検察、有罪立証せず 「自然発火」なお反論
大阪市東住吉区で1995年、小学6年の女児(当時11歳)が焼死した民家火災で、殺人などの罪で無期懲役が確定した朴龍晧(ぼく・たつひろ)さん(50)の再審初公判は28日、大阪地裁(西野吾一裁判長)で即日結審した。検察側は論告で求刑を放棄し有罪主張を断念する姿勢を改めて示したが、弁護側の主張で最大の争点だった自然発火の可能性について、「抽象的な可能性に過ぎない」と異例の付言をした。
朴さんは女児の母の青木恵子さん(52)の内縁の夫だった。無罪が言い渡されるとみられる判決は、8月10日に指定された。
検察側は午後に行われた論告で、まず冒頭陳述と同様に「有罪の主張・立証は行わず、裁判所にしかるべき判断を求める」と述べた。その直後、出火原因と朴さんが自白した経緯に関して持論を展開した。
自然発火の可能性について、再審開始を支持した昨年10月の大阪高裁決定は弁護側の主張に基づき、「自宅車庫の軽ワゴン車の給油口からガソリンが漏れ、風呂釜の種火に引火した可能性がある」と認定した。検察側は決定を受け、有罪主張の断念を決めた。
しかし、論告でこの決定内容に触れた上で、給油タンク付近のゴムホースに欠陥があった場合にのみガソリンが漏れると指摘。「ホースは火災で焼失している」とし、出火原因が客観的に確認できないと訴えた。
朴さんが違法な取り調べで自白したと主張してきた点は、「取調官による暴行や脅迫は認められない。自白は自発的で、任意性に何らの疑義もない」と言い切った。
ただ、自白内容は証拠を検討した結果、「支えを失っている」と信用性がないことを認めた。
弁護側は最終弁論で、問題の原点は不十分な出火原因の調査や違法な取り調べにあると主張。「警察が誤った捜査を行い、検察が間違った証拠の評価で無実の人を起訴した」と述べ、捜査機関を痛烈に批判した。
一度は有罪を決めた裁判所に対しても「司法への不信感や絶望感は計り知れない」として、判決時に誤判の経緯を検証するよう求めた。
朴さんは最終の意見陳述で「素晴らしい判決を心から望みます」と締めくくった。【三上健太郎】
往生際が悪い論告
元東京高裁判事の木谷明弁護士の話 刑事裁判は「推定無罪」が原則だ。検察側には有罪の立証責任がある。それを断念した以上、事件性の可能性をにじます内容の論告をするのはフェアではなく、本来は無罪判決を求めるべきだ。判断を裁判所に丸投げする検察の姿勢には、往生際の悪さを感じる。
「最後まで無責任」弁護側批判
「なぜ無罪を求めないのか」−−。検察側は有罪立証を断念しつつも、論告で「無罪」という言葉を一度も使わず、再審開始を認めた昨年10月の大阪高裁決定にも疑問を呈した。弁護団からは「最後まで無責任だ」との批判の声が上がった。
西野吾一裁判長から促され証言台の前に立つと、起訴内容をはっきりと否認した。
有罪立証を断念したはずの検察側。冒頭陳述では「裁判所には、しかるべき判断を求める」などと述べただけだったが午後にあった論告で一転。自らの意見を詳しく表明した。
検察側は朴さんが▽弁護人に「(放火を)自分がやった」と述べていた▽犯行を認める内容の手紙を友人に送った−−などとし、「自白は自発的で、任意性に疑いを抱かせる点はない」と主張。弁護側が指摘する取り調べ時の暴行や脅迫などは、「違法な取り調べ手法が用いられたとは認められない」と反論した。
再審開始の決め手になったガソリン漏れに伴う自然発火の可能性についても、改めて疑問を示した。朴さんの軽ワゴン車は購入から約3年しかたっておらず火災の半年前にも車検を通った点を指摘。「ガソリン漏出につながる事故や故障があった形跡がない」と従来の主張を繰り返した。
弁護側は意見を述べた後、急きょ論告に対する反論を展開した。「論告の内容は、捜査側の間違った事実認定に基づくものだ」と主張。「自白の信用性が否定されれば無罪にすべきなのに、警察の違法な捜査をかばおうとしている」と応酬した。【向畑泰司、安高晋、服部陽】