南阿蘇鉄道 地域の「宝物」全線復旧を

 熊本県の第三セクター、南阿蘇鉄道が熊本地震で甚大な被害を受け運休している。全線復旧には概算で30億~50億円も必要という。それでも何とかしたい。九州全体で知恵を絞り、力を尽くそう。

 全線再開した九州新幹線のような大動脈ではない。しかし、高校生や高齢者など地域を支える重要な足だ。近年は観光路線として外国人客も増えていた。熊本や九州にとって必要不可欠な鉄道だ。

 旧国鉄赤字ローカル線を引き継いだ三セク鉄道の経営はそもそも厳しい。関係5町村の出資比率が99・95%の南阿蘇鉄道も例外ではない。新駅設置、観光トロッコ列車の運行など経営努力を重ねてきた。それでも、2014年度経常損益が345万円の赤字となるなど、ぎりぎりの経営を続けてきた。そうした中での被災である。

 似たような経営状況にある秋田、茨城、千葉、鳥取の三セク鉄道4社が支援に立ち上がり、復興祈念切符を発売した。南阿蘇鉄道も義援金の募集を始めた。

 九州には苦い経験がある。宮崎県にあった三セクの高千穂鉄道が05年の台風で鉄橋の流失など被害を受け、廃線に追い込まれた。あの無念を繰り返したくない。

 地域をレールで結ぶ鉄道には被災地を勇気づける力がある。東日本大震災で地震と津波に襲われた岩手県の三セク、三陸鉄道は5日後に一部区間で運行を再開した。

 列車の走る姿は被災者に再起の気力を与えたという。同鉄道は復興の象徴になり、国や県の支援を受けて3年で全線復旧した。

 震災ではないが、原爆で壊滅した広島市では被爆の3日後に市街電車が走り始め、市民に生きる希望を芽生えさせたといわれる。

 南阿蘇鉄道には日本に誇る鉄橋が二つある。国内最初の鋼製鉄橋で水面からの高さが64・5メートルと日本一の第一白川橋梁(きょうりょう)と、あん馬形の脚に橋桁を載せたトレッスル橋としては国内最長の136・8メートルという立野橋梁だ。

 そんな「宝物」を持つ南阿蘇鉄道にも地域を元気にする力があると信じて全線復旧を応援したい。


=2016/05/07付 西日本新聞朝刊=

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