マッチョなラッパーと非マッチョなラッパー
大谷ノブ彦(以下、大谷) 今回はゲストにCreepy Nutsのお二人、ラッパーのR-指定さんとDJ松永さんにきていただきました!
R-指定(以下、R)&DJ松永(以下、松永) よろしくお願いします!
大谷 いやー、「心のベストテン」でゲストを呼ぶのは2回目なんですけど、Creepy Nutsには絶対に来ていただきたいと思ってたんですよ。
柴那典(以下、柴) 前回のゲストがでんぱ組.incの夢眠ねむさんで、その時もCreepy Nutsの話になって盛り上がってね。
R そうなんですか!
大谷 最近ヒップホップシーンがかなりおもしろいことになってきて、心のベストテンでもよく話題になってるんです。次世代のスターもどんどん出てきて、その筆頭がCreepy Nutsだと思うんですよ。
DJ松永(以下、松永) うれしいなあ。
柴 特に最高なのが『みんなちがって、みんないい。』。ちょっと前のヒップホップ界隈では「お前のやってるのは本物のヒップホップじゃねえ」みたいにディスりあう攻撃的な文化があったと思っていて。それを全部ひっくり返して、茶化しつつユーモアにするのが格好いい。
大谷 そうそう。この連載でも「多様性」についてよく語っているけど、まさに多様性を肯定するヒップホップっていうね。
R そもそも「これはダメ、あれはダメ」ってやりすぎたんで一回シーンが衰退したと思うんですよ。それは先輩たちも言ってます。でも、結果アンダーグラウンドになるにつれて、自由になって。細分化されてきた。
松永 今はもう何をやってもディスの対象になったりはしないよね。
柴 なるほど。そういう感じだったんだ。しかし、本当に今のジャパニーズ・ヒップホップっておもしろいことになってますよね。
大谷 シーンが活気づくときって、必ずその中でアイコンを引き受ける人がいるんですよ。いわゆるヒップホップのイメージをそのまま体現したような人。今それをしているのが前にも取り上げたKOHHだと思っていて。
柴 「ザ・ヒップホップ」みたいな人がKOHHだ、と。実際そんな感じなんですか?
R そうですね。上の世代で言うと、Zeebraさんがまさにそういう人で。それ以降だと、DABOさん、般若さん、ANARCHYさん、SEEDAさんのような人たちがいて。俺らの世代だとKOHHさんだと思います。
大谷 で、その対極の位置にいるのがCreepy Nutsだと思ってて。
柴 対極なんですか?
大谷 分かりやすくいうとマッチョと非マッチョな感じというか。
柴 なるほど。一方でZEEBRAさんの世代の非マッチョなラッパーでいったら、ライムスターは大きかったですよね。ユーモアもあって。
R それこそ、僕らが一番影響を受けたのがライムスターなんです。ライムスターが当時の田舎の中学生に刺さった結果こうなったんですよ。
柴 ライムスターのどこが刺さったんですか?
R うーん、スキですかね。
柴 隙?
R ラッパーっていかつくて恐くて隙がないイメージがあるじゃないですか。でも宇多丸さんは、わりとおおっぴらにイケてないところをさらすんですよ。
柴 たしかにリリックの中で自分のことを「元帰宅部」って言ってますもんね。
R そういうイケてないところをヒップホップという音楽に落とし込んでもいいんだ!って教えてくれたのがライムスターだったんですよ。
松永 僕もライムスターの存在はかなり大きいですね。ラジオをよく聞いてたんですけど、ラジオだと完全に「おもしろおじさん」だったんですよ(笑)。
柴 人間性で好きになったんだ。
松永 あと、僕は歌詞をぜんぜん聞かないタイプなんですけど、ライムスターは音で聴いても単純にかっこよかったんですよ。だから、余計に大好きだった。
柴 つまり、Zeebraや般若のようなマッチョなラッパー像を受け継いだのがKOHHで、非マッチョなライムスターのようなラッパー像を受け継いだのがCreepy Nutsだ、と。
R いや、僕は中学生の時に最初に心を動かされたのはハードなヒップホップだったんです。そういうラッパーって隙がない感じがするじゃないですか。
大谷 ああ、ツッコミずらいというか、親しみづらいというか。
R でも、みんなよくよくみると、どっかにほころびがあったりするんですよ。
柴 どこかに隙がある?
R ありますね。探せば絶対ある。特にライムスターのそういう懐の大きいところが、大好きなんです。
童貞の自分を笑い飛ばせる、ということ
大谷 今は『フリースタイルダンジョン』※がめちゃめちゃ盛り上がってますよね。反響も大きいんじゃないんですか?
※フリースタイルダンジョン:即興のラップバトルで若手の挑戦者が実力者「モンスター」に挑む番組。
R そうですね。よく声をかけてもらえるようになりました。
大谷 フリースタイルでMCバトルしている時とCreepy Nutsで音源を作ってる時って、どんな風にわけてるんですか?
R 基本的には地続きですけど、使っている脳みそは多少違いますね。
松永 『フリースタイルダンジョン』の時はかなりデフォルメしている感じはあるよね。
R やっぱりバトルのときは、攻撃性の高いキャラクターになっているんです。でも、Creepy Nutsでは普段考えていることを出す感じですね。
大谷 僕ね、そもそも二人がどうしてタッグを組んだのかすごい気になるんですよ!
