2016-06-07
■年6億部突破のベストセラー、「聖書」を読み解く 
世界で最も普及している本といえば、聖書である。
日本のアパホテルには、必ずあの有名な女社長の自伝的漫画が各部屋に置いてあるが、日本を含む全世界のホテルの部屋には必ず聖書が備え付けられている。
西暦2000年には、一年間で6億部を頒布したらしい。6億だぜ。地球の人口を60億とすると、ちょうど10%。
ちなみに19世紀から現在までに日本国内だけで累計3億部発行されているらしい。人口の3倍売れる本て・・・。
「仁義なきキリスト教史」があまりにも面白かったので、同じ作者による「バカダークファンタジーとしての聖書入門」も読んでみた。
- 作者: 架神恭介
- 出版社/メーカー: イースト・プレス
- 発売日: 2015/04/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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本書は、旧約聖書、新約聖書を「すげーご都合主義で、非合理的で、矛盾にまみれた神が、とりあえず信徒の敵と、教えに背く信徒と、従順だがどうでもよくなった信徒を虐殺しまくるバカなダークファンタジーである」という前提で読み解く本である。
そもそも聖書は、読むのがしんどい本である。
そして話の内容がとにかくひどい。
退廃の街、ソドムとゴモラを滅ぼそうとした神に対し、「まあちょっとまってつかぁさいよ、ソドムにだってゴモラにだって仁義に厚い任侠者が一人や二人はいるかもしれないじゃないですか」と説得し、最初は50人の善人がいたら救うという話だったのを値切りに値切って10人いたらOKという条件まで引き出して、神は実際にソドムとゴモラに天使(まさに神の使い)を派遣した。
ところが、この街では外来者の男をみんなでレイプするという意味不明な習慣があり、宿屋の周りを街中の男が取り囲み「おい新しい男来たんだからとりあえず味見させーや」という正気とは思えない暴動が始まり、神は怒って2つの街を滅ぼす。
人間が悪いんだから滅ぼされて当然なんだ・・・・とはぜんぜん思えないエピソードである。
そもそもそんな街がイメージできないし、もし自分が名も知らない村に行ってそんなことになったら惡夢としか言いようが無い。
だがしかし・・・
聖書に出てくるエピソードは基本的にこんな感じなのだけど、このあたりはまだ読みやすい方で、ただの記録とか手紙とか、何を言ってるのかイマイチわかんないものが多い。
これを中学時代に読んだ僕はあたまがおかしくなりかけた。
登場人物も多いし、話も矛盾が多い。一体全体、みんなこの本に何を期待しているのだ、という気持ちが強かったが、婆さんが熱心な信者だったので教会には毎月通っていた。ちなみに僕自身は無宗教であるが、無神論者というほどのこだわりはなく、死んだら浄土真宗で葬式を上げるだろう。
従来の聖書入門書は「わけわかんない」というところはうまく触れないで、ある意味で腫れ物にさわるような書き方で聖書を解説していたのだが、この作者には怖いものというのがないらしい。
徹底的に聖書を「バカ本」として解説している。怖い。怖すぎて作者の命が心配になる。
というのも、単に聖書と言っても、キリスト教的にいえば、旧約聖書と新約聖書がある。
この「旧約」「新約」というのは、神様ヤハウェとの約束のことで、モーセの十戒などが旧約、イエスの伝説・伝承などが新約ということになっている。
面白いのは、キリスト教でいう旧約聖書と、ユダヤ教でいう聖書と、イスラム教で言う聖書は、全て同じ本だということだ。
もともとキリスト教はユダヤ教から分化した一宗派であり、ともすればガチガチなユダヤ教を誰でも信仰できるように制限をゆるめたものとも解釈できる。イスラム教はユダヤ教の聖書(キリスト教でいう旧約聖書)に強い影響を受け、さらにクルアーンという経典を加えて、聖書とクルアーンで矛盾する場合はクルアーンが優先されることになっている。
