常識はずれのほうがヒットする
柴那典(以下、柴) 前回は「デヴィッド・ボウイと攻める50歳の男たち」という話でしたが、今回もその続きで「攻める50歳」という話をしたいと思います。というのも、このあいだ「ROOTS 66 -Naughty 50-」という、66年生まれで今年50歳になる人たちが集まるライブイベントがあったんですよ。そこに前回も話した吉井和哉さんやエレファントカシマシも出ていたし、斉藤和義さん、スガシカオさんも出てた。
夢眠ねむ(以下、ねむ) へえ! スガシカオさん、今年で50歳なんですか? ずっと30代のイメージ(笑)。
大谷ノブ彦(以下、大谷) ははははは! でも実際、今年に出たスガシカオさんのアルバムは、まさに攻めてますね。いわゆるJ-POP的な曲が全然入ってない。思いっきりブラック・ミュージック寄りになっている。
柴 それだけじゃなくて、かなり変なことをやってるんですよ。ドラムとベースのテンポをわざとずらした曲を作ったりしている。もちろんあわなくて気持ち悪いんだけど、ずーっと続けると一瞬だけ奇跡的にハマるところがある。そこだけ切り取ってループさせてたりする。
ねむ ちゃんと狙いがあってやってるんですか?
柴 もちろん。6年ぶりの新作で、前々から「自分の集大成になるものを作る」と宣言していたアルバムがそれですからね。
大谷 しかも、そのアルバムのプロデュースをしたのが小林武史さんだというのがおもしろい。サザンやミスチルを手掛けてきたヒットメイカーですよ。それが「今回はスガシカオのエグいところを全部出そう」と言って、あえてJ-POP的な耳ざわりのいいサウンドとは真逆のことをやった。
柴 ということは、つまり、いわゆる売れ線の逆を狙った方がヒットするだろう、という読みがあった。
大谷 そう! そこが大事なのよ。音楽でもお笑いでも、今の時代、そっちのほうが断然おもしろいし、ヒットすると思うの。「みんなが好きそうなのはこういう感じでしょ」って勝手に大衆性を想定して作ったものなんて、全然つまらない。それは今あるマーケットに乗っかってるだけですもん。
柴 わかりやすいものを狙うより、常識はずれなものを作ったほうがヒットする。
大谷 そう。もっとカウンター精神を持ったもの、攻めてるもののほうが、意外性があるから広まっていく。それが結果ポップスになると思うんです。
岡村靖幸の「潔癖さ」
柴 そして、「攻める50歳」ということで言うなら、今年で50歳になった岡村靖幸さんも、まさにそういうタイプの人だと思うんですよ。
ねむ 岡村ちゃん、大好き!
大谷 一つ自慢してもいいですか? 今年「新年明けましておめでとう」のメールを一番にくれたのが岡村靖幸さんでした。
ねむ わあ、いいなー!
大谷 「え? 僕に?」って思いましたもん。めちゃくちゃうれしかったですけど、「もっといるだろ!?」って。
ねむ あはははは!
柴 岡村靖幸さんの11年ぶりのニューアルバム『幸福』が、まあ最高なんですよ。これまでシングルも何枚かリリースしてますし、そこでやってきた音楽をパッケージすればもちろんいい作品になるんですけど、それだけじゃない。今まで聴いたことがないタイプのグルーヴが鳴ってる。
大谷 僕は岡村靖幸さんは10代の頃からずっと大好きだったんですけれど、岡村さんの書く曲って、やっぱり歌詞がいいんですよ。で、その大元にあるのは「潔癖さ」だと覆うんです。
ねむ 潔癖さ?
大谷 岡村さんはある時期からどんどん寡作になって、歌詞が書けなくなっていったんですけど、その理由について、当時のインタビューで「ヘアヌードが出てきた時に何を書いていいかわからなくなっちゃった」って言ってたんですよ。つまり、そういうあからさまな社会になっていく時代の流れにあの人の潔癖さが抵抗していたと思うんです。
で、ニューアルバムの1曲目のタイトル見てくださいよ。
ねむ・柴 「できるだけ純情でいたい」!!!
大谷 この感覚、岡村ちゃんの真骨頂だと思いません?!
ねむ わかる~! しかもこのアルバム、ジャケットが会田誠さんの書き下ろしなんですよね。
大谷 このジャケットもほんとに素晴らしい。俺、会田誠さん、会いたいんだよなあ。
ねむ 私、会田誠さんに自分の作品を車で運んでもらったことありますよ。
大谷 え! うらやましい!
