印南敦史 - お金,スタディ,マネーハック,書評,節約術 06:30 AM
節約する秘訣は、「ラテ・マネー」を意識すること
「ダイエットと節約はとてもよく似ている」と主張するのは、『その節約はキケンです――お金が貯まる人はなぜ家計簿をつけないのか』(風呂内亜矢著、祥伝社)の著者。ファイナンシャルプランナーとして、これまでに3000人以上の資産状況をヒアリングしてきたという人物です。でも、ダイエットと節約のどこに共通点があるのでしょうか?
大きな共通点は「世間の噂話を鵜呑みにするとキケン」という点です。(中略)節約法もネットや新聞で見たやり方を真似するだけだと、かえってお金が貯まらない事があります。その方法の本質を見落とすからです。(「はじめに」より)
お金を貯める方法は、テレビや新聞、雑誌、本などを通じて入手する事ができます。しかし、それらが誰にも合っているとは限らないということ。誰かにとって効果的なダイエットが、自分に向いていないことがあるのと同じだというわけです。
そこで本書では、さまざまな節約スタイルを紹介しているわけです。しかも特徴的なのは、「キケン」という観点から話を進めている点。リスクを避けることを念頭に置き、そこからよりよいメソッドを見つけて行こうとしているのです。3章「その考え方はキケン」から、いくつかをピックアップしてみましょう。
欲しいものを我慢するのはキケン
貯蓄には、必ず我慢が伴うもの。そう考えている人も少なくないかと思いますが、必ずしもそうではないのだと著者はいいます。実際、節約上手の方のなかには、おいしいレストランを楽しんだり、ブランドバッグやマンションを購入するなど、欲しいものを手に入れて、なおかつきちんと貯蓄をしている人も多いというのです。
でも、欲しいものを手に入れながら貯蓄までするなどということが可能なのでしょうか? 著者はこの疑問に答えるにあたり、『自動的に大金持ちになる方法--オートマチック・ミリオネア』(白夜書房)などの著作を持つアメリカの資産コンサルタント、デヴィッド・バック氏の「ラテ・マネー」という言葉を引き合いに出しています。「ラテ・マネー」とは、意識せずに使っている「自分にとっては実は重要ではないお金」のこと。
必要性を感じていないにもかかわらず、習慣だからと毎朝買っている「カフェラテのようなもの」というたとえから生まれた言葉だそうです。1杯400円のカフェラテでも1カ月で20杯、1年で240杯、1年間の合計金額は約10万円(400円×20日×12カ月=9.6万円)。
貯蓄上手な人は、欲しいものは単価が高くても購入している一方、日々の生活で大切だと思えない費用については、お金をかけない工夫をしている人が多いのだとか。つまり、日常生活からラテ・マネーを徹底的に排除しているということ。いってみれば、少額であると大金であろうと、「自分が価値を感じないものに対しては、お金を払わない」ということが非常に重要な指針となるわけです。
ちなみに、私にとって初めて見直したラテ・マネーは「銀行ATMの手数料」でした。時間外にお金をおろすことで手数料がかかっていたのです。1回当たりの金額は数百円なので、お金を貯めようと意識していなかった時には、気にも留めていませんでした。(137ページより)
そして以後は、当たり前だと思って払っていた費用が、実は削れるものだと気がつくようになったのだそうです。カフェ代や会食費も、見なおしをしたというのです。
・ATMを時間外に利用して1回約200円、月に2回利用していたものを削減すれば年間約4800円
・カフェ1杯400円のものを週1回にして、他の日は1杯30円のドリップパックにすることで年間約7万1000円
・会食を月にディナー(1回6000円)4回参加していたもののうち、2回はランチ(1回2000円)に切り替えるだけで年間9万6000円
(138ページより)
こうして、年間約17.2万円の節約を実現。そんな経験があるからこそ、自分にとって大切でないものを買わず、残したお金で、本当に欲しかったものを購入できれば、「我慢ばかりしている」というつらい思いを減らすことができると著者はいうのです。
