2016年5月14日05時00分
2020年東京五輪・パラリンピック招致で東京側から国際陸連前会長の息子側へ約2億2300万円の支払いがあった問題で、東京招致委員会の理事長だった日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長は13日、「正式な業務契約に基づく対価」と述べ、正当性を主張した。▼3面参照
東京招致委が支払いをした「ブラック・タイディングズ」社はシンガポールにあった。経営者のシンガポール人のタン・トンハン氏は30歳代前半で、市街地に近い築50年以上の公団住宅4階の自宅を事務所として登録していた。招致委からの送金が明らかになった13日午後に訪れた。人がいる気配がしたのでドアをノックしてみたが応答はなかった。周辺住民の話では、タン氏の家族が住み、本人とみられる男性が出入りする姿もみられたという。
同社は、ロシア陸連のドーピング問題で名前が挙がっていた。ロシア陸上界の問題を調査した世界反ドーピング機関(WADA)独立委員会の報告書によると、タン氏は2014年に生まれた自分の子供に「マッサタ」と名付けるほど、国際陸連のラミン・ディアク前会長の息子パパマッサタ氏(ドーピング隠しで永久資格停止処分)と親密だった。
シカゴマラソンの女子で3連覇したロシアのショブホワは、12年ロンドン五輪に出場するため、45万ユーロ(約5500万円)の賄賂を支払い、ロシア陸連を通じてドーピング隠しを依頼した。こうした事実をパパマッサタ氏も知っていたとみられる。ショブホワはロンドン五輪に出場したものの、最終的にドーピング違反に問われたため、返金を要求。14年3月にあった30万ユーロの返金は、同社の口座からだったと、WADA独立委の報告書は指摘した。
JOCの竹田会長は13日、記者団に「経営者に会ったこともないし、会社も知らないが、(招致委の)事務局が必要だということで契約した」と話した。業務内容は国際情勢や勝因の分析だったといい、約2億2300万円の額も「特別大きいということではない」との認識を示した。
東京招致委から同社への送金を最初に報じたのは英紙ガーディアンだった。11日付の記事で、タン氏を電通の子会社「AMS」のコンサルタントだと報じた。
電通の広報担当者は取材に対し、AMSは取引先の一つで、電通グループからの出資は一切ないと説明。タン氏とコンサルタント契約を結んだこともないとして、「報道に名前が出て困惑している。フランスの司法当局からの問い合わせもない」と話している。(シンガポール=都留悦史、ロンドン=河野正樹)
■仲介人、長野五輪で問題
五輪招致のコンサルタントで悪(あ)しき前例として残るのが1998年長野冬季五輪だ。長野招致委はスイスのコンサルティング会社「IMS・スタジオ6」と45万スイスフラン(当時のレートで約5100万円)の高額契約を結んだ。ところがこのスタジオ6こそ、集票工作を請け負う仲介人の存在を告発したマーク・ホドラーIOC理事(当時)が、「最も悪質な一人」と名指ししたゴラン・タカチ氏が経営する会社だった。
「情報料として高いかもしれないが、タカチ氏はサマランチIOC会長(当時)らと親しい。敵に回すと長野にはマイナスになる」。長野の招致委幹部は、のちに漏らした。
「情報収集」のための巨額な契約が明らかになった今回の件は、IOC委員とのパイプの太さを招致委に売り込んで暗躍する仲介人が、長野の時と変わらずにいる実態をうかがわせる。
しかも、送金の時期は、東京招致が成功した前後に当たる。ディアク氏への票の取りまとめへの期待やその見返りと受け止められないか? 報道陣のそんな質問に、JOCの竹田会長は「そんなことがありうるとは考えていない」と語気を強めた。
(編集委員・稲垣康介)
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