投資のバイブル「堅実な投資原則」
年初から4ヶ月、例年にも増してマーケットが変動した。投資家の中には苦しんだ方も多いことだろう。ここでは、そんな方のために、投資の神様で有名なウォーレン・バフェット氏の師匠にスポットを当てて「堅実な投資原則」をお伝えしたい。
バフェットをして「師をはるかに超越した存在」と称した経済学者で投資家のベンジャミン・グレアム(バフェットには師匠が)。「バリュー投資(割安株投資)の父」と言われるグレアムに学ばなければ、「投資の神様」も「バリュー投資」もここまで脚光を浴びることはなかっただろう。バフェットは、グレアムの投資原則を引き継いだ一番弟子だ。バフェットは自分の次男に「ハワード・グレアム・バフェット」という名前をつけている。いかにグレアムを尊敬していたかがわかるだろう。
グレアムはその優れた理論とともに、実際の運用パフォーマンスも長期間に渡って米国株の指数をアウトパフォームしていたため、信奉者は増えていった。当時はまだバリュー投資という言葉はなかったが、グレアムの哲学が、ウォーレン・バフェット、チャールズ・マンガー、ウォルター・シュロス、カーン・ブラザーズといったそうそうたるバリュー投資家に引き継がれ、バリュー投資の父と言われるようになったのだ。
グレアムが1949年に上梓した「賢明なる投資家」は、半世紀以上たった今でも、ファンドマネージャーを志す人に読み継がれているバイブルである。「賢明なる投資家」という邦訳も優れているが、原題の「The Intelligent Investor(インテリジェント・インベスター)」というタイトルは歴史に残るコピーだろう。グレアムは没後40年経つため投資のプロ以外では知名度は高いとは言えないが、バフェットの教えの源流に触れることで、バフェット流投資術の理解がさらに深まるに違いない。バフェットは同著に対し、「歴史的に見ても最高の書籍」と最大の賛辞を贈っている。
「賢明なる投資家」では証券分析などの方法論より、投資原理や投資家のとるべき態度といった賢明なる投資家になるための哲学をメインに伝えている。グレアムは「証券分析」という名著も残しているが、個人投資家にとっては、ファンダメンタルズ分析、分散投資、長期投資、割安株投資について語った「賢明なる投資家」が投資活動の参考になるだろう。投資原則のエッセンスを紹介しよう。
1.投資とは詳細な分析に基づいて行うものであり、元本を保全して、適切なリターンを上げること。この条件を満たさないものは投機だ。
2.将来のことは分からないのだから、投資家は手元資金をすべてひとつのバスケットに入れてはならない。その安全で堅実な範囲を超えて冒険に挑んだ人々は、精神的に大きな困難を背負うことになる。
3.投資家と投機家の相違は、その人が相場変動に対して、どのような態度で臨むのかという点である。投機家の関心事は、株価の変動を予測して利益を得ることであり、投資家の関心事は、適切な証券を適切な価格で取得し保有することである。
4.安全域の原則を確固として守ることによって、十分なリターンを得ることが可能である。安全域の原則は、割安銘柄に適応することでさらに明白なものとなる。割安銘柄は株価がその株式の本質的価値よりも安い状態にあるわけであり、その差が安全域である。
グレアムの投資原則が話題になるのは、決まって成長株のバブルがはじけた時である。米国では、1968年にIBMを代表とする「エレクトロニクスバブル」が崩壊した。2000年にはAOLやネットスケープを代表とする「インターネットバブル」が崩壊した。バブルが崩壊するたびに、グレアムの投資原則が再注目される。
短期的に成長株投資のヒーロー的なファンドが生まれたとしても、長期で生き残るファンドはバリュー投資のファンドが多いのである。日本でも今はマザーズ市場などの成長株に目が向いているかもしれないが、過去のバブル崩壊の教訓とグレアムの投資原則を胸に刻んでおきたい。
個人投資家の力になる6つの有名な言葉を紹介しておこう。
1「過去57年間を振り返れば世界を揺るがすような時代の浮き沈みや悲惨な出来事にもかかわらず、堅実な投資原則に従えば概して手堅い結果を得られるという事実は常に変わることがなかった」
2「日々の株価、時々刻々と変わる株価の動きを見ながら毎日を過ごさなければならないと誤解している人が少なくない。もしその人が投機家ならそれもいいだろう」
3「現在の収益と目先の見通しは悪くても将来の状態を冷静に評価すると、現在の価格よりもはるかに高い価値を示すことがある。以上のことから、市場が低迷している時期にこそ勇気を持つことがいかに賢明かということが経験だけではなく、信頼できる価値分析法によっても証明できる」
4「過去50年以上にわたる経験と市場観察によれば、『テクニカル・アプローチ』によって、長期にわたり利益を上げた者などひとりもいない。」
5「感情をコントロール出来ないならば、投資のプロセスには向いていない」
6「個人投資家にできないことは『プロのゲームでプロに勝つこと』、自分のゲームで自分にコントロールできることで勝てば良いのだ」
今年の株式相場は過去にも増して変動率が上がっている。長期投資家の存在感が薄くなり、短期志向の投資家が増えていることもその動きを助長しているに違いない。
長期の資産形成を考えた場合、ブレナムの言葉のもう一度よく考えてみよう。「世界を揺るがすような時代の浮き沈みや悲惨な出来事」にもぶれない投資行動を続けること、世界を揺るがすような時こそ割安株のエントリーチャンスと考えるべきことなど投資に生かせる考え方は多い。
長期の個人投資家が、米国雇用統計などで一喜一憂する必要があるのだろうか?日々の株価の動きにあまり惑わされず、長い目で考えることを身につけたい。徹底したバリュー投資にならないまでも、投機家とならず賢明なる投資家として堅実な投資原則をもって株式市場の接していきたいものだ。
平田和生
慶応大学卒業後、証券会社の国際部で日本株の小型株アナリスト、デリバティブトレーダーとして活躍。ロンドン駐在後、外資系証券に転籍。日本株トップセールストレーダーとして、鋭い市場分析、銘柄推奨などの運用アドバイスで国内外機関投資家、ヘッジファンドから高評価を得た。現在は、主に個人向けに資産運用をアドバイスしている。
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