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未来授業~明日の日本人たちへ 池上彰氏 ~未来を生き抜く「武器」としての教養~

2014年01月31日

 今回の講師は、ジャーナリストの池上彰さん。慶応義塾大学経済学部卒業後、NHK社会部記者を務めたのち、報道局記者主幹に。1994年から11年間、「週刊こどもニュース」のお父さん役としてさまざまなニュースを解説して好評を得ました。NHK退局後はフリージャーナリストとして、テレビ、新聞、雑誌、書籍など幅広いメディアで活躍中。著書も多く、2013年の新刊『学び続ける力』(講談社現代新書)も話題を呼んだばかりです。

私たちにとって、「学ぶ」とはどのようなことなのか、お話をお聞きしました。

教養と常識の違い

 常識を持っている人、すなわち常識人は破壊的な行動ができず、世の中を変えることができないのではないかと思うのです。みんなとうまくやっていかなければいけない、仲よくやっていかなければいけないという「常識」や社会的ルールをよく知っていて、それを守っていこうとするからですね。そしてこれが、「常識がある」ということです。現実のさまざまなルールを肯定して、そのルールを守ろうとすることがある種の「常識」であるわけです。

 つまり常識人はうまくやっていけるけれども、世の中をひっくり返したり、新しいものをつくり出したりする力があるかどうかは疑問であるということ。常識人はこの世の中をドラスティックに変える力を持っていないという定義の仕方も、あり得ると思うのです。

 では教養とはなんでしょうか? いろいろな意見があると思いますが、私があえてつけ加えたいのは、「歴史を知っている」ということです。さまざまな歴史を知っていると、いま起きていることがわかるようになるからです。たとえばアベノミクスによって金利が下がり、円安になり、株価が上がり、土地の価格が上がり始めたという、経済的ないろいろな動きがあります。さあ、この流れはどうなるのでしょうか?

 たとえば過去の経済に照らし合わせると、だいたい30年ごとに大小さまざまな「バブル」が起こり、そして弾けています。どうしてこういう現象が起きるのでしょうか? いったんバブルを経験し、弾けて痛い目に遭った人は二度と手を出さないはずです。ところが30年もすると、経済の主流の人たちがすっかり入れ替わってしまうわけです。そこでまたバブルを経験していない人たちばかりになると、結局は新しいバブルが引き起こされ、やがてそれが弾けるわけです。

 アベノミクスの行方を考えるとき、少しでも歴史を知っていると「ちょっと待てよ」といささか懐疑的な視点で見ることができるはずです。いまの世の中の仕組みは行き詰まっているので、なんとかしなければいけません。過去のさまざまな歴史や世界各国の状況を見ると、教養があれば改革をすることができる可能性が出てきます。ですから「常識」と「教養」の違いを説明するなら、「常識人には世の中を改革する力がない。教養を持っている人は世の中を改革する力がある可能性が高い」という定義の仕方もできると思うのです。

物事を批判的に見る

 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という有名な言葉のとおり、教養を通じて、自分が経験できなかったことを学ぶことができます。バブルの話で言えば、バブルが弾けて痛い目に遭った人は、もう手を出しません。ですから、その人たちが社会の主流にいる限りバブルは起きません。でも先ほどもお話ししたとおり、やがてその人たちがいなくなると、また起きるのです。

 でも、バブルが起きる構造を歴史に学んでおけば、少なくともそれを防げる可能性は高まります。人間はいろいろな失敗をし、痛い目に遭うと、もう二度としないように注意します。これは誰でもできることです。しかしそうではなく、自分の知り合いがなにか失敗したら、その失敗から自分が学ぶこともまた広い意味での「教養」になるのではないでしょうか?

 では、教養を身につけるためには、なにをどう勉強すればよいのでしょうか? この問題を考えるにあたって紹介したいのは、「なにがわからないかがわかれば、半分わかったのも同然だ」という私の好きな言葉です。なにがわからないのか徹底的に考え、突き詰めることによって、本当の疑問はここなのだということがわかれば、その点に的を絞って人に聞けばよいということになります。あるいは、そこだけ自分で勉強をすればよいわけです。つまり、なにがわからないかを、まず自分が知るということ、これが物事を獲得する一番大事なポイントではないかと思うのです。

 さらに、教養を身につけるためには、どう学べばよいのでしょうか? このことを考える際、私がみなさんに言いたいのは「批判的に読む」というものです。ぜひ、批判的にたくさん本を読んでほしいのです。これまでは「立派な先生や偉い先生が言ったことだ」「教科書に書いてあることだ」と、それらを無批判に一生懸命読んでいたのではないでしょうか? でも、「ちょっと待てよ、この先生が言っていることは本当だろうか?」と批判的に物事を見ていく。あるいは有名な先生が書いている本を読んだとき、「どこかになにか問題があるのではないか」と、すべてを批判的に受け止める、これが大事なことなのではないかと思います。

 たとえばニュースを見ていると、キャスターがもっともらしいコメントをしています。でも、「ちょっと待てよ、本当かな?」と疑ってかかる懐疑心が大事なのです。学問の場においては、徹底して批判的に物事を見なければいけないと思います。



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【池上彰 (いけがみ・あきら】
ジャーナリスト。1950年、長野県生まれ。 慶応義塾大学卒業後、1973年NHK入局。報道記者として、松江放送局、呉通信部を経て報道局社会部へ。警視庁、気象庁、文部省、宮内庁などを担当。1994年より11年間出演した「週刊こどもニュース」が話題に。2005年NHKを退局。現在はフリージャーナリスト。2012年より東京工業大学教授。



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  • シンGさん

    まだまだ、学ぶことがたくさんあります。気持ちをリセットし学ぶ心を大事にします。

    2014年03月17日 08:13

  • ミツさん

    今年55歳になり、今まで経験した事柄を、若い人たちに伝授するのが、自分の仕事だと思っていましたが、死ぬまで勉強ですね、向上心をもって楽しくやってみたいと思いました

    2014年02月11日 16:53

  • ymidriverさん

    批判力を身につけ、何事にも疑問を持つようにしたい。

    2014年02月08日 11:30

  • ちびちぃさん

    人を疑わないことが大事。と教わってきたが、自分で考えることで世界が広がる様な気がしました。勉強していませんね。本を読むことから始めてみたいです。

    2014年02月06日 13:59

  • tet2yuさん

    最後のところ、お父様の姿勢を見習いたいと思いました。

    2014年02月05日 17:51

  • ネコダさん

    人間は死に向かって成長する、死に向かって完成する。この言葉を大切に生きて行きたい。

    2014年02月03日 17:07

  • ミネノユキさん

    池上氏には常々肯定的な評価をしているが、今回の記事にも今後の生き方への至心を見出しました。

    2014年02月03日 10:08

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