- 2016-05-03 Tue 06:20:37
- 穂高
結局昨日は穂高連峰で、死亡2名、17名救助、1名未収容となりました。
昨日は富山県の立山や劔でも遭難がありましたし、一昨日はやはり長野県北部や埼玉県でも遭難があったせいで報道的には「春山登山で遭難相次ぐ」とされています。
しかし、穂高でのこの数の多さはちょっと異常でしょう。
それはなぜなのか……
端的に言うと「春の穂高に登るべきでない(登る技量のない)人が、大勢登ってしまっているから」ということです。
(2016/05/02 6:10 a.m.)
各々の遭難について、その状況や経過はそれぞれ異なりますので十把一絡げに非難することもできません。
でも、今回のジャンでの救助はちょっと酷すぎます。
僕は警察関係から事の詳細をあるていど知り得る立場にいますので、それを晒すようなことは控えますが、
はじめは「果敢にバリエーションルートに挑んだ中での不幸な事態」として捉えていました。
でも話をきいて、それが「無謀・無知の輩による安易で情けない救助要請」であったことを知りました。
そして連中には呆れるのを通り越して怒りさえ覚えてしまいます。
いやしくも穂高の積雪期バリエーションを登攀しようという者たちが、ふた晩のビバークで9名全員が行動不能なんてありえない。
そもそも30日に、ルート登攀を終えて安全地帯へ逃げ込めずにビバークを強いられている時点でダメでしょう。
30日土曜日は確かに地上の天気予報にない気象変化がありました。
でも山の天気予報では「夕方から小崩れ」との情報は示されていたし、例えそれが予想よりも悪いものであったにせよ、午後3時ごろまでは視界もあって十分に行動できる天候でありました。
そもそも「ジャンダルム飛騨尾根」はルート自体の難易度はそう高くはなく、コース取りでかなりグレードの変わるルートです。
しかしベース(それをどこに置くかで話も変わりますが)からの標高差や行程が長く、また一番の核心はジャンへトップアウトした後のロバ耳付近の通過と言えます。
つまりスピードと体力が求められるルートです。
それを無思慮にも大人数でやる、挙げ句に時間がかかってビバークとなる、あまつさえヘリ救助を求める。
フザケルナ! と言いたい。
以下は小屋周辺で見かけて、思わずシャッターを押してしまった人たちです。
1枚目と2枚目は人物をシルエットにしてありますが、それで何を言いたいかは読み取っていただけるかと思います。
また3枚目の「ほとんどスニーカー」という靴を履いていた方には「それ、雪入って冷たくないスか?」と尋ねると「ええ、冷たいです。」と返されて、それ以上会話になりませんでした。
亡くなってしまっている方もおられますので、死者にむち打つようなことは言いたくありませんが、あずき沢の登りで滑落するなんてことも、ちょっと考えられません。
(2016/05/02 9:30 a.m.)
先日の奥穂へのハシゴ場上部から滑落された方も、その後にどうやら下りではなく登りで滑落されたことが明らかになりました。
なんだか僕は言葉を失うし、もうどう対処していいのかもわかりません。
それでも昨日は奥穂雪壁の滑落防止ネットに引っかかって一命を取り留めた方もいるので、まあ多少は役にたったかとも思います。
でもこれだけ遭難がおきてしまうと、なんだか自分たちに無力感をおぼえてしまうし、ちょっと空しくなってしまいます。
こんなこともありました。
奥穂への雪壁へ取り付いてはみたものの、途中で引き返してきた方が、
「シングルアックスだから登れなかった、今時期はダブルアックスでなくてはムリですね?」
と尋ねられたので、
「いえ、そうではありません。アックス(ピッケル)がシングルかダブルか、という道具の問題ではなく、それは技術の話です」
とお答えしました。
それで、そもそもこうした岩と雪のミックス帯では素早く両手を使えるシングルアックスとすべきであること、
あるいはダブルアックスが必要となるのはまた違ったシチュエーションであることなどをご説明していたところ、
端で話を聞いていたカップルのお兄さんが、
「あのぅ、ボクたちピッケル無くって、コレなんですケド…… 奥穂、登れますか?」
と、ストックを二本見せられて、僕は椅子から転げ落ちそうになりました。
誰も遭難をおこそうとして山に登る人はいません。
でも、お願いですから、
その山に登る前に、そのルートに取り付く前に、その斜面に踏み込む前に、
「それを行ったらどうなるのか?」ということにもっと想像力を働かせてほしい。
雪の急斜面を登ったならば、必ず次はそこを下って戻らねばなりません。
ルートで時間がかかれば、結果として厳しいビバークを強いられることになります。
奥穂への雪壁で墜ちれば、たいていの場合死に至ります。
安易な考えのその行いが、いったいどれほど他者へ迷惑を及ぼすのかを、どうか思ってください。
こんなことがいつまでもくり返されていては、いづれ穂高は誰もが自由に登れる山ではなくなってしまいます。