ねむ 会田誠さん、すごく素敵ないい人なんですけど、変な人です(笑)。
柴 そういえば、岡村靖幸さんと会田誠って同い年なんですよ。しかも中学時代に同じ新潟にいた。
大谷 やっぱり50歳なんだ! こうやって考えると、本当に「攻める50歳」は多い。同じ時代のうねりの中で引き寄せあうものがあったのかもしれないですね。
サイリウムは「生き物」である
柴 そういえば、岡村ちゃんの曲がちょっと前に女子中高生の間でブームになったって話、知ってます?
ねむ え? そうなんですか!?
柴 ニューアルバムに「ぶーしゃかLOOP」という曲が入ってるんですけれど、これ、もともと公式HPのトップページにあった動画が元になっているんです。
大谷 で、これをMixChannelとかVineとかで女子中高生が真似してて。
柴 ほとんどの子は岡村靖幸って名前すら知らないでやってると思いますけどね。ほんと、中学生に真似されるってすごいって思った。
大谷 ほんとそうなんですよね。こないだ昔の甲本ヒロトさんのインタビューを読み返したら、すごくいいこと言っていた。ザ・ブルーハーツを結成したときに、甲本ヒロトさんと真島昌利さんが組むときで「世界で一番ダサい名前をつけよう」って言ったらしいんです。
ねむ 「ザ・ブルーハーツ」がですか? 確かに、青い心臓かあ。中二感あるかも!
大谷 そうなの! でも「俺、ダサいってわかっててやってますよ」ってムードは絶対に出さないようにしよう、って決めたらしい。
ねむ なんでですか?
大谷 自分たちが「ブルーハーツ」って名前を本当に格好いいって思い込んでないと、自分たちの音楽を聴いた田舎の中学生がギターを持たないから、って言うんです。
ねむ へえー! 格好いい!
大谷 つまりロックスターにとって大事なポイントって、田舎の中学生に「格好いい! オレもやりたい! オレでもやれそう!」って思わせるかどうかなんです。演奏力なんて重要じゃない。
柴 中学生が憧れるかどうかが大事だ、と。
大谷 スターって決して手の届かない存在じゃなくて「オレもああなれるんじゃないか?」って思わせるものなんですね。これは今の時代もそうだと思う。ONE OK ROCKもUVERworldもBLUE ENCOUNTも、ちゃんと21世紀のロックスターを引き受けようとしている人は「お前にもなれる」っていうメッセージを込めた曲をちゃんと作ってる。
ねむ それ、アイドルの世界にも絶対あると思います。でんぱ組.incだって、カバーユニットがたくさんあるし、ファンの子がコスプレしてくれたりする。「私もアイドルになれるかもしれない」って子たちが多いのが、うれしいんです。
柴 でんぱ組.incの客席は本当に女の子が多いですよね。
ねむ 増えましたね~。
柴 でんぱ組.incのライブを観てるとわかるんですけど、ほんとにお客さんが主役なんですよね。
ねむ そうそう! オタの人たちのコールがあって、初めてウチらのライブが成立してると思うんです。
大谷 俺のDJだってそうだよ。間違いない。
柴 僕、アイドルのライブを二階の関係者席で観ることが多いんです。だから上からファンを見下ろすことが多いんですけれど、いつもすごいなって思うのがサイリウムの光の動きで。
ねむ そう! ほんとにそうなんですよ。
柴 なんというか、生き物みたいなんですよね。
ねむ そうなんです! サイリウムは生きてるんです!
大谷 えっ(笑)!? どういうこと?
ねむ ファンの熱気って、サイリウムの光の動きをみればすぐわかるんです。元気に盛り上がってるのか、弱ってるのか。
大谷 おお~、なるほど。
ねむ 光の色でメンバーの人気も一目でわかりますよね。しかもツアーをしてると、それが地域によって違ったりする「私、北海道でめっちゃ受けがいいんだ!」ってわかったり。
大谷 ははははは!
柴 あれは、握ってる力の強さまで伝わりますよね。気合入ってる!って。だから、アイドルのライブに行くと、その光の動きでそのステージの良し悪しがすぐにわかるんですよね。
ねむ しかも、みんなどの曲でどの色を光らせるとか、すごくディティールにこだわってる。だから、ステージにいると、なんだか光が迫ってくるような気がするんですよね。武道館のときなんて「あ、宇宙にいる……」って本当に思いました。
夢眠ねむ(ゆめみ・ねむ)
『でんぱ組.inc』のメンバー。三重県出身。電波ソングや漫画が大好きで、50年代の作品に熱中するなど深い造詣を誇る。絵画の個展を開いたり、イラストを描いたりと芸術方面にもアンテナを張る。
構成:柴那典