前回の続きを書く。
宗教の勧誘という変化球はあったものの、パブとハンバーガーショップでのアルバイトは、問題なく推移していた。
大学の授業の方も問題なく、残る課題は彼女がいないことと、司法試験への未練だった。
司法試験については、言い訳に過ぎないことを承知で言えば、マスターすべき分量が圧倒的に多い。
基本書だけで言えば、憲法500ページ、刑法は総論と各論合わせて800ページ、民法は総則、物権、担保物件、債権総論、契約法、事務管理・不当利得・不法行為、親族・相続法で合わせて3000ページ、会社法、手形小切手法、刑訴法、刑事政策、政治学はそれぞれ400ページ、合計で約6000ページ分を読み込む必要があるが、それに判例百選等の副読本を加えたら10000ページだ。これだけの分量を理解し、再現できる程度に記憶しなければならない。
つまり、司法試験が難しいのは、その難易度故ではなく、必要な勉強量が異常に多いということなのだ。それにもかかわらずアルバイトなんぞしていたら、物理的に、必要な勉強時間を確保できない。つくづく司法試験は「資本試験」だなって思った。
もっとも、掛け持ちでアルバイトをしている俺に、そんなセリフを吐く資格は無いこと、百も承知だが…
でも、中大にもいた。結構仲の良かったN君はお金持ちの御曹司、アウディで通学し、大学3年で司法試験に合格し、しかも可愛い彼女持ち。
俺と比べるに、気が狂うほどの落差だ。次元が違うと言っていい。
ただ、N君に対する感情は、うらやましいというのとはちょっと違うかな。俺は俺だし、彼は彼だ。まぁ、ヒトぞれぞれということ。
だから、他人をうらやんだり、妬んだりすることはあまり無かった。例えば、金持ちの家に生まれること。そんなヒトに対しては、「恵まれているなぁ…」とは思うけど、うらやましくはなかった。
だって、うらやんでも俺が金持ちになるわけないもの。そうである以上、うらやむエネルギーや時間が無駄だもん。
きっと、この世の中で「幸せ」ってされている夢は、自分で手に入れた方がいい。もっとも、ヒトは、その夢を手に入れた瞬間、その夢は色褪せ、また別の夢を追いかけていくものなんだろうけど…
ある日、授業が休講になったので、その足でサークルに出ると、後輩が珍しく話し掛けてきた。
「丁度よかった。ゆうさんに連絡しようと思ってたんですよ」
「ようやく俺のテニスの腕を認めたのかな?これでも上手くなってきたんだよ。壁打ちだけど(笑)」
そう思いながら、「連絡って、試合でもあるの?」と訊くと、後輩はクスッと笑いながら、
「実は合コンに出て欲しくて」
と言ってきた。全く予期していなかった言葉だったが、「クスッと笑うなんて、失礼な奴だな」、そう思いながら話を聞くと、共立女子大との合コンなのだが、相手は10名とのこと。
後輩は幹事を務めているのだが、男性側も頭数なら10名は軽く集まるが、誰でもいいというわけではなく、イモみたいな男子学生ばっかりだと、幹事として彼が、相手方から責められるとのこと。
「ゆうさん、見た目だけはいいじゃないですか。出てもらうと俺の株が上がるんですよ」
見た目「だけ」って…(;´Д`)…ますます失礼な奴だな!
そう思ったけど、ここは最上級生として大人の対応をしてあげようと、
「ただ、俺、平日の夜はバイトしているし、土日しか空いていないよ」
と言うと、彼は「それなら良かったです。合コンは今度の土曜日なんですよ」との応答だった。
…ハンバーガーショップでアルバイトしている時、同僚の女子大生から結構、合コンのお誘いがあった。5人対5人というのが多かったが、俺が集められる男子学生は、キモメン、ブサメンしかいなく、そんな面子で合コンを設定しようものなら、「俺は袋叩きに遭うだろうな」、そう思い、合コンを設定したことは無かった。
だから、幹事を務める後輩の気持ちも、判らないことも無かったので、
「わかった。土曜日なら可能だよ。ただ、俺はあまりアルコールは飲めないけど、いいかな?」
と応答すると、「全然オッケーです。いてくれさえすればオッケーです」とのこと。あくまでも俺をウドの大木、でくのぼう扱いするつもりだな…実際、そのとおりなんですけど(笑)。
こうして、大学4年にして、初めて合コンというものにでることとなった。