[PR]

 今年も多くの人が楽しんだ花見が、できなくなるかもしれない。最近、海外から来た桜を食い荒らす害虫が分布を広げているからだ。専門家は「対策をとらないと、最悪の場合20~30年で花見ができなくなる」と指摘する。環境省などが対策に乗り出した。

 埼玉県草加市の葛西用水の両岸の桜並木。ソメイヨシノの幹にはカミキリムシの写真付きで「指名手配」のポスターが張られ、「見つけたら踏み潰して下さい」とある。2013年夏、この場所で見つかった害虫「クビアカツヤカミキリ」だ。ポスターは翌年、地元の団体が張った。

 中国や朝鮮半島などが原産地とされ、体長2・5~4センチ、光沢のある黒い体に赤い胸部が特徴だ。幼虫時代に桜や桃などの生木を食い荒らし、最悪の場合枯れさせてしまう。環境省の生態系被害防止外来種リストにも載っている。

 並木近くの男性(75)は「一昨年は特に食い荒らしがひどかった。ヒゲにも模様があってきれいな虫だね」と話す。別の男性は「3年前に見つかったらしいけど、その前から元気のない桜はあった」という。

 草加市などは13年、市が管理する桜約2600本を調べたところ、100本以上で、幼虫の食い跡を確認。中には食い荒らされて枯死したとみられる木もあった。市くらし安全課の担当者は「成虫が木から出られないようにネットをかけたり、枯れた木を処分したりした効果もあって、昨年以降は減っているようだ。なんとか根絶したい」と話す。

■12年に初確認

 クビアカツヤカミキリは12年、愛知県で国内で初めて確認された。幼虫が成虫になるまでに2~3年かかることから、その数年前には侵入していたとみられている。フォークリフトのパレットなどに潜り込んでいた可能性があるという。15年には東京や大阪の公園の桜などで相次いで見つかった。6都府県で確認され、今後花見の名所や公園にも脅威が及びかねない。

 徳島県では昨年7月、県北部の桜や果樹園で、見つかった。県の病害虫防除所が被害を調べたところ、桃130本、桜43本、梅7本で幼虫が食い荒らした跡が見つかった。県が実際に成虫をつかまえて試験したところ、試した農薬3種のうち1種が比較的よく効いた。担当者は「早期に防除技術を確立したい」と話す。

 環境省と農林水産省は2月、全都道府県に情報提供し、防除態勢を整え、発見した場合には速やかに駆除するよう求めた。今後、拡散経路や分布が広がるリスクが高い場所の洗い出しを急ぐ。都市公園などを管轄する国土交通省も、都道府県などに情報を提供。環境省外来生物対策室の担当者は「地域の桜を守るため、出来る限りの対応をしていく」と話す。

■初夏に駆除を

 カミキリムシに詳しい、日本大学生物資源科学部の岩田隆太郎教授(森林・木質昆虫学)は「今後、事態を無策で放置すれば、最悪の場合20~30年で日本から花見という行為が無くなる」と警鐘を鳴らす。

 クビアカツヤカミキリは亜寒帯から亜熱帯まで様々な気候に適応できる上、他の甲虫に比べて産卵数が多く繁殖力が強い。対応が後手に回ると爆発的に増え、駆除にかかる人手やお金が大幅に増えてしまう。

 成虫が出てくる6~7月に駆除するのが有効だ。ネットを木の根元付近にかけ、カミキリムシが出て来られないようにし、成虫の分布が広がることを防ぐ。見付けたら捕殺することも重要だ。伐採した木などからも成虫が出て来ないように、木を放置しないなどの対策も大切だという。

 岩田教授は「食べ跡が見つかっても、地元の文化財などだと切りたがらない場合もあるが、疑わしいものはすべて切る必要がある」と話す。(小坪遊、小堀龍之)