元バー店主の自伝好評 妻との出会い、驚きの結末…ブログで注目 福岡市の白石さん [福岡県]
福岡市内で小さなバーを切り盛りしていた白石泰三さん(44)が今春、出版したノンフィクション「電波妻」が、無名作家では異例の累計発行1万部のヒットとなっている。ペンネームは「TAIZO」。高校の同級生だった女性との再会、結婚、天職と信じていた仕事との決別、そして衝撃のラスト…。「事実は小説より奇なり」の言葉を地で行く実話が、読み手をぐいぐいと引き込む。
真面目なバーテンダーの前に、後に妻となる同級生が現れたのは2013年。「本当はやりたいこと、もう自分で気づいているんだよね」。間もなく結婚した妻は、白石さん自身が気付かなかった秘めた本心を読み解いていく。
長崎県諫早市出身の白石さんは大学卒業後、大阪市のホテルなどで修業。04年、中央区大名にバーを開いた。妻と出会った当時を振り返り、「店を経営する上で、自分が作ったルールがだんだん苦しくなってきていた」と打ち明ける。
昼夜逆転の生活、他人に自分を大きく見せたいという見え、劣等感…。妻の言葉の影響もあり、店の営業日を週3日に減らし、自身と向き合った。落ち込む客足にいら立ち、妻とぶつかり合う日々の中から、一つの答えを見いだす。「自分の好きなことを好きなように表現していきたい。本を書いてみよう」
15年春、店をたたんだ。原稿を一行も書いていないのに、妻は出版予定記念パーティーを知人や関係者を集めて開催してしまう。そんな一部始終を白石さんがつづったインターネットのブログが出版関係者の目に留まり、電子書籍化を経て今春、東京の出版社から本を出した。タイトルは、聞こえないはずの声やお告げが聞こえる人を「電波系」と呼ぶ俗語からイメージした。
作品のラストは、読み手を驚かせる。運命の出会いを印象付ける2枚の古い写真がキーワードだが、「ネタばらしは困る」と白石さん。その後の2人の関係を告白したあとがきも必読だ。次の夢は、作品の映画化。近く「映画化予定記念パーティー」を開くという。
四六判248ページ、税別1667円、発行はヒカルランド。
=2016/04/12付 西日本新聞朝刊=