ツイッターを見ていて、気付いたことがある。
みんなプロフィール欄にある「位置情報」に、ポエムを書きすぎではないか。
本来「位置情報」は、「住んでいる地域」や「よく行く場所」、「勤務先の住所」などを書く欄だ。しかし何を思ったのか、最近はここに中2感全開のポエムを書き散らかしてしまう人が少なくない。
この症状は一般人に留まらず、芸能人にまで拡がっている。
ロックバンド・ラルクアンシエルのHyde氏 (@HydeOfficial_)を例に見てみよう。
All Over The World
確かに、「All Over The World」も立派な位置情報と言えるだろう。しかし、いくらなんでもそれでは「ラルクっぽすぎる」のではないだろうか? 「巣鴨」とか「鶯谷」くらいがちょうどよかった。
あのHyde氏ですらこんなにネオ・ユニヴァースしてしまうツイッターの位置情報。もしかしたら芸能人を超えるレベルのとんでもないポエムを書いているアカウントもいるのではないだろうか。
そこで今回は、フォロワーの中で「最もポエムな位置情報」を書いているアカウントを探してみることにした。
名づけて「ポエム位置情報グランプリ」の幕開けである。
3万人の位置情報をリストアップ
この企画を思いついたのは4月12日。
当時のフォロワー数は30661人だった。
ちょうど3万人を超えたいい機会だし、できれば全フォロワーのプロフィールを覗きにいきたいが、ひとりで一個一個プロフィールを開けるのはさすがに苦痛すぎる。僕はただ、至高のポエム位置情報を探したいだけなのだ。
そこでフォロワーの位置情報をエクセルシートとかで一覧表示させるスキルを持った人を探してみたところ、友人のたじーさん(@gonshi_com)が協力してくれることになった。たじーさんは普段からアプリとかWEBサイトをガシガシ作っている人だから、きっと安心だ。持つべき者は友である。
たじー:「『位置情報を書いていないアカウント』はリストから除外されちゃうけど、いいですか?」
僕:「うん、僕が知りたいのは位置情報に潜むポエムだけだから」
たじー:「なぜ位置情報にそこまでのこだわりが……」
依頼から1週間くらいで、リストアップ完了。
「位置情報を書いていないアカウント」を除くと、12600人になった。約1/3のフォロワーが、「位置情報」に何かしら書いていることになる。いよいよナンバーワン・ポエムを探す準備が整った。
位置情報は3つのカテゴリに分けられる
しかし12600人の位置情報からポエムを闇雲に探すのでは、グランプリを決めるのはなかなか難しいことに気付いた。まずは「どのような基準で一番のポエムを決めるべきか」を考える必要があったのだ。
そこでDMM.Makeでアイデアソンなどのイベントを企画している友人・ひとしんし(@hw_onakaitai)に駆けつけてもらった。何度も言うが、持つべきものは友である。
ちなみにひとしんしの位置情報は「期待させないし期待もしないTonight」である。かなり好感を持てるポエムだ。位置情報にポエムを書くアカウントは信頼できる。
ひとしんし:「扱う内容が個人情報すぎるから、審査はカツセさんやるしかないですね」
僕:「え、僕ひとりで12600人見るの……?」
ひとしんし:「自分で決めた企画でしょ?」
ということで、結局12600人の位置情報をひとりで見ることになった。
……。
…………。
めっちゃ多い。
