地元の「スター」天国に 美声「もう聞けない」
倒壊した自宅の下敷きに 84歳のバンドマン
14日の地震で倒壊した自宅の下敷きになって命を落とした熊本県益城町惣領(そうりょう)の荒牧不二人(ふじと)さん(84)は、ギターと美声で知られる地元の「スター」だった。
荒牧さんは20代のころ、地元の仲間とバンドを組んだ。当時生演奏は珍しく、地域の集まりがあると「楽団ばしてください」とよく演奏を頼まれた。農家の広い庭にステージができると300人以上の人たちが詰めかけた。昭和を代表するスター、ディック・ミネさんの「夜霧のブルース」が荒牧さんの十八番だった。
元バンド仲間で60年来の友人という松本誠喜さん(79)=熊本市東区=は「『楽団ばしている時が一番楽しい』とうれしそうに話していた」と振り返る。
35年ほど前にはカラオケ教室を始めた。多い時には生徒が80人もいて、年1回発表会を開いた。生徒の一人で主婦の吉住英子さん(69)=益城町惣領=は「先生は『ここは語るように優しく』とか『歌詞の意味を考えて』と、分かりやすく教えてくれた」と話す。
14日の地震時、荒牧さんは自宅でレッスン中。生徒は救助されたが、荒牧さんは帰らぬ人となった。
松本さんは「もう一緒に歌えないなんて、こんな寂しいことなかですよ。音楽に生きた人。今も天国で大好きな歌を歌っているんでしょう」と話す。仲間の前で「夜霧のブルース」を歌って追悼するという。【大森治幸】