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Opinion: DJブースの労力

  • DJブースで怠惰が許される時代を迎えつつあるのだろうか? Ryan Keelingが考えを述べた。

    先日、Richie HawtinがAndy Rigby-Jonesと共に展開するニューブランドPLAYdifferentlyの第1弾となるMODEL 1の詳細が発表された。ティザーでは「楽器」として謳われていたこの機材は、いざ蓋を開けてみればDJミキサーだったわけだが、通常のミキサーに様々な変化を加えた仕様になっており、各チャンネルの3バンドEQが削除され、ハイパス/ローパスフィルター、ミッドレンジ用パラメトリックEQ、オーバードライブが追加されているのが最大の特徴だ。HawtinがSXSWのインタビューでAndrew Ryceに対して語っていた通り、このミキサーは「サウンドクオリティと可鍛性を重視している製品」であり、どんなDJでもMODEL 1を扱え、更には素晴らしい体験ができるということを意味している。そして、Hawtinはこのミキサーが「(DJが)天性のクリエイティビティを解放し」、「エレクトロニック・ミュージックのコミュニティを前進させる」ことに期待しているようだ。









    私はMODEL 1をまだ試していないので、現時点で言えるのは「その期待についてやや疑問に感じている」ということだけだ。このミキサーの売りは、ノブを操作してトラックの周波数を追加・削除し、サウンドを “造形する(製品説明ではsculptingと表現されている)” ことにあるようだ。このようなサウンドの柔軟性は間違いなくプラスになるが、実際にはこのフィルタリングがより大きな革新を促すものになるとは考えにくい。もちろん、周波数帯域の変化を幅広く行えるミキサーというのは既に存在している − Rane MP2015だ。これはリリースから間もなくしてハウス・テクノDJの御用達ミキサーとしてPanorama Bar、Concrete、Space、Zoo Project、Renateなどのブースに設置されるようになったが、素晴らしい機材ではあるもののDJプレイに革命をもたらさなかった。また、Raneもそこを狙ってこの機材を開発したわけではなかった。

    私はRichie Hawtinを中傷するつもりはない。むしろ、MODEL 1は大ヒットになる可能性を秘めている機材であり、色々と非難の対象になるサイドプロジェクトを展開している本人についても、エレクトロニック・ミュージックとその進化を常に気をかけている人物という印象を持っている。個人的には、そのHawtinの考えが最も顕著に表れていたように思えたのは、先のSXSWのインタビューでこのミキサーのインスピレーションについて訊ねられた時で、彼は「最近はDJにおけるクリエイティビティが不足しているように思えるんだ。利便性がクリエイティビティを凌駕してしまっているのが理由なんじゃないかな」と回答していた。

    この発言をした時のHawtinは、明確な指摘こそしなかったが、CDJ2000 Nexusを念頭に置いていたように思えた。Hawtinはかつて、我々はポスト “業界基準” 時代に生きており、DJプレイのカスタマイズや個々に合わせたセットアップが可能な時代を迎えていると発言していた。しかし、ここ数年でUSBスティックとCDJが彼のその意見を否定し、最もポピュラーなDJセットアップになっている。これは納得のいく話だ。というのも、CDJは素晴らしい機材だからだ(高額ではあるが)。専用ソフトウェアのRekordboxが時折問題を起こすことを除けば、CDJ2000 Nexusは非常に安定している機材で、機能も数多く備わっている。この機材を使ってデジタルファイルをプレイするのは非常に簡単で楽しい。

    しかし、CDJの台頭は、特にハウスやテクノにおいて、わずかではあるが不安を含んでいるように思える。CDJには、ループや複数のキューポイント、アナログレコードのような操作性、幅広いピッチコントロールなど、素晴らしい機能が数多く備わっているが、新たな「業界基準」と呼べるこの機材は、徐々にDJプレイの基準にもなりつつあるように思える。具体的に説明すると、CDJを使ったDJプレイとは、DJはフォルダからトラックを選択し、適切なタイミングでPLAYボタンを押し、自動で同期しているそのトラックのフェーダーを上げ、EQで多少調整し、最初にプレイされていたトラックのフェーダーを下げる、というものだ。しかも、ループを使えば好きなだけ時間をかけてミックスすることもできる。




    私は「シンクが悪い」ということを言いたいのではない。実際、私はシンクを使ったDJセットや、ミックス作業が一切行われないDJセットを過去何回にも渡り楽しんできた。リスボンのクラブシーンのDJたちが無料のソフトウェアでDJ本人か仲間が制作したトラックの非常に複雑なリズムをシンクさせながら高速のミックスをしているのを見たし、エクスペリメンタルなクラブミュージックのトップDJたちはCDJを使ってジャンルやテンポを高速で行き来しており、一般的なビートマッチのマナーを自分たちのDJセットに持ち込むことはほとんどない。また、最近もタバコをくわえてラップトップの前に座り、トラックパッドを使ってポップソングをデタラメに繋いでいく女性DJをベルリンで見た。しかし、これらのDJプレイは、その音楽を表現するのにベストな方法を取った結果のように感じられたという点で、私が前段で指摘するDJプレイと異なっている。