12600人の位置情報を把握するのはとても大変だった。画面のスクロールで腱鞘炎になりかけたのは人生でも稀だ。
しかし、一通り見終わったところで、ある発見に至った。ツイッターの位置情報には、3つのカテゴリが存在する。
P:ポエムカテゴリ
O:おもしろカテゴリ
Z:ゾーン(純粋な位置情報)カテゴリ。
位置情報には「誰が見てもポエム」と、「ポエムというよりはおもしろネタ」と、「ただの位置情報(たまに『ただの位置情報なのにおもしろい』というケースもある)」が存在していたのだ。世紀の大発見と言えよう。
今回は3つのカテゴリから、それぞれ優秀賞を決めることにした。
選考には4時間を要し、「おれたちは何故こんな無駄なことを……?」と何度も諦めかけたが、厳正なる審査をした結果、数あるポエム位置情報の中でも正直しょーもないもの(褒めてる)を選べたと自負している。
以下、掲載許可を得た優秀作品のみ、発表する。
ゾーンカテゴリ 優秀賞
まずはゾーンカテゴリから優秀賞を発表する。
ゾーンカテゴリは「地名が入っていること」が条件になる。ポエムではなく本当の居住地を書いているアカウントも多く、ちょっとしたフォロワー分析もできた。
海外勢を見てみると、僕のフォロワーはシアトル、バンコク、カリフォルニア、カナダ、ホノルル、ホーチミン、ラスベガス、グンマ、ミシガン、メルボルン、ミラノ、シドニー、ニューヨーク、パリ、フィアデルフィア、サンフランシスコ、シンガポールなど、外国に住んでいる人も少なくないことがわかった。(上記以外にも海外に住んでいるひとはたくさんいるみたいだが、調べきれなかった。わざわざ海を越えてフォローしてくださった皆さま、ありがとうございます)
また、日本では東京に住んでいる人がかなり多く、もちろん北は北海道、南は沖縄まで、全国47都道府県に一人はフォロワーがいることがわかった。いつかフォロワーを巡って周遊する企画をできたら楽しそうと思ったが、そんな迷惑なことはやめろと止められた。
ほかにも「お布団のなか」と書いている人が80人くらいいた。僕のフォロワーは大体は布団のなかにいることを覚えておきたい。
そんなゾーンカテゴリで特筆すべきは、千葉県民である。
ちーばくんのうえのほう
チーバくんの口元あたり
チーバくんの喉らへん
チーバくんの足の方
ちーばくんの鼻
ちーばくん心臓部
千葉県民は、自分の住んでいるところを「チーバくんの身体の部位」で表現したいという願望が強いらしく、リスト上はちょっとしたチーバくん祭りになっていた。
僕らはこれがエクゾディア(遊☆戯☆王)に似ていることから、「チバゾディア」と命名し、いつかこのフォロワーを集めて組体操でもさせたいと話した。
それでは、チバゾディアに最大の敬意を払いながら、ゾーンカテゴリの優秀作品を紹介する。
さいたまの右下のはしっこの宇宙(JAPAN)
講評:僕らはこの位置情報によって、さいたまに宇宙があることを知ることができた。多くの人に気付きを与えるすばらしい位置情報だったと思う。大きな何かに触れるとヒトの悩みなんて小さく感じられるものだ。何かに迷ったときにはさいたまの右下のはしっこの宇宙に触れよう。
ここは渋谷じゃないみたいだ
講評:「夜道を歩いていたら突然睡眠薬を嗅がされて意識を失い、見知らぬ倉庫で目が覚めた主人公」が目に浮かぶ。渋谷にいないのか、それとも渋谷なんだけど渋谷には見えないような場所にいるのか、疑問が疑問を呼ぶサスペンスな位置情報だった。
にっぽん!の、とうきょう!thanks all!!
