気がする。機械が良くなったせいか、曲自体のボリュームばっかり上がっている。昔は機械も楽器も良くなかったから、「マイクがなくてもやるぞ!」っていう意志があった。だから、美空ひばりさんとか、人の力の凄さを感じられたよ。今は機械に頼って、怠けちゃってるんじゃないかなあ。

でも若い奴らにそんなことを言っても、やっぱり新しい人が出てこないと盛り上がらない。オイラが若い頃は、大人がオイラたちを理解して拾ってくれたから、今までやってこられた。だからいずれは、オイラが若い奴らに場所を作ってやらなくちゃいかんと、ずっと思っていた。だからイベントには、若いミュージシャンを呼ぶ。まあオイラは場所を作るだけで、その後は本人の実力次第だけどさ。

大御所っていうか、ある程度昔がよかった人っていうのは、余計な大物感を持っちゃってるんじゃないかな。でも「お前だって最初は大したことなかっただろ!」って言いたくなる。大体、海外のアーティストなんて、ドラッグやら借金やらで人気が無くなったら再結成して、って繰り返してるけど、そういうことやっちゃダメだよな。

自分のことを嫌いな奴を振り向かせてこそのエンターテインメント

音楽をはじめ、エンターテインメントっていうのは、貧乏人や不幸を背負ってる人を励ますためにあるんだと、オイラは思う。フォークやロックをやっていた奴らは、自分が金持ちになっちゃうと、つまらなくなっちゃう。ある大物ギタリストがイベントで演奏したんだけど、ウチの客は態度の悪い奴らが多いから、ソイツにむかって「チャラチャラ弾くんじゃねえ!」ってヤジを飛ばしたんだ。そうしたらそいつ、マジギレしちゃって、「やったるか、おらぁーー!」ってものすごい演奏をしたっていうことがあった。まあ、ソイツが誰とは言えないけど……Charなんだけど(笑)。怒りのパワーって凄いよ。

昔の客はナマイキだったから、「なんだ、その弾き方は!眠くなるぞ!」とか誰にでも平気で文句を言った。でも客が強いと面白いし、こっちが鍛えられる。もちろん、もう一度あの時代に戻りたいっていうわけじゃないけれど、自分のことを好きな客だけを相手にしてちゃ、ダメ。昔は公園でギターの練習をしてると、「ウルセエ」って缶を投げつけられたりした。そういう相手に「オッ?!」と思わせられるのが、本当の芸だし、エンターテインメントなんだと思ってる。

※このコラムは、保険市場コラム「一聴一積」内に、2016年2月25日に掲載されたものです。

⇒泉谷 しげるさんコラム「『オトコ』の生き方」第1回を読みたい方はコチラ

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PROFILE

泉谷 しげる (いずみや しげる)

泉谷 しげる (いずみや しげる)

シンガー・ソングライター、俳優、タレント

1948年青森県生まれ、東京都出身。1971年にアルバム「泉谷しげる登場」でデビュー。翌年発表のアルバム「春夏秋冬」の表題曲がヒットし、一躍フォーク界のスターとして脚光を浴びる。1975年、吉田拓郎、小室等、井上陽水と共にフォーライフ・レコードを設立。だが、1977年のロックアルバム「光石の巨人」を最後に、フォーライフ・レコードを去る。その後、次第に個性を活かして俳優業へ重きを置く。以降、音楽活動と俳優業に加え、芸術面でも才能を発揮。ボランティアなど信念に基づくライブ活動をはじめ、幅広い分野で活躍。2013年12月末、NHK「紅白歌合戦」に出場し、話題を呼んだ。

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