「音楽に政治を持ち込むな」のレベルの低さ
速水健朗(以下、速水) 今回は、炎上関連。津田大介、古市憲寿という我が友人たちがいつものごとくではあるけど、炎上しているので取り上げたいと思う。
おぐらりゅうじ(以下、おぐら) 津田さんは、昨年末に阿佐ヶ谷ロフトAでやったこの連載のイベントにも登壇してくれて、僕らの記事に対する批判的な投稿を見せたら「こんなの炎上じゃない。ただのクソリプだ」って言ってました。
速水 津田さんも古市君も、現在進行形で日本有数の炎上体験者だから。俺は二人とも親しいので、どうしても身びいきにはなるけど、実はどちらも政治にまつわる話なので、ここで話しておきたいなと思って。
おぐら まず津田さんのほうは、SEALDsの奥田愛基さんと一緒にフジロックに出演することが批判され、これが「#音楽に政治を持ち込むなよ」というハッシュタグで論争になっています。
速水 最初は少し炎上っぽかったんだけど、あまりに低レベルすぎた。
おぐら そもそも津田さんは、フジロックのトークステージに出演するの5年連続ですからね。フジロックはもちろん、音楽に政治を持ち込むなっていう批判は、さすがに無理がありすぎます。
速水 ロックフェスなんて一貫して政治の場所だよね。いまは、それすら認識されてないのかという。ちなみに僕は政治的過ぎて元からフジロックは大の苦手。でもそれは脱原発とかSEALDsとかは関係なくて、エコ色が強すぎてほんと辟易する。
おぐら 開催の理念が「自然と音楽の共生」ですし、公式ホームページには「環境に配慮する姿勢や社会のことを考えてみたりするちょっとしたきっかけがちりばめられています」って書いてありますよ。
速水 「政治を持ち込むな」については、ミュージシャン本人たちもツイッターで発言している。
おぐら アジアンカンフージェネレーションの後藤正文さんは「フジロックに政治を持ち込むなって、フジロックのこと知らない人が言ってるよね」と。
速水 最初に「持ち込むな」って言ってた人たちが、どれくらい「ロック」と「政治」の関係性について無知だったのかは知らないけど、音楽と政治の軋轢は、今一周回っておもしろいテーマ。アメリカの大統領選でも、ロック・ミュージシャンたちがトランプを批判する声明を出したり、サンダースを支持したりしてるでしょ。
おぐら フジロックに出演が決まっているレッド・ホット・チリ・ペッパーズのベーシストも、トランプを「うぬぼれた間抜けな野郎」と批判して、サンダース支持を表明してます。
* レッチリ フリー共和党批判: トランプは「うぬぼれた間抜け野郎で、資金を増やす詐欺師」 - Rolling Stone
速水 トランプが演説会のBGMにロックを使っていて、REMやエアロスミスらが「勝手に使うな」って反発したりもしてる。
* 「私の曲を使わないで」アデル、トランプ氏にノーを突きつける - ハフィントン・ポスト
おぐら ミュージシャンの多くがリベラルで左派寄りというのは、歴史的にも自明のことですよね。ニール・ヤングもトランプに自分の楽曲の使用禁止を言い渡してました。
速水 ニール・ヤングの件は、もうひとひねりあって、今はもう認めている。なぜなら、実はちゃんと許可をもらって、使用ライセンスを取得していたから。元々トランプはヤングのファンで交流もあったらしい。ヤングは、サンダース支持を表明しているけど、そこはそこでOKを出している。
おぐら ってか、トランプがニール・ヤングのファンって意外すぎますよ……。
速水 例えるなら、安倍晋三が高田渡のファンだっていうくらいおかしいよね。
おぐら 「自衛隊に入ろう」を、まさかの額面通りに受け止めちゃったとか。
政治アレルギーはなぜ起こるのか?
速水 日本人にとっての「政治」って、生活や文化とは違ったレイヤーのものだっていう意識が強いっていうのはあるだろうね。
おぐら ここ何年かで、そういう区別の意識も多少は弱くなりつつありますが、日常会話において「ロックが好き」とか「オーガニックが好き」みたいに「保守が好き」とか言ってる人は、なかなかいないですよ。
速水 『フード右翼とフード左翼』を書いたときも、「人を右とか左とか決めつけないで」みたいな反応は多かった。室井佑月さんとラジオの番組で話したときに「やっぱり右とか左とか決めつけるのはよくない」って言われてずっこけたんだけど。
おぐら 少なくとも全体的に「政治アレルギー」はありますよね。あとは、右とか左とかいうと、両極端な右翼と左翼を連想してしまいがちで。
速水 意見は対立させちゃいけないっていう。でも、日本って根っから「55年体制」の国なんだよ。立場の対立はさておき、経済成長という目的に向かおうというのが55年体制だったわけだけど、表だってこの国に対立はないんですっていうことにしたい風潮はいまでもある。
おぐら その延長で「ロックフェスに政治を持ち込むな」という理論になるんですかね。「政治的な争いはしたくない」というよりも、「政治的な争いは日本にはありません」という。
速水 とはいえ、いまの「ロック」とか「フジロック」が反体制の牙城かというと、それも嘘なわけで。トランプだってニール・ヤングを愛する時代だっていうのがむしろ真実な気がするけどね。
おぐら ただ、ツイッターをはじめとしたネット空間は、現実とは桁違いに政治的で、もうそこらじゅうイデオロギーの対立だらけです。だから心のうちには政治的な思想を誰もが抱えているのに、それを日常生活では口にしない、っていうだけなんでしょうね。
