数回にわたって悩めるサラリーマンが外国の人に話を聞いて、価値観を変える方法を書いてきましたが、コメントを提供した記事が話題になっていたので、 今回はその記事に関して補足を書きたいと思います。
この記事ではAERAの記者の方に取材を受けて、私もコメントを提供しています。取材の際には一時間以上話しているので、実はこの10倍ぐらいのことを話しています。(新聞や雑誌は紙面の都合上こういうことが多いです。記者さん達は要約がうまいので、忙しい読者にはエッセンスを伝えてくれます )
私のコメント ↓
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引用
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先の谷本さんは、過重労働で人生を奪われそうになっている人たちへ、以下のようなアドバイスを送る。
(1)個人個人が権利意識を持つ (2)労働基準法を勉強する (3)何がいじめ、パワハラ、虐待にあたるかを考える (4)他の業界の人と交流を持って賃金や労働環境の基準を知る (5)ひどい職場だと思ったらさっさと辞めちゃう——。
「辞めて経済的に困っても生活保護があるからなんとか生きていける。でも、心も体も一度悪くしたらなかなか元には戻らない。壊れる前に逃げることが大事です」
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この連載では、うつ病になっても求職させてもらえないサラリーマンや、いわゆる「デスマーチ」状態で働く人が紹介されています。
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病院でうつ病と診断され、上司である部長に休職を願い出ると、こう言われた。 「うつ病の人は一度休んだら復帰するまで長くなるから休むな」
会社は都内にある東証1部上場企業で従業員数も1000人を超えるが、常駐の産業医がいない。
男性は何度も休職を願い出たが、部長の素人判断で断られ続け、1年半もの間泣きながら通勤した。昼食時間は会社近くの公園で泣き、涙をぬぐって午後の仕事に戻る日々。とうとう食事がのどを通らなくなり、体重が1カ月で8キロも減り、立ち上がることもできなくなって休職した。
仕事の何がつらいのか。この特集の第1回で実施したインターネット調査(4月26~28日、回答者2799人)で「仕事でつらいこと」を三つまで選んでもらったところ、「長時間労働・休日出勤」が1260人(45.0%)、「給与・待遇への不満」が1220人(43.6%)、「あいまいな評価制度」が1097人(39.2%)、「上司や同僚との人間関係」が1084人(38.7%)だった。過重労働の一方で、給与や待遇で報われず、労働者が疲弊している現状が浮かび上がる。
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引用 終わり
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私はアメリカ、日本、イタリア、イギリスで働き、IT業界、金融業界、国連専門機関で100カ国近くの国籍の人々と働いてきましたが、フツーのサラリーマンがこういう悲惨な働き方をしているのは、先進国ではおそらく日本だけです。
発展途上国や、独裁者がいるような国だと、こういう働き方はあります。先進国の場合は、マフィアの手下とか、非合法労働に従事している人(例:不法就労で 農園でいちご積み、不法就労でドブさらい)ぐらいであって、フツーの人が日本のサラリーマンのような生活をすることはありません。
失業率が高いので、仕事が選べない南欧だと、契約書以外のことをやらされたり、いつまでたっても激安給料のアルバイト待遇ということもあります。ただし、低賃金労働者でも、日本の サラリーマンの様な激務は要求されません。
しかし、なぜ日本のサラリーマンだけが、給料や待遇で報われず、長時間労働が当たり前なのでしょうか?
