「とても予定利率を賄えない」と日本生命、海外に活路求める主要生保
- 超低金利で国債残高は純減-3社の16年度計画
- 国内債はクレジット物へ、外債も対象広げる流れ
主要な生命保険会社は2016年度の資産運用で、超低金利の国債を償還分の再投資も含め抑制し、為替差損を回避(ヘッジ)した外国債券や社債、インフラ関連など成長分野の投融資などに活路を見いだす方針だ。
日本生命保険は国債投資を必要最小限に抑え、外債の積み増しで収益確保を目指す。第一生命保険は国債の残高を減らし、信用リスクの対価として上乗せ金利が得られる社債などクレジット物やヘッジ外債を増やす。住友生命保険は超長期債への投資を抑制し、国内外のクレジット物に重点を置く。明治安田生命保険は26日に運用計画を発表する予定だ。
日銀の黒田東彦総裁が導入した巨額の国債買い入れとマイナス金利政策を受け、残存13年程度までの国債利回りはゼロ%を割り込んでいる。年限が最も長い40年債も0.3%を下回るなど、国債投資の環境は一段と悪化している。一方、米利上げペースの鈍化観測や投資家のリスク回避を背景に、円相場は対ドルで年初から約9%上昇しており、外貨建て資産の評価損要因となっている。
日本生命の佐藤和夫財務企画部長は22日の記者説明会で、マイナス金利は「生保にとって大変厳しい環境だ。国債は運用対象として機能しなくなり、ほとんど買えない」と述べ、「20年債や30年債の利回り水準では、とても予定利率を賄えない。償還分は他の資産に投資し、待機させるしかない」と語った。「安定した利回りを確保できる外債に依存せざるを得ない。外債は不可避だ」と言う。
生命保険協会の統計によると、生保41社の総資産は1月末に351.8兆円と前年比1.5%増えた。国債は146.5兆円と0.8%減り、構成比も41.6%と1ポイント低下。社債は1.2%増の24.9兆円で7.1%を占めた。外国証券は10.4%増の71.1兆円で、1.6ポイント高い20.2%を占めた。
財務省の統計では、生保による海外中長期債の買越額は3月に1兆4153億円とデータでさかのぼれる2005年以降で最大を記録。マイナス金利導入発表後の2カ月間で2兆4193億円と昨年度全体の43.8%を占めた。
国内勢全体による海外中長期債の買越額は1月31日から先月26日までの8週間で8兆9239億円に達した。特に13-19日の週は2兆2769億円と最大を記録。季節的に「期初の売り」が膨らんだ直近2週間は合計2兆7308億円の売り越しに転じたが、売越額は過去最大だった前年3月29日-4月4日の3兆円強を1割余り下回った。直近10日-16日の週は8447億円の買い越しに戻った。
SMBC日興証券の竹山聡一金利ストラテジストは、生保の投資動向について、「運用難が極まっている。基本はヘッジ外債だ」と指摘。ヘッジコストは高まっているが、為替リスクを取るオープン外債はボラティリティ(相場変動率)や為替見通しに不透明感が根強く、国内債は「クレジットには積極的だと思うが、国債は厳しい」と説明した。
国債「どうしようもない」
住友生命の松本巌運用企画部長は22日の記者説明会で、「今の国債利回りでは、もうどうしようもない。償還分の再投資もほとんどヘッジ外債へ入っていく」と語った。昨年度はヘッジ外債の投資対象を米国やオーストラリアなどの周辺国とシングルA格以上の米社債に拡大。今年度も新規資金の多くをヘッジ外債に配分。「数千億円単位で投資し、海外クレジット物のポートフォリオを拡大していく」と言う。
円を元手に外債投資する場合、将来円高が進んでも為替差損を抑えられるようにヘッジするコストは円と外貨の短期金利差、通貨間の需給格差を映すベーシススワップを含むフォワード金利が目安になる。UBS証券の井川雄亮デスクアナリストは、生保は為替ヘッジに同取引を使う例が多く、短いヘッジ期間を選べばベーシススワップの負担を軽減できる上、ヘッジ比率を機動的に変えられると説明する。
長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは前週、マイナス0.135%と過去最低に並んだ。同年限の米国債は1.87%前後。ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の3カ月物金利差は22日に67.47ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)と09年3月以来の水準に拡大。円をドルに交換するためのベーシススワップは40bp台だった。
第一生命の山本辰三郎執行役員兼運用企画部長は20日の記者説明会で、「ヘッジコストを考慮した利回りが相対的に魅力的なヘッジ外債を昨年度は大幅に積み増し、今年度も純増させる」と表明。渡辺康幸運用企画室長はヘッジコストは対ドル以外では上がっておらず、通貨・債券種類・年限を分散しているため、「相応に魅力の高い投資対象は現存しており、ヘッジ外債をさらに積み増す余地はある」と述べた。
日銀は2%の物価目標を達成するため、資金供給量を積み増す「量的・質的金融緩和」を13年4月に導入。翌年10月末の追加緩和で国債保有増を年80兆円に拡大した。黒田総裁は導入直後から、投資家を国債から株式や外債などリスクがより高い資産に向かわせる「ポートフォリオリバランス」効果が異次元緩和の波及経路の1つだと指摘している。
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2016年度の運用計画一覧
国内株 | 国内債 | 外株 | オープン外債 | ヘッジ外債 | |
日本生命 | 増加 | 減少 | 増加 | 増加 | 増加 |
第一生命 | 株価水準次第 | 増加 | 増加 | 為替水準次第 | 増加 |
住友生命 | 横ばい | 微減 | 横ばい | 為替水準次第 | 増加 |
2016年度のマーケット見通し
国内金利 | 米国金利 | 日経平均 | NYダウ | ドル円 | ユーロ円 | |
日本生命 | -0.2/ -0.4~0.0 | 2.0/ 1.5~2.5 | 18500/ 16000~21000 | 18000/ 16000~20000 | 115/ 110~120 | 120/ 115~125 |
第一生命 | -0.05/ -0.20~0.30 | 2.3/ 1.50~2.50 | 18000/ 13000~20000 | 18000/ 15500~19000 | 115/ 100~120 | 126/ 110~140 |
住友生命 | -0.20/ -0.40~0.30 | 2.10/ 1.40~2.60 | 17500/ 13500~20000 | 18000/ 14500~19000 | 118/ 100~125 | 127/ 105~140 |
※日本生命の国内株と外株は合わせて増加
※表内の予想は上段が年度末値、下段が中心レンジの見通し
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