政治家にプライベートを聞くなという危険性
速水 えーと、もう一方の古市君の炎上話も。
おぐら 6月20日に行われたニコ生の党首会談のMCを務めた古市憲寿さんが、生活の党と山本太郎となかまたちの小沢一郎代表に「小沢さんが再婚相手見つかったかどうかちょっと聞いてみたいんですけど」と質問して、思いっきり批判されています。
速水 ネットでは「プライバシー問題に触れて失礼だ」という意見が圧倒的で、古市くんを擁護する声は聞こえてこない。
おぐら 質問のあと、運営側から渡されたであろう紙を見て「これ俺、読んだほうがいいんですか?」と言って、棒読みで発言の撤回とお詫びをしたのが、さらに火に油を注ぎましたね。
速水 でも、政治家に「プライベートを聞いて不愉快にさせたから失礼! 謝れ!」って皆がこぞって批判する状況って、政治との向き合い方としてちょっとありえない。
おぐら 言い方と、再婚相手っていうのがまずかったんですかね。あれがもし「お子様は保育園に通われていますか?」とかで、そこから待機児童の問題に繋げるとかだったら、プライベートを絡めても大丈夫だったと思いますけど。
速水 確かに失礼ではあるんだけど、政治家に失礼なことを聞くのは、話を引き出すために海外の政治記者なら当たり前に使う手段だし、小沢側だってジョークで返すくらいの政治家としてのセンスは必要だったんじゃない。
おぐら 小沢さん、普通に怒ってましたよね。そして後日、ニコ生は正式にお詫び文をホームページに掲載しました。
* お詫び - niconico
速水 あり得ないのは、運営側のニコ生が、司会者に謝罪をさせようとした部分。そこが一番批判されるべきでしょ。イギリスのコメディの「モンティ・パイソン」は、下ネタとか下品なネタで政治家とか女王陛下までこき下ろす。おもしろいかどうかは別として、そういう政治家を茶化すこと自体、そういうものだって理解が国民に根付いている。日本で同じことをやったら、お笑いに政治を持ち込むなということになるんだろうな。
おぐら 爆笑問題は政治家をネタにした漫才をやっていますが、ほかはほとんど見ないですね。でもそれは、テレビのお笑いに限った話で、演劇では盛んに政治ネタを取り入れてますよ。メジャーなところでは、シティボーイズの公演は毎回旬な政治ネタがありましたし。モンティ・パイソンの系譜で言えば、7月から本多劇場で始まるケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出の舞台はヒトラーがモチーフで、ケラさん本人がツイッターで「超ナンセンスコメディ」と言っています。
速水 本来、チャップリンなんかを持ち出すまでもなくお笑いって政治へのカウンターとして機能してきた文化なのに、いまではそれを持ち込んじゃいけないことになっている。今回のことで怒っている人たちも、この問題を、政治とジャーナリズムの問題ではなく、いち若造のやんちゃな言動の問題としてしか捉えてない感じ。
おぐら あるいは、今の小沢一郎は別に権力の象徴ではない、っていうのはないですか?
速水 今回の問題だと、古市君みたいな若造にコケにされて怒りを露わにした小沢一郎の醜態こそ笑い飛ばすべきものでしょ。権力から遠く離れてもまだ王様気分でいるんだ小沢一郎って、みたいに。正直、エコごっこと政治のイベントでしかないフジロックとか、リベラルごっこから抜け出ないミュージシャンの政治発言なんかよりも、古市くんの方が断然フジロックだよ。
おぐら そこは「古市憲寿こそロック」でよくないですか?(笑)
速水 いや、俺ロック大嫌いだしさあ。
おぐら でもさっき「フジロック嫌い」って言ってたじゃないですか!
速水 まぁ、それはいいとして。真面目な話、政治家を批判するときに、政策や活動内容に留めるべきで、下半身ネタやプライベートネタを取り混ぜて批判してはいけないっていう流れになるのは危険でしょ。下半身スキャンダルをちゃんと切り込めるっていうのが、メディアの存在意義なんだから。
おぐら 週刊誌や演劇といった、反体制意識が根強くあって、読者や観客に直接支えられている場には政治へのカウンターが残っているけど、スポンサーや広告でもっているメディアだと政治はNGってことでしょうね。さらに話を広げると、普段は権力のある政治家を批判できないテレビ局が、安倍首相に嫌われている舛添要一は叩いてもOKってことで、溜まっている鬱憤も込みでジャーナリズム精神を発揮して、一連の盛大な舛添バッシングになったって、リテラの記事にありました。
* 『スッキリ!!』で宇野常寛が舛添報道を「イジメエンタテインメント」と正論の批判で、加藤浩次が凍りついた - LITERA
速水 でも結果として、嫌われ者だと思われていた小沢一郎以上に、今は悪目立ちしている古市君が嫌われていたってのは、今回の炎上のポイントのひとつなんだろうけど。あれを言ったのが、池上彰だったらどうなってたかな。
おぐら それと、SEALDsも奥田愛基さんも、出てきた時は「若者が政治に興味を持つだけでなく、自ら行動を起こすなんて偉い!」「しかもラップを取り入れたりアップデートされた現代的な手法で新しい!」とかって、あんな絶賛されていたのに、いつの間にこんな嫌われ者になったんですか?
速水 まあ、それは一部の人たちが騒いでるだけだけどね。「政治的」というのは「多数派」を取り合うものなので、「有名税」とトレードオフのものにならざるを得ない。炎上と政治は、これからも切って切れないものになっていくんだろうな。
(構成協力:山本隆太郎)