昨年出版した自著「日本人の働き方の9割がヤバい件について」では、契約社会でないこと、職務説明書がないこと、労働法の罰則が十分ではないこと等々理由を詳しく分析していますが、一番の原因は、働く方が経営サイドに舐められているからでしょう。
考えてみてください。小学校の頃クラスでいじめられていた生徒を。反撃してきそうにない弱い子、後ろ盾になる怖い兄弟や親がいない子がターゲットになっていたでしょう。
先生の子供、PTA会長の子供、怖い兄貴のいる子供、金持ちの子供、運動が得意で体が大きい子供はターゲットにならない。
反撃してくる可能性が高いからです。
これは職場でも同じで、上司が無理を押し付けるのは「いい人」です。
「いい人」とは、文句をいわず、従順で、法律も弁護士も知らないバカで、職場に一方的な思い入れや忠誠心を持ってくれる人、疑わない人、最悪なことも常に前向きに解釈してくれる都合の良い人間です。
DV男に顔をボコボコに殴られているのに「本当はいい人なの」「彼は気が弱いだけなの」擁護する女性と同じです。
現実を直視しないで、DV男のような上司や会社が「良い人」「彼以外いないの」と思い込んでいる。それは大間違いです。男だって会社だって世の中には星の数ほどあるので、さっさと乗り換えればいい、でも、自分は愛されていない、自分はゴミのように扱われている、自分には無理だ、と思い込んでいるので一歩踏み出せないだけです。
「いい人」は、現状に疑問を持ちません。なぜなら、単細胞なので、他の事例や法律を調べる知能がないからです。ブラック労働から抜け出す方法や、公的援助をもらう方法を知りません。単純なので簡単に洗脳されてしまいます。想像力がないので、上司や経営者が何をすれば困るのか、を考えつきません。
残念ながら、日本の外の職場にはこんな「いい人」がいません。
イタリアもイギリスもアメリカも、ある程度の規模の職場だと、上司が「あなたの役割を変更するから、何さんの仕事もやってね」と突然いったら
「なぜなのか?理由を教えてくれ。それは人員不足が理由か、スキル不足か、マネージメントの問題じゃないのか?俺の雇用契約は変更してくれるの?変更した場合の保障は何?賃金割増?理由に納得するまで俺は従わないよ。どうしても変更しなくちゃならないなら、そのお詫びとして、ドローン操作の外部トレーニングを受けたいんだけど。一週間80万円かかるやつね。前からお願いしてたでしょ? 」
という返答が怒涛のように返ってきます。若い人でも中堅でもベテランでも、何か「命令」されたら、自分が納得するまで質問するのは当たり前です。
管理職も経営幹部も、こういうレスが来ることは最初からわかっているので、働く方の扱いには慎重です。
怒らせないように、法律違反にならないように、論理的に納得してくれるように、色々考えて、仕事をお願いしたり、丁寧ないい方をしてみたり、慰労会を開催したり、一生懸命知恵を絞ります。
だから北米や欧州は、経営幹部層になる様な子供達が、小さい頃から、白を黒という ディベートや作文の訓練を徹底的に受けます。将来相手にするのがこういう人達だからです。
そして管理職や幹部の報酬は高いのです。なぜならこういう面倒くさい人々を説得し、仕事をやらせるというのはたいへん高度なスキルであり、心労がハンパないからです。
働く方の戦闘力が高いので、間違ったアクションを取ると、自分の仕事生命が終了するリスクがあります。訴訟を起こされる、プロジェクトの半ばで逃亡される、優秀な人間を他社に引き抜かれる、自分のミスをぶち撒けられる、不倫メールを全社にばら撒かれる等々。
働く方は想像力が豊富で、大変な悪知恵が働くので、使う方はおちおち命令しているだけではすまないのです。
従業員達は、休み時間に会社の内規や労働法を読み込み、お互いに情報交換し、どこの会社は労働争議でいくら保証金を払ったか、どこの労働法専門の法律事務所は「いい仕事」をするか、淡々と策を練っています。
ひどい会社があったら、マスコミや人権団体をうまく使って、大々的なキャンペーンを行って、会社を陥れます。
欧州人や北米人を管理する日本からやってきた駐在員は、半年も立たないうちに髪の毛が真っ白になることがあります。日本式の管理が一切通用せず、常に後ろから刺されることを予期して、対策を練らなければならないからです。
つまり日本の社畜達がボロ雑巾になってしまう理由は、戦闘力がなさすぎるからなのです。
泥沼労働を脱出したい人は、テレビのグルメ番組を見る暇があったら、自分に得なことをせっせと勉強し、移動できるような技能なり人脈なりを作るべきです。
幸い日本は、ギリシャやスペインやブルガリアよりも仕事はありますし、探せばなんとかなるものです。最悪困ったら福祉だってあります。賄賂を払わなくても生活保護や色々な手当はもらえますから、エリトリアやロシアに比べたら夢の様な国です。
ボロ雑巾になるのは自分にも責任があるんです。
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「日本人の働き方の9割がヤバイ件について」
本書の主なテーマは「日本人の働き方」ですが、世界中で広がる経済格差や、グローバリゼーションの影響にも興味を持っていただければと思います。
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目次
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第1章「働き方」に悩みまくる日本のサラリーマン
「働き方」=「自分の生き方」か?