講評:このバカバカしさこそ、ポエム位置情報グランプリに必要なモノだったのではないか。「サンクスオール」に込められた体育会系4大卒男子っぽ さ、もしくはギターロックバンドのボーカルがライブ中テンション上がりすぎてよくわかんないこと言っちゃった感のある雰囲気がツボである。
魔界都市<足立区>-since1983-
講評:ポエム位置情報は中2感のある出来心から生まれてほしいものだが、この位置情報にはふんだんにそのエッセンスが詰め込まれていて感動する域。ゾーンカテゴリでなくても優秀賞を狙える当作品に審査委員会(ひとりだけど)絶賛となった。
以上が激戦のゾーンカテゴリを突破した優秀作品だった。
ほかにも「水星のふたつとなりの惑星+81」などウィットに富んだものが集まった。あと「地球の端っこ」と回答する人も多かったが、もうちょっとみんな中央に住んでてもいいと思った。
おもしろカテゴリ 優秀賞
続いておもしろカテゴリの優秀賞を発表する。
「おもしろカテゴリ」と「ポエムカテゴリ」は線引きが難しい。ポエムだって笑えるものもあるし、「おもしろい」と思うのは僕だけかもしれないという不安もある。
それでもツイッターのプロフィールを見て思わずクスっと来てしまったものについては、このカテゴリの優秀賞を(勝手に)送ることにした。読者のみなさんもツイッターの画面にいきなりコレが出てきたら…という想像をして、ご覧いただきたい。
ようファッキンキッズ お遊びしようぜ
講評:12600の位置情報の中でも1,2を争うレベルのカッコいい位置情報。僕のフォロワーにここまでラウドでロックな位置情報を持つアカウントがいることに驚いた。オフ会を開くことがあったら、乾杯の挨拶にこれを言ってみたい。
クリックもできないやつに教えるプロフィールはない
講評:先ほども伝えたとおり、ポエム位置情報に必要なのは「中2感」だ。「どんな人だろう?」とプロフィールを見に行った矢先に、このメッセージが位置情報に書かれていたとき、本当に「中2か!」とツッコみたくなった。14歳のころの自分なのではないかと一瞬疑うほどのクオリティに、文句なしの受賞となった。
俺の理性と本能の100日間戦争
講評:ちょっとした小説のタイトルにありそうな位置情報を見て、思わず続きが気になった。いつだって人は自分自身と戦っている。それが性欲なのか承認欲求なのかはわからないが、彼もまた100日間の戦争をしているのである。シンプルなプロフィールとのコントラストもよい。
真ん中左め/ behind you
講評:両A面シングルを彷彿とさせるポエム位置情報。『真ん中左め』は野球好きな恋人への愛を唄ったラブバラードだろうし、『behind you』は都会で暮らす若いふたりを疾走感あふれるギターで表現したライブ定番曲じゃないかと勝手に想像してしまったので作者のコメントが待たれる。
マイブームは舞茸
講評:「それ、そこに書く?」と唸らせる第一印象。もはや位置情報とは何だったのだろうかと疑うほどに、迷いなきマイブーム。マイブームなのだから誰も否定はできないが、あえてセレクトされた「舞茸」という渋さがまたいい味を出している。
以上がおもしろカテゴリの優秀賞だ。
おもしろカテゴリにはもちろん下ネタ混じりの位置情報も多数含んでおり、たとえば「童貞フルハウス」「正常位のチューリップ」などはノミネートまでいったものの鍵垢だったためにアカウント名まで公開できず、次点となった。「童貞フルハウス」の響きの良さはほかの位置情報よりも段違いに感じられた。
ポエムカテゴリ 優秀賞
最後に、ポエムカテゴリの優秀賞を発表する。
ポエムカテゴリは選定がとても難しかった。
何故ならどれだけすばらしいポエム位置情報であっても、既存のミュージシャンが執筆した歌詞の一部だったり、マンガの台詞だったりした場合はすべてNGとしたからである。
ポエム位置情報に求められる中2感は、確かにJ-POPの歌詞のようなものが望ましい。しかしそこに独自性がなければ、ポエム位置情報グランプリとして優秀賞を贈呈するわけにはいかないのだ。これが審査委員会(僕ひとり)の決断だった。
それでは至高のポエムカテゴリ優秀賞を紹介する。
