iPS網膜研究を再開へ 来年移植目指す
理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーは6日、神戸市内で記者会見し、さまざまな組織に変化する能力があるiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った細胞を目の難病患者に移植する臨床研究を再開すると発表した。今回から患者以外の人の細胞から作ったiPS細胞を使う。来年前半の移植を目指す。
理研は、京都大iPS細胞研究所、大阪大、神戸市立医療センター中央市民病院と協定を締結。京大が作製したiPS細胞を理研が移植用の網膜色素上皮細胞に分化させる。阪大と市民病院は、悪化すると失明の恐れがある「滲出(しんしゅつ)型加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)」の患者に移植する。
理研などは2014年9月、患者自身のiPS細胞から作った細胞シートを網膜に移植する手術を世界で初めて実施。続いて2例目として行う予定だった手術は、患者のiPS細胞に遺伝子変異が見つかり、移植を見送っていた。
患者自身の細胞からiPS細胞を作ると安全性の確認などにコストと時間がかかるのが課題だった。他人由来のiPS細胞を備蓄して安全性を確認して利用すれば、約11カ月かかっていた移植までの待機時間も1カ月程度に短縮でき、手術1回当たり億単位に上っていたコストも大幅に圧縮できるという。拒絶反応が起きにくい型の提供者の血液細胞からiPS細胞を作る。また、今回からシート状にした細胞の移植に加え、細胞が入った液を目に注入する方法も行う。病変が小さい患者には負担が少ない治療法になるという。
記者会見した高橋リーダーは「将来的に1000万円を切る可能性もある」と話した。京大iPS研の山中伸弥所長は「移植する細胞の安全性を徹底させたい」と意欲を語った。大阪大の澤芳樹教授は「大学を挙げてプロジェクトを応援したい」と述べた。【畠山哲郎、大久保昂】
【ことば】加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)
網膜の中心部の「黄斑」と呼ばれる部分に異常が起き、視野の真ん中がゆがんだり暗くなったりする病気。悪化すると失明につながる。老化に伴って、網膜の内部で視細胞を維持する「色素上皮」の機能が低下して起こる。日本人に多い「滲出(しんしゅつ)型」は異常な血管ができて網膜を傷つける。現行の治療は新たに血管ができるのを防ぐ薬を注射するなど対症療法のため、再生医療に期待がかかっている。国内に約70万人の患者がいると推定される。
【ことば】iPS細胞(人工多能性幹細胞)
皮膚や血液などの体細胞に数種類の遺伝子を導入し、受精卵のようにさまざまな組織や細胞に変化する能力を持たせた細胞。2006年、山中伸弥・京都大教授らのチームがマウスの細胞から作製したと発表、07年にヒトの皮膚細胞でも成功したと報告した。山中教授はこの成果で12年のノーベル医学生理学賞を受賞した。