    DJカルチャーに深く根付いている人力のビートマッチをハウス・テクノのDJプレイから取り除いてしまうと、DJたちが長い時間をかけて培ってきたスキルが失われたように聴こえてしまい、あくまで個人的な印象だが、その代わりに何かが足されている感覚もそこまで得られない。ハウスやテクノのようなクオンタイズされた直線的な音楽において、人力のビートマッチが生み出す独特のブレはDJセットに息吹を与えてくれる。ミスのないセットとミスのあるセットのどちらを選ぶかという質問に対する私の答えは決まっている。100歳になっても、ピッチを合わせようとするDJによって生み出される緊張感に私は興奮を憶えるだろう。ビートマッチは笑ってしまうほど単純なテクニックではあるが、これこそがこのカルチャーの魅力をここまで長続きさせている秘訣なのではないだろうか。RAが『Art Of DJing』の特集をスタートさせた時も、ターンテーブル2台とミキサー1台を使う10人のDJに話を聞けば、それぞれのDJがわずかではあるが明確に異なる自分だけのミックスのアプローチについて話してくれるだろうという感触を得ていた。

    Ricardo Villalobosを例に取ってみよう。彼は数分間ずっとミックスした状態をキープする時があれば、あるトラックを一瞬だけプレイして数時間後にもう一度プレイする時もあり(その一瞬だけで2度とプレイされないトラックもある)、長尺のトラックをプレイしたまま他のトラック同士をミックスする時もある。しかし、彼が類い希なるミックステクニックを使わずに、ボタンひとつでトラック同士をシンクさせるのであれば、上記のいずれもたいした意味を持たなくなる。パフォーマンスのプロセスを人間からコンピュータへ移行させればより魅力的なものになるというのは考えにくい話だ。そして、その移行によって稼がれた時間がDJセットを別の形で力強い内容に変えていない場合はなおさらだ。

    CDJのシンク支持派の中でよく見られるのが、「CDJを使えば、次のトラックについて考える時間が増えることになる」という意見だが、そのようなDJを一度でも見たことがあるだろうか? 私はこの意見に反対で、CDJを使用する最大の理由は利便性にあると考えている。便利なテクノロジーが用意されている、クラブは快適なDJ環境とは言えない、失敗はしたくない、酒も数杯飲んでいる − ならば使おうという話になるはずだ。しかし、20年間ビートマッチをひたすら繰り返してきたベテランDJの立場はどうなるのだろうか? DJは現場で何を証明すべきなのだろうか? 個人的には、現場のDJは自分を今の立場にまで押し上げたそのスキルを客に示す必要があると考えている。ダンスフロアで踊る大半の人たちはDJがボタンを押してミックスをしていることを知らない、もしくは気にしないのかも知れないが、だからといって、自分が楽な方法を選んでいる言い訳にはならない。どちらのDJを選ぶのかという質問をしたならば、圧倒的多数がシンプルなテクニックではあるが、その場で自分たちの才能を示してくれるDJのためにお金を払いたいと回答するはずだ。

    今回私が書いているのは、トラックAからトラックBへのミックスという伝統的なDJプレイに限った話だということをここに明記しておくべきだろう。もちろん、DJプレイには他にも様々な種類があり、Hawtinが支持しているようなライブパフォーマンスに近いものもある。Surgeon、Paula Temple、Speedy J、Chris Liebingなども、通常のCDJやターンテーブルでは実現不可能なDJセットのためにそれぞれが独自の技術的なソリューションを用意している。このようなDJプレイが上手くいっている場合、DJはトラックを分解しながら、新しくて面白い形に再構築していく即興演奏をしているということになる。個人的にこのスタイルに関しては、トラックやパーツに対してどのような影響を与えているのかについてもっと聴覚的に示せるはずだと感じているのだが、いずれにせよ、このようなパフォーマンスでもシンクが非常に重要な位置を占めているのは疑いのない事実だ。

    最近世に出回っているDJ製品の大半が謳っている「クリエイティビティを解き放て!」と同一線上に位置するMODEL 1の製品コピーが醸し出す物議や、DJプレイのフォーマットごとのメリットに関する議論などがあるが、私はその中に未来を示すひとつのシンプルな考えがあると信じている。「抜きんでるために努力せよ」だ。

    どんなDJスタイルでも、自分が最低でもひとつの部分で優れていることを示すことによって向上する。見逃されてきたトラックのディグ、自分で制作したトラックのプレイ、カスタムメイドのセットアップ、Qbertのようなスクラッチ、もちろんビートマッチでも… なんでも構わない。CDJがシーンに浸透している今、この機材で何ができるのかを学んでみてはどうだろうかというのが私の考えだ。実際、EZ、James Zabiela、Karizma、A.G. Cook、M.E.S.H.、Kenny Dope、Black Coffee、Venus X、Terrence Parkerなどをはじめとする数多くのDJたちがCDJの可能性を示してきた。もちろん、このようなDJは人によっては「派手」と呼ばれるタイプであり、彼らのスタイルは徐々にビルドアップするディープハウスには適さないかも知れない。しかし、ただロボットのようにトラックをつなぎ合わせていくDJプレイもディープハウスに適しているとは言えないのではないだろうか? CDJでストレートなテクノをプレイしたいという場合でさえも、シンク(またはBPMカウンターを毎回見る作業)は絶対に必要なものではないはずだ。

    ポップカルチャーにおけるDJシーンのイメージが今まで以上に悪くなり、誤解も多くされるようになっているこの時代において、アンダーグラウンドと呼ばれるそのシーンの一部が、外部の人たちがダンスミュージックとイコールで結びつけがちな「ボタンを押すだけ」という怠惰なイメージと同義になってしまうのではないかと私は心配でならない。
    • 文 /
      Ryan Keeling
    • 掲載日 /
      Thu, 19 May 2016
    • 翻訳 /
      Tokuto Denda
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