大停電の夜に202号室で迎える二時二分
講評:位置情報にまでストーリーが見える、完璧なポエム具合。恋人といるのだろうか、ひとりでラジオでも付けているのだろうか、さまざまな想像を巡らしてしまう、すばらしい一文だった。非の打ちどころがないポエム位置情報。
(ただこの作品、歌詞やマンガではないからギリギリOKとしたものの、バンド・GOOD ON THE REELの宇佐美 友啓さん(@GOTR_usami)のツイートから引っ張ってこられたものだった。オリジナルでこのクオリティが出てくれば文句なしだった)
夕暮れどきに金木犀の香りがするところ
講評:嗅覚は五感のなかでもポエム気質の強い感覚だと思っている。思い出などは記憶よりも匂いでよみがえることも多い。このポエム位置情報も、嗅覚をくすぐる表現が淡い日常をイメージさせる。あらゆる植物のなかで最もポエム性が強い金木犀をチョイスしたところも評価が高い。文句なしの受賞となった。
白雪姫は王子様のキスが欲しくて毒林檎を食べるの
講評:なんだこのメルヘンワールド全開ポエムは!と思わず審査委員会(僕だけ)がザワついた作品。長すぎてスマホからでは確認できないほどの位置情報。これをここに書くことで作者は何を伝えたかったのか。もしも女子はキスもらえるなら毒でもなんでも食うぞということならマジで女子すごいと思った。女子すごい。
以上がポエムカテゴリの優秀賞だ。
ポエムカテゴリの位置情報は本当に数多くあった(ざっくり4000個くらい見た)が、そのどれもが、喜んだり、悩んだり、願ったり、嘆いたりしているもので、つまり感情の起伏をプロフィールにもツイートにもせずに吐き出されたものだった。このほかにも優れたポエムはあったので、(本人確認が面倒なので)アカウント名は伏せて一部紹介する。
「約束のあの丘」「どこにでも、どこへでも」「あなたの隣」「みんなの概念の中」「光のとどかないところ」「耳を塞いだ音楽と本の中」「くそったれな世界」「今居る場所が地図の真ん中」「愛がない世界」「バルコニーで君を待つ」「再生の風景」「ふかふかな闇深」「怪獣の腕のなか」「スケッチブックの上」「僕はキメ顔でそう言った」「僕に優しい世界」「からっぽのせかい」「一秒も惜しく求め合う」「なんて柔らかな海」「涙腺の先っちょ」「はちみつの瓶を狙ってるネコ」
思ったよりもポエポエしていて驚いた。この調子で4000個全部列挙してもよかったが、あまりポエ散らかしてしまうのははてなブログ的にもよくないのでこのへんでやめておく。
おわりに
3つのカテゴリにわけて、ポエム位置情報グランプリの結果をお伝えした。
本当は各カテゴリを横断した「最優秀賞」を決めることも考えたが、今回は該当なしとすることに決めた。
理由はふたつある。
ひとつは、ポエムは書き手・読み手の捉え方次第で意味は変わるし、「1位」といった優劣をつけるべきものではないと思ったからだ。皆さんの内側に潜む中2心がウキウキとしていれば、それでいい。誰も他人の位置情報を笑うべきではないのである。(ウケ狙いの場合は別にして)
もうひとつは、最後まで選び抜く体力がこちらになかったからである。12600のポエムを見続けることは想像以上に疲れる(制作に2カ月弱かかってる)。しかも、そうこうしているうちにフォロワーが4万人になってしまいそうで、いい加減記事をリリースしないと大変なことになることから、苦渋の決断で公開となった。
次こそは審査委員長とか審査委員とかめちゃ豪華なメンツにして、盛大にやりたい。授賞式とかまでやってみたい。迷惑だとか不謹慎だとかプライバシーがどうとかいろいろうるさくなりそうだけど、そういうバカみたいな企画が受け入れられるようなネットになっていってほしいとも思う。
そんなところで、今回はお開き。
受賞者の皆さんに大きな拍手を送ってほしい。
それでは。
▼ツイッターやってます。
美容室で「いつか生え際後退しておでこが広がってくと思うと怖いよねー」と若い男性美容師に言ったら、「まぁ、宇宙だって徐々に広がってくわけですからねー」って意味不明なフォロー入れられたから美容師さんはぜひこれ使ってください。
— カツセマサヒコ (@katsuse_m) May 22, 2016