そして、近代宗教においてこの3つの宗教ほど強い影響力を持つものはない。
敬虔なキリスト教徒が「神罰じゃあ」と言われると飛び上がるほど怖いが、仏教徒の日本人が「仏罰じゃあ」と言われてもなんとも思わない。
イスラム教徒が「ジハードじゃあ!」と言えば、本気で自爆テロが起きるし、彼らがそもそも何に対して怒っているのか、なにがダメでなにがダメではないのか。それを知るためには彼らが信仰している宗教を知る必要がある。
日本は宗教性が低いとも言われるが、逆に信仰が非常に自然な形で根付いているとも言える。
八百万(やおよろず)の神々を受け入れるということは、「もうどうでもいいや」ということでもあり、神を否定するのではなく、「あなたが信じるのはあちらの神様なのね」と許容する懐の広さがある。
しかし重要なのは、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教という世界を代表する3つの宗教で共通した書物が経典として用いられているということだ。
ちなみにイスラム教の信者は16億人と言われる。キリスト教は20億人であり、合計36億人、これにユダヤ教徒が加わるわけだから、ほぼ世界の半分は旧約聖書をもとに動いてることになる。
こんなに荒唐無稽かつ読みづらい本を、世界の半分の人が信仰しているというのは恐るべきことで、日本人がぜひ教養として知っておくべきなのになかなか頭に入ってこないのが聖書という本の読みづらさだ。
外国映画などでまるで慣用句のように出てくる「カエサルのものはカエサルに」だったりとか、「想像の上でも罪を犯したことのない者だけが石を投げよ」とか、まあこれは新約の方だけど、聖書の内容を知っているといないとでは外国の人と話していても会話にならないくらいの基礎教養である。
日本では「英語ができる」ことを重視するのに、聖書の内容を知らないことはほとんど重視されない。英語ができること以上に大事なのは、彼らが基礎教養として知っているものを知っているということなのに。
グローバル社会を生き抜く上では、基本的に聖書の内容は押さえておくべきではあるが、聖書をそのまま読むと難解過ぎる。また、いま普及している聖書は基本的にさまざまな本の断片を集めた合本であるため、訳者によっても微妙に解釈が違う。そもそも原著はヘブライ語で、ヘブライ語聖書からそのまま翻訳しているわけでもなくて、一度英語になったものを翻訳したりするわけだから話がさらにややこしい。
僕が結婚式に出席して毎回「馬鹿らしいな」と思うのは、白人の神父が出てきて英語で祝詞をあげるところだったりとか、賛美歌が英語だったりすること。当然ながらヘブライ人であったナザレのイエスが英語など知りようもない。そもそも日本にキリスト教をもってきたのはポルトガル人じゃないか。いつのまに英語になったんだろう。
まあそれはそれとして。
世界を読み解く方法がいくつかあるとしたら、聖書を読むことは避けては通れない。
しかし読むのは大変である。何が書いてあるのか途中でわからなくなる。
そうした聖書を、ある意味でナナメから読み解くというのが本書「バカダークファンタジーとしての聖書入門」である。
同じ事実であったとしても、さまざまな訳本の解釈を対照的に紹介しながら聖書に書かれた内容に全てツッコミを入れるという命知らずなことをやってのけている。読むのに多少の聖書の前提知識が必要になるが、全く知らない人が読んでも「聖書ってこんな感じなんだ」とか「神ってすげえな(別の意味で)」とかを理解するには非常に良い本だと思うのでこちらもオススメしておきたい。
しかし、聖書の累計発行部数が国内3億部は凄い。
尾田栄一郎だってそんなに売ってないだろうと思ったら「ONE PIECE」は累計3億2000万部ということで、まあ聖書よりも読みやすいし面白いからいいんじゃないでしょうか。
[まとめ買い] ONE PIECE カラー版(ジャンプコミックスDIGITAL)(1-50)
- 作者: 尾田栄一郎
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