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ホーサクっ

ホッと一息、サクッと読める400字

焼き蛤と、カップヌードルワンダーランド

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原初の記憶と言っては大げさすぎるかもしれない。5歳のころ家族で行った海で僕は迷子になった。海の家で父がカップヌードルを買ってくれ、ほくほくした気持ちで母と妹が待つ赤と青と黄色のチェック柄のレジャーシートを目指して歩きはじめた。ん、あれ?

同じ柄のレジャーシート多くない?でも僕はもう年長さんで迷子になるなんてありえん!とカップヌードルを両手で持ちながらヨタヨタと砂浜に足を取られながらも歩きつづけた。青い空、白い雲、カラフルなビーチパラソルにビキニ姿のお姉さまたち。あれあれ?

ずーっと遠くにあったはずの打ち上げられたウミガメの亡骸まで来てしまった。ちびくろサンボのように陽に焼けた悪ガキたちが菓子パン(ヒトデの亡骸)を投げ合ってふざけている。ワイワイ、ギャーギャー楽しそうにしているのを見てじわりと涙が浮かぶ。

だめだだめだ、泣いているところを妹に見られたら兄としての面目まるつぶれである。が、とうとう僕は大声で泣き出した。白旗をふってしまった。すぐに監視員が飛んできて迷子のアナウンスが流れた。しょぼーん。

カップヌードルがふやふやに伸びたころ、焼き蛤を片手に父親がやってきた。父は大笑いし母と妹は心配げだったが僕は平気を装った。あの時、父は焼き蛤、僕はカップヌードルワンダーランドに迷い込んでいたのだろう。久しぶりに焼き蛤が食いたくなった。明日は桑名に出張だ。焼き蛤食べたいな。

(600字)