日本銀行前理事の門間一夫氏は、日銀の追加緩和の手段について、マイナス金利拡大も量の拡大も慎重な判断が必要で、もはやバズーカ砲第3弾の「余地はない」との見方を示した。量は次第に限界に近づいており、そう遠くない時期に長期国債の買い入れペースを落としていくことが「常識的な将来の見通し」だと語った。

  門間氏は日銀のチーフエコノミスト的存在である調査統計局長をはじめ、金融政策担当理事、国際担当理事を歴任。5月末に退任し、みずほ総合研究所のエグゼグティブエコノミストに就任した。

  11日のインタビューで門間氏は、「どの経済学の教科書を見ても、実質金利が高いより低い方が必ず経済にプラスになると書いてあるが、現実はもう少し複雑かもしれないので、本当に教科書通りに効果が出てくるかどうか見極めていく必要がある」と指摘。明確な効果が出ていないのにどんどんマイナス金利を深掘りしていくことは「慎重に考えた方がよい」と語った。

  保有残高が年80兆円増えるペースで行っている長期国債の買い入れは「永遠には続けられないのは当たり前だ」と指摘。日銀も最近は国債市場の機能や流動性にもう少し注意を払う必要があると情報発信しており、限界に「だんだん近づいているという認識は日銀も持っている」と語った。その中で100兆円、120兆円とペースを上げるのは「不可能ではないが、非常に難しい」と指摘し、「バズーカ砲第3弾は基本的にできないだろう」と述べた。

  むしろ、どこかの時点でペースを少し落としていく方向で考えるのが「常識的な将来の見通し」と言明。ペースを多少落としてもバランスシートは拡大し続けるので、引き続き緩和方向に行くという大きなフレームワーク自体は変わらないことを「しっかり説明していけば、引き締めになるとか為替相場の円高に作用するとか、そういう誤解を招く可能性は排除できる」と語った。

追加緩和は日銀の判断次第

  日銀は28、29の両日、金融政策決定会合を開く。生鮮食品を除くコア消費者物価(CPI)は足元で3カ月連続のマイナスになっており、2017年度中としている2%達成見通しには黄信号がともっている。英国の欧州連合(EU)離脱や円高の進行など海外発のリスクも高まる中、市場では追加緩和観測が強まっているが、門間氏はより持続可能な枠組みへの移行が不可避との見方を示した。

  門間氏は7月会合について、経済情勢はもはやデフレではないこと、金融緩和がすでに強力であることを重視すれば追加緩和は不要との判断になり、足元の経済が多少元気がないことや、英のEU離脱など世界経済のリスクを重視するなら、追加緩和をするという判断はあり得るとみている。

17年度中の2%達成は困難だが

  5月の消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は前年比0.4%低下と3カ月連続で低下。日銀が物価の基調を測る上で重視しているエネルギーと生鮮食品を除いたいわゆる日銀版コアCPIも0.8%上昇と、2カ月連続で鈍化した。

  門間氏によると、みずほ総研の直近の見通しではコアCPI前年比は16年度が0.1%上昇、17年度は1.0%上昇。2%に徐々には向かっていくだろうが、「向こう12カ月、18カ月という単位で2%を達成するのは非常に難しい」と述べた。

  もっとも、物価情勢は指標だけでなく「取り巻く環境が長い目で見て非常に大事だ」と言う。日本経済はほぼ完全雇用の状態で、有効求人倍率も改善を続けている。成長率も潜在成長率を上回る緩やかな回復軌道にあるなど、「物価を取り巻く環境は引き続き良好だ」と強調する。

「2%の方が良いよね」というくらいの話

  海外を含めて追い風が吹きつつあった13年4月の時点で「多少野心的な目標であっても、気合で一気呵成(かせい)に2%に持っていこうという戦略は正しかった」が、14年以降は「原油価格は暴落し、世界経済の不透明感が強まり、為替も円高に戻り、逆風だらけだ」と指摘。追い風があっても2%に引き上げることは難しいのに、「これほど逆風が吹く中で2%を早期に達成するのは極めて難しい」と語る。

  インフレ率は0%よりは2%の方が良いが、「0%は地獄であって、2%になるとすべてがバラ色で天国になるかというと、そこまでの違いはない」と言う。「2%の方が良いよね」というくらいの話なので、「それをやるのに無理やり、さまざまなリスクのある政策を駆使しながらやる必要はないのではないか」と述べた。