消える?「ソフトクリーム+箸」文化 大食堂に人の波
岩手県花巻市で老舗デパートとして親しまれてきた「マルカン百貨店」が、6月7日で閉店する。3月6日に閉店のニュースが流れて以降、6階にある大食堂には名残を惜しむ客が全国から連日押し寄せ、高さ25センチの名物「マルカンソフトクリーム」(180円)を箸で食べている。百貨店の閉店とともに、このマルカン流の“食文化”も消えてしまうのだろうか。【江刺弘子】
人気は「ナポリカツ」とのセット
マルカン百貨店は1960年に衣料品デパートとして創業し、73年に花巻城跡近くの現在の地で百貨店として営業を開始した。百貨店の歴史とともに歩んできた6階の大食堂には、中華そば▽ナポリタン▽みそラーメン▽オムハヤシなど、おなじみのメニューが並ぶ。
同社取締役営業部長の下瀬川憲佑さんによると、メインのメニューに加えて、ほとんどの人が「マルカンソフト」を注文するという。特にナポリタンにトンカツがのった「ナポリカツ」とソフトクリームの組み合わせが人気だ。
マルカン百貨店の大食堂は、閉店が報道された直後から利用者が急増した。あまりの人の多さに、年中無休だった大食堂を3月30日から毎週水曜定休にするほどだ。「お客さまも大切ですが、従業員も大事ですから」と下瀬川さん。
下瀬川さんによると、平均すると通常の約2倍の来客があり、休日は4〜5倍の日も。大食堂は約560席あるが、午前9時ごろから並び始める人もおり、午前11時の開店とともに席が埋まっていく。行列は6階の大食堂から7階へと続く階段にまで延びることも。足を運ぶ人の中には札幌や千葉、静岡、新潟など岩手県外の人も多い。
Tシャツにマルカン文化残す
「ソフトクリームを箸で食べるのはマルカン百貨店の文化」。こう話すのは「Marukan T project(マルカン・ティー・プロジェクト)」を企画した会社員の古川昭浩さんだ。
花巻市でもソフトクリームを箸で食べるのはマルカン百貨店だけ。「この文化がなくなるかもしれない。残したい、忘れずにいたい」との思いを込め、高校の同級生ら3人でプロジェクトを始めた。Tシャツは、渦巻き状の長いソフトクリームを箸ですくうイラストと、「HOW DO YOU EAT?(どのようにして食べるの?)」の文字が大きく描かれている。花巻市内の協力店舗やソーシャル・ネットワーキング・サービスのフェイスブックを通して販売され、予定を上回る425枚が約2週間で完売した。購入者の半数は花巻市外の在住者で、遠くは徳島県や広島県からも依頼があったという。
「高校時代にクラブ活動帰りに寄ったりしていた」と古川さん。中学校の入学前には、マルカンで入学準備の買い物をして、大食堂で食事をしていた。「うれしい買い物」をしていたのがマルカン百貨店だったと振り返る。
花巻市を離れた人も、帰省すれば大抵足を運ぶのがマルカン百貨店で、現在、仙台市に住む古川さんもその一人だ。「当たり前にあると思っていたものが、なくなる寂しさ」を感じている。
閉店のニュースが報道された後、高校生らによる百貨店存続を求める運動や新たなビジネスモデルを作ろうという動きが出ている。Tシャツの収益は百貨店存続に役立ててもらう予定だ。
存続探る活動に期待
マルカン百貨店の閉店が発表された12日後の3月18日、リノベーションによるまちづくりを進める会社「花巻家守舎」(花巻市)が同百貨店の運営引き継ぎを検討すると発表した。
同時にツイッターなどのソーシャルメディアには「マルカン存続」と、歓迎のコメントの書き込みが目立った。しかし、下瀬川さんは「6月7日閉店は変わりません」ときっぱり。
「花巻家守舎」の発表は、マルカン百貨店の経営を引き継ぐことができるかどうか、そのための調査をしているという内容。今月末には引き継ぎが可能かどうかの結論を出すという。
マルカン百貨店の閉店の日が迫る中、現在も「花巻家守舎」のフェイスブックには、「役に立ちたい」といった声やアイデアを寄せる人など、存続へ期待をかけるコメントがたくさん寄せられている。