なぜかバカ売れする「自己啓発本」
日本で異様な人気の『ワーク・シフト』
欧州では批判に晒されている『ワーク・シフト』
かつての日本では「働き方」の本は売れ筋ではなかった
景気が良かった頃の日本人は世界と未来を見ていた
昭和恐慌の頃よりは絶望していない日本人
自分に自信がない日本の人々
日本人は向上心がありすぎるから悩んでしまう
コラム:イギリスの大学教授が「働き方」の本を書かない理由
第2章 あなたが悩むのはニッポンの「働く仕組み」がおかしいから
実は仕事が大嫌いな日本人
日本人にとって仕事は重要ではない⁉
かつては世界のお手本だった日本の働き方
日本企業を賞賛していたドラッカー
日本研究者が無視していること
日本は「世界の劣等生」
忠誠心を重視して新陳代謝が促されない日本の「カイシャ」
年功序列と終身雇用が生産性を奪っている
海外では職場を替えるのが当たり前
年功序列賃金は役所でさえ廃止される
日本人が仕事に不満を持つ理由
素人に仕事をさせては会社も本人も不幸になる
ライフスタイルの世代間ギャップ
若者を殺している日本の働き方
空気を読んでいるから革新が起きない
コラム:こんなに違う! 日本と海外の働き方
第3章 働き方の激変はグローバルな潮流
世界的に拡大する格差
貧富の差の「3つの要因」と働き方の激変
働く場所の意味が消滅する世界
製造業の仕事は先進国で急速に減っている
「カイシャ」というシステムの終焉
会社員がローリスク、ローリターンだった時代の終わり
インターンにさえ格差が広がっている
欧州の大学が英語での教育を急ぐ理由
誰もが「自分商店」にならざるを得ない時代
日本も「働き方の激変」にのみ込まれている
日本の終身雇用はすでに崩壊している
グローバル化の波にのみ込まれる日本の若者
コラム:35歳転職限界説は日本だけ?
第4章 生き残りたければ「自分商店」を目指せ!
働き方に悩む暇はない
仕事の未来を予測せよ
「人気企業ランキング」は参考にしてはならない
「渡り鳥」になれ
「職種の需給予測」を参考にせよ
グローバリゼーションが進む中で生き残れる仕事
生き残れない仕事のランキング
「風が吹けば桶屋が儲かる」はグローバル化時代の仕事でも同じ
ロボットに置き換わる仕事を選んではならない
複雑な判断が必要な仕事はロボットにはできない
自動化が進むホワイトカラーの仕事
生き残るための仕事を選ぶノウハウ
選ぶべきは「やりたい仕事」ではなく、「求められる仕事」
生き残りたければ「自分商店」にならなければならない
コラム:知識を生み出す人々の獲得に邁進する各国
第5章 来るべき時代に備えよ
来るべき時代に備えるために
お金持ちのライフスタイルを参考にせよ
本当のお金持ちこそライススタイルは地味である
家族や友人を大事にする
投資と節税の勉強に時間を費やす
付加価値を生むものにお金を使う
新築住宅を購入するのは負債を抱えるのと同じ
所得ではなく資産で考える
ニューリッチにサービスを提供するビジネスを考える