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Comments: 9
- No name. From Japan URL 2016-05-03 Tue 12:53:51
山登り初心者です。穂高岳は祖母の故郷です。私は高尾山ですら麓が雪が無くても、冬はアイゼンを持参。奥高尾経由で先に進んだ際、やはりアイゼン必要でした。単なる流行で山に入るにしろ何にしろ、準備はキチンと!スマホ持ちであれば幾らでも情報は確認可能。高尾山の麓ですら救急隊が来るのを数回目撃しています。
- 冬山初心者 URL 2016-05-03 Tue 12:46:25
本文、拝見させていただきました。
ごもっともな内容、読んでいてまさに「それはあかんやろ!」との気持ちになりました。
初心者のため、後学のために教えていただきたいのですが、写真の一枚目と二枚目、どこが悪いところか、教えていただくことはできますでしょうか。宜しくお願いします。- Takayuki Inokuma URL 2016-05-03 Tue 12:01:52
まったく同感です。取材が相次ぎましたが、忙しくて断った所も多かったのですが、事故によってはそもそも残雪期の穂高連峰に登る実力がない人が沢山来ていることに問題があるのでは、と申し上げておきました。ハッチーさんのブログ、FBに勝手にシェアさせていただきました。問題がありましたら、削除します。
- 元初心者 URL 2016-05-03 Tue 11:54:49
観光シーズンに入ったら、人が入る山には登るな、ということなのですね。
もらい事故は、いただきたくない。
規制の話が遭難事故のたびに取り沙汰され、実施もされたんでしでしょうか。
ガイドを義務づけるとか、山行スタイルを変えるべき時代になってきているのかも
しれません。
自業自得ということ、交通事故と一緒で、河童橋や入山の場で、徹底的に周知すべきなのかとも思えます。
装備がお粗末な人は、目に見てわかるので、定点で入山を拒む(人に迷惑)ということも必要なのでしょう。
ブームなのはよいことですが、基本ができていない、でも、装備や環境がよくなったので、入山できてしまう、
小屋などにも甘えてしまう、というのは、ダメですよね。
- まいか URL 2016-05-03 Tue 11:43:17
貴重な情報ありがとうございます。無知 無防備がおこした事故であると私も考えました。この日私も穂高へ行こうと考えていました。しかし天候の悪さ、積雪があった事を横尾で会った登山客から聞き、穂高方面へ行くのをやめました。翌朝ジャン付近で捜索ヘリを見かけまさかと思っていました。山へ行楽を求め来ている、それは私も同様。貴重な休みでもあり絶対に目標達成したい気持ちもわかる。でも命あっての事です。わたしは「また来りゃいいじゃん、これっきりじゃないんだから」そう思います。もっと山を学びたい。学んだことが自分自身、又は他者の安全に繋がればいい。そう強く思います。
- 未経験者 URL 2016-05-03 Tue 11:40:58
先を考えても読めないレベルの人たちがやらかしていることなのでしょうけど、ブームとなると、素人でも、素人ほど、皆が良い良いと言う、そこを制覇してこそだと盛り上げてSNS等々で書きまくるところへ行くのを、どこへ行こうかと考えた際に選択してしまうものと思います。
もっと、どんなレベルならどの程度が可能かとか、そんな情報が多く知らされると良いですね。
それと、慣れた人たちが「ここへ行ってこそだ!」と難しいところへ言った話を得意気にして、素人がしらずにつられないように。
自慢したくなるのは人言誰でもありますが。- - URL 2016-05-03 Tue 11:12:20
毎年、お疲れ様です。今後も情報発信のほど宜しくお願い致します。少しでも八郎さんの声が大きく届くことを希望しています。
- 名古屋在住 URL 2016-05-03 Tue 10:47:35
昨年の名古屋のイベント楽しませて頂きました。今年も楽しみにしております。
イベントでも壇上の皆様の「悲惨な遭難を少しでも減らしたい!」という熱い思いを感じましたが、今も情けない遭難が続々と起こっているようですね・・・。
警察法を改正して、登山は全て自己責任とし、「何かあっても誰も助けに来てくれない。」という重い認識を持ってもらわないと、遭難防止は無理かもしませんね。タクシー代わりにヘリを呼びすぎです。しかも、タダって・・・。せめて、遭難救助は全て有償とし、お金が無い人は家や田畑売っぱらってでも後々支払うようにすべきかと。- - URL 2016-05-03 Tue 08:39:02
ハチロー様、詳細を有難うございます。このブログのファンが皆気にしていたハズです。
技量の自己分析も大変難しいし、救助隊のパトロールの方や山小屋スタッフが、登山者を振り分けできないですし・・・
ストックでの話は、私も吹き出しました!
これからも警鐘を鳴らし続けて下さいませ。