ここ数年、日本ではサラリーマンの副業が話題になっていますね。私の記憶では、副業というと2000年ぐらいまでは、ちょっとしたお小使い稼ぎのため、という印象がありました。しかし、ここ10年ばかりは、副業をやることで複数の仕事を確保し、キャリアの不安定性や、年々減っている実質賃金を補填するための、いわば、保険のような役割に変化しています。
しかし、日本の職場の多くでは、副業を禁止していることがあります。実家の事業の手伝いや、親から相続した賃貸物件の経営などは、半ば放置されているようですが、例えば、サラリーマンが、別の会社でも働くとか、就業後にフリーランスの仕事を受けて働くなんてのは、ほぼ不可能な場合があります。
届出制の会社でも、例えば、筆者として著作物を出していると、就業規則にも雇用契約にも書いていないのに、人事部や広報が内容を監査するといってきたりすることもあります。
著書「日本人の働き方がヤバイ件について」でも詳しく書きましたが、こういう日本のサラリーマンの副業のやりにくさは、実は他の国から見るとちょっと驚きべきことです。
そもそも、雇う方(会社)と雇われる方(サラリーマン)の関係性は、雇用契約で縛られるべきです。労働とは対価の交換に過ぎません。単なる取引です。ですから、会社側は、必要な「サービス」を契約に明記し、サラリーマンはそれを提供すれば良いだけに過ぎません。
舛添知事のようにヤフオクで裸婦画を売り買いするのと同じです。知事が欲しいのは裸婦の絵で、売る方は知事が望むセクシーな裸婦を書いた絵を提供すればいいだけの話です。例えば裸婦画と一緒に女子高生のチャットも提供しろと行ったら、それはオークションの商品説明には書いてないわけですから、単なるワガママなお客ということになります。
ところが、今多くの日本の会社でやっていることは、この「ワガママなお客」と同じことです。本業のパフォーマンスが落ちるかどうかに関係なく、就業後の副業も禁止、従業員の私的な活動も禁止して(しかも雇用契約にはっきり書いてなかったりする)滅私奉公を強要している。
最近では大手でもリストラするような時勢なのですから、会社に縛り付ける「義務」だけ強要していたら、鬱になるサラリーマンが増えるのは当たり前です。
本来は、会社が必要なサービスさえ提供していれば良いだけの話で、就業後に何をやろうかどうしようかは、関与する権利も何もありません。
ただし、その仕事がちょっと特殊で、職業的に色々知り得る秘密がある場合とか、その仕事での立場や権力が強く、副業して莫大な儲けを得られる可能性がある場合、公務員の場合などは、副業を禁止しなければならないこともあります。(仕事でそういう立場の場合の人のことを「利益相反がある」と呼ぶことがあります)
欧州は、利益相反がない場合や、雇用契約で禁止されていない場合は、副業をやっているサラリーマンが結構います。
その理由は、雇用契約に書いてある「サービス」さえ提供してるなら、あとは何やっても勝手だよ、その代わり本業のパフォーマンスが悪けりゃ首だよ、というごく単純な話です。
会社は欲しいサービスだけ提供してくれるなら結構、というドライな関係です。
欧州の中でもイギリスは特に契約社会なので、雇用契約に書いてないなら、私生活でなにをやろうと自由だろ、という感覚です。
英語では副業の事をmoonlighting(ムーンライティング)と呼んだりします。本業が終わった後に、月明かりの中で、夜にせっせと稼ぐ姿からこのように呼ばれます。
イギリスだとこの言葉、職場で普通に出てきます。
「おう、先々週2週間前にメイト(友達)のところでムーンライティングのコンサルやらせてもらったんで、今年の夏のホリデー分は稼いだわ。ガハハハ」
「俺のところは親父が大工だろ。だから最近は週末はオークション(競売)で買ったバイツーレット(賃貸目的で購入する物件のこと)のフラット(アパート)の改修手伝ってんだわ。親父から色々習ったから、俺、庭のパティオの設置なんかうまいんだよ。この前なんか裏庭にブリック(レンガ)で壁作ってね。高さ?2フィートぐらいだな。コンクリ練り練りもうまいよ。あ、買ってるのは俺じゃなくて近所の知り合いなんだけど、一応改修費用もらってるからね。いわゆるムーンライティングだな。でもよ、週末は外でマニュアルレイバーワーク(体を動かす労働者仕事)だろ、もうジム代も節約できるし、健康になるわ、金は入ってくるわで、いいことしかないぞ。お前も一緒にやるか?」
職場ではかなりカジュアルにムーンライティングの話をしています。後ろめたさはありません。だって雇用契約に書いてある仕事はちゃんとやっているからです。
仕事は定時上がりが当たり前、夏冬も長期休暇は当たり前という環境なので、本業の他にフリーでシステム開発をやったり、本業は研究者だけど週末は家具の修理人なんてのが可能です。仕事も日本に比べたら楽なので、副業やるのも大変ではありません。
私の知り合いのケースだと、システム屋をやりつつ映画製作会社経営、ビジネスアナリストだが週末はパイロット、大学の研究者だが音楽スタジオ経営、アパート経営とカスタマーサポート兼業、警官だが時々ミュージシャン、銀行員だが週末は屋台経営、プロジェクトマネージャだがスカイダイバー、という例があります。副業が本業を超えている場合もあります。
そして、副業の方がうまくいったから会社やめるわ、という人もいます。ここのスタートアップの人はそういう人が結構います。例えば、銀行員だったけどラーメン屋がうまくいったからフルタイムでやるわ等です。
そもそも本業のサラリーマンの方も、単に労働力を売って金を稼いでいる、という感覚しかなく、待遇や報酬の良い職場があれば、どんどん転職するのが当たり前なので、会社への帰属がどうとか、同期がどうだ、世間体がどうだ、というのがありません。報酬が良ければ契約社員(自営業)になる人もいます。(報酬が正社員より遥かに高いため)副業やるのも会社やめるのも、恐ろしくカジュアルです。自分のライフスタイルや望む報酬に合う方を選ぶだけの話です。人が何をいおうと聞いちゃいません。そもそも周りも何もいいません。
日本の場合、副業を禁止している会社がありますが、そもそもそんなふうに社員を縛る会社は、ろくな職場ではないので、さっさと辞めてしまった方が良いと思います。そんなところは、要するにマイクロマネージメントしたい嫌な奴らが色々決めているロクでもない組織なので、いても楽しくないです。
楽しくない環境にいると、ジワジワとですが、メンタルをやられます。メンタルをやられると、体の方もダメになります。メンタルも体も、一度やられたら取りかえしつきません。
多少給料や安定性やネームバリューが下がろうが、もっと自由な組織に移動して、本業と自分の好きなことや、得意なことを一緒にやったほうが、人生楽しいに決まってます。
楽しければ病気にもなりにくいし、ストレスで飲みに行ったり散財することもありません。運良く副業の方がうまくいけば、経済的安定だって得られます。家族だって、自分がニコニコしている方が嬉しいでしょう。