柴 確かにRさんがラッパーで松永さんDJだから、お互いソロでもやれるわけじゃないですか。
R 俺としては「おもしろい人間だったから」ってのが一番ですね。同じような音楽が好きで、同じような感覚が共有できて。あとお互い……童貞だった。
R 19の時に出会ったんですけど、新潟と大阪の若手同士で「えっ童貞ですか?」「マジで!?」「オレもオレも」みたいな感じで友だちになって。
松永 やっぱりヒップホップやってる人ってイケイケで、早くに卒業してるやつが多いんですよ。そんな中で奇跡的に出会った(笑)。
R まあ、僕は途中で童貞を卒業しちゃったんですけど、マインドはずっとそのままなんで、仲良くしてて。
松永 オレはナニクソと思ってるけどね。
大谷 えっ!? ってことは松永くんってまだ童貞なの!?
松永 今もです(真顔)。現在進行形です。
大谷 今いくつ?
松永 25歳です。
大谷 えっ、Rくんが童貞卒業したのを聞いた時は、ショックだった??
松永 いや、でも「行ってこい」って感じはありましたけどね。
大谷 なんで上から目線なんだよ!(笑)。
R 僕らの周りに未だに童貞のやつがいるんですけど、そいつら全員、仲間が飛び立つ時に、妬みとかじゃなくて、「いずれそういう時が来ると思ってたよ」みたいな感じなんです。
松永 でも複雑な気持ちですよ。もちろんうれしいし、全力で祝いたいんだけど、どっか全力で祝えない自分の器の小ささに悩みつつ……。
R だって一時期、僕と松永さん、半同棲みたいな感じでしたもんね。
松永 その頃、こいつが1年の半分以上俺の家に住んでたんですよ。寝ても起きても隣りにいるし、着てる服の洗濯だって俺がやってたのに、彼女ができてから急に家に来なくなって……
柴 さびしい!
松永 この歯ブラシ、捨てちゃおかな、とか。
一同 爆笑
松永 あれ、もう捨てたから。
R はい……。
大谷 最高だなあ! そのまま行ってほしいわ。
R そういう自分を笑えるってのが、すごいデカいんですよ。
『フリースタイルダンジョン』とは『笑点』である
柴 たしかにこうやって話を聞いていくと、『フリースタイルダンジョン』のR-指定さんのラップには、Creepy Nutsの童貞感はあんまりないですね。
R でも、あれも俺の中の一部分なんですよ。これは最近たどり着いた考えなんですけど、どれだけ自分がイケてなくて、どれだけダメで、どれだけモテないやつだとしても、ヒップホップをやる以上、覚悟を決める必要はあるんですよ。ラッパーとしてバトルという勝負の世界に立つ以上、男として引けない場面がある。
柴 「絶対勝つぞ!」っていう気合ですね。
R 人前に立って何かをやるって意味では、ライブもそういうところあると思うんですけど。そこでスイッチを入れるんです。ただ、そこでウソをついたり見栄を張ったりする必要はない。
大谷 というと?
R そこで「俺は不良だ」「ケンカも強い」って言うんじゃなくて。「俺はイケテない、それでもラップだったらやれるんや」っていう。そういう覚悟を決めてやってるっていうのはありますね。
柴 なるほどなあ。かっこいい。
大谷 僕ね、『フリースタイルダンジョン』と『笑点』が似てるなと思うことがあるんですよ。『笑点」を立ち上げて初代の司会を務めたのが立川談志師匠なんですけど、なんで談志師匠が『笑点」を作ったか、知ってます?
柴 なんでですか?
大谷 1970年代の段階で、だんだんテレビで落語が流れなくなっていったんですよ。劇場でやってる通常の尺の落語をそのままやると、長すぎて視聴者が途中でチャンネルを変えちゃう。だから『笑点』を作って、「大喜利」のような短く笑えるコーナーをメインにした。
R ああ~。
大谷 だから『フリースタイルダンジョン』って、ヒップホップにおける『笑点』みたいな感じがするんですよ。
R いや、わかります……。実は僕、一時期『フリースタイルダンジョン』に出るか迷っていた時期があったんです。
大谷 なんでですか?
R ちょうどライブをがんばりたいと思っていた時で。今まで死ぬほどフリースタイルのラップバトルしてきたのに、またこれをテレビでやって勝ち負けを決めないといけないと思うと迷ってしまって。
柴 UMB※で前人未到の3連覇をした後ですもんね。
※ 日本最大級のラップバトル。R-指定は2012年から3連続チャンピオンとなった
松永 またバトルかってね。
R でもその時に、僕も落語が好きなんですけど、桂米朝さんが「俺や門下生がテレビに出るのは、“寄席”に客を増やすためだ」って言っていたのを知ったんですよ。だから、自分もこの意識でがんばろうと思ったんです。
柴 なるほど! テレビに出るというのは、あくまで現場に人を呼ぶためだ、と。それがシーン全体を盛り上げることにつながる。
R そうです。結果としてライブに来てくれる人が増えたらいいなって。
Creepy Nuts(クリーピー・ナッツ)
日本最高峰のMCバトルUMBで2012,2013,2014年と優勝し全国3連覇を遂げたラッパー「R-指定」とターンテーブリストであり、トラックメイカーとして活躍する「DJ 松永」による1MC1DJユニット。2016年1月に1st Mini Album「たりないふたり」をリリースし話題となっている。
構成:田中うた乃 写真:豆健太郎