逆に、欲しいものを手に入れないまま闇雲に節約を続けてしまうと、節約疲れになり、本当に欲しかったかどうかわからないものを衝動買いしてしまいがち。無意識に使っている「ラテ・マネー」がないか、そしてそれを排除できないか、心がけるべきだといいます。(134ページより)
即決はキケン
ビジネス書などでは、決断力があって即決できることがよいとされています。悩む時間もコストである以上、判断に時間をかけすぎるのはたしかに問題。仕事の内容によっては、インスピレーションが大切な場合もあるはずです。
しかし、それを踏まえたうえで著者は、買い物において「即決をしない」は大切なルールだと断言しています。限りあるお金を本当に必要なものに充てるためにも、欲しい気持ちがいちばん高まっているときには即決しないことが重要だというのです。
感情にまかせて即決してしまい、あとから「こんなはずじゃなかった」と思うのはつらいもの。契約や購入のときならともかく、後戻りできなくなってから誤解に気がつくと、ものが手元に残るだけになおさら、「失敗だった」という気持ちを後々まで引きずることになりかねないわけです。
著者も、黒のカーディガンを買いに出かけたのにチェックのパンツとカラフルなボーダーのカットソーを買って帰ってきてしまうようなお金オンチだったといいますが、「即決しない」というルールを決めてからは、被服費が3分の1に減ったのだといいます。
一時期、実際には買わずに楽しむだけという「エア買い」という言葉がはやったことがあります。「購入したらこんな使い方をしようと想像するだけで、実際には買わない」などやり方はいろいろですが、こうした「エア買い」も、即決を避けるための上手な方法だといえるとか。そんなことも含め、買い物においてはとにかく(即決)を禁じる。それも、お金を守る有効な手段だそうです。(175ページより)
「節約するより稼げばいい」はキケン
著者は節約に関するセミナーなどで、「節約も大切だけど、稼ぎを増やさないとダメですよね」とたずねられることがあるのだそうです。たしかに節約できるお金にも限界がありますし、積極的に貯蓄を増やしていくためには、収入を増やしていくことが大事。しかし、恵まれている収入条件で働いている人でも、貯蓄が数十万円という人は決して少なくないのだそうです。
むしろお金とのつきあい方が上手な人は、節約に対しても前向きな人が多いと著者は指摘しています。節約を些細で遠回りなことと考えず、自分に取って必要なものかそうでないものかを見極め、大切にお金を使うというのです。
それに対し、節約よりも稼ぐほうが早いと考えるタイプの人は、「必要な消費かどうか」を見極めること自体を面倒だと感じていることが多いのだとか。それどころか、節約の効果を過小評価している人もいるそうです。
でも現実的に、自分の収入を自分でコントロールできる人は多くないもの。だとすれば、誰でも自分の意思で改善ができる節約は、家計防衛の王道の手段だということです。そして具体的には、「収入--支出=貯蓄」という計算式に資産運用の成果を加味することによって、財産を増加させる要素が表現できるのだそうです。つまり、財産を増加させるためには、
1. 収入をふやす
2. 支出を減らす
3. 資産運用の成績を改善する
(181ページより)
この3つしか方法がないということ。1.と3.は努力以外の影響が大きいものの、2.の「支出を減らす」だけは、誰でも自分の取り組み次第で成果を得ることが可能。節約を心がけて支出を抑えることは、資産形成において決して軽く扱えない大切な要素。だからこそ、家計防衛のため節約に取り組まない手はない。それが著者の考え方です。(179ページより)
タイトルは節約を否定しているようにも見えますが、そうではなく、本書で著者が訴えようとしているのは、節約の「手段」「方法」こそが重要だということ。きわめて現実的なスタンスが貫かれており、しかもすぐに応用できそうなものばかりなので、なにかと役に立ちそうな1冊だといえます。
(印南敦史)
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