軽自動車でこの値段?

ホンダ S660ーーかつて同社が販売していた「ビート」以来19年ぶりに復活し、各方面で話題を呼んだ軽のMRオープンスポーツカーだ。約1年前の発売開始日に即日完売するなど需要が旺盛な一方で、少量生産の影響もあって、需要に供給が追いつかない状況が続いている。そうしたなかで、昨年後半からS660の中古車価格が新車を上回るケースも見られる。
S660には、αとβという2つのタイプがある。上級モデルのαには、クルーズコントロール、ステンレス製スポーツペダル、本革巻きステアリングホイールなどが装備される。価格帯は198〜238万円である。
一方、中古車価格は179〜305万円と実に300万円超えまで見られるようになった。最低価格でもあまり新車と変わりがないうえ、新車よりも高いものまである。なぜ、このようなことが起こるのだろうか。
理由の一つとして、まずS660のミッドシップレイアウトは大量生産のラインに乗せるのが困難なことが挙げられる。ホンダのグループ会社である八千代工業の四日市製作所で専用工程を取り入れた少量生産なので、需要の増加に対応するのが難しいのが実情だ。
意外に思われるかも知れないが、そもそもS660は他の車種に比べて販売台数が少ない。たとえば昨年度はフィットが11万台以上、軽のN-BOXは17万台以上の販売実績があるが、S660は1万2000台程度である。
S660はビートの再来ということもあり、マニア受けのするクルマでもある。発売当初はその走りの良さがあますところなくPRされていたので、台数も相当出ていると思っていた人もいるかも知れない。年間1万2000台程度の販売台数で、しかも軽自動車という利益率の低いクルマに対して巨額の設備投資が困難なことは容易に想像できるだろう。
運良く新車の S660を購入できたとしても、納車までには約6カ月から1年近くも待たされることになる。「いますぐ乗りたい人」は中古車へと流れてしまいがちで、それが中古車価格を押し上げる一因にもなっている。
確かにS660は魅力的なクルマには違いない。だが、この先もさらに高騰を続けるのだろうか。納期に時間がかかるとはいえ、さすがに新車よりも100万円も高い中古車を購入する層がそれほどいるとは考えにくい。
新車価格で見ても軽自動車で220万円前後というのは、決して安い買い物ではない。まして中古価格で300万円を超えるのは行き過ぎではないだろうか。ユーザーの中には、同等の価格帯で他の車種を購入するという選択肢もあるだろう。中古価格の高騰は一過性のもので、長期的には妥当な水準に落ち着く可能性が高いと見られる。
S660のような「真のクルマ好き」のためのクルマは、投機の対象にしてはいけない。欲しいと思える人が納得できる値段で取引することこそ、S660にとっても理想的な市場であると最後に付け加えておきたい。(モータージャーナリスト 高橋大介)
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