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鉄道各社、対策苦慮 

JR山手線新宿駅に設置された非常停止ボタン。押すと電車は自動的に緊急停止する=8日、高橋昌紀撮影

 東京メトロ半蔵門線九段下駅(東京都千代田区)で電車がベビーカーをドアに挟んだまま発車した4日の事故が波紋を広げている。東京メトロは緊急停止をしなかった車掌のヒューマンエラーが原因と説明したが、一歩間違えれば大事故につながりかねない問題。さまざまな防止策が導入、模索されているが、鉄道各社の事情もあって一律ではない。ベビーカー乗車の安全対策に決め手はあるのか。

     「ドアが閉まります。ご注意ください」。JR山手線新宿駅のホームにアナウンスが流れた。警報音も鳴り、乗降客に「挟み込み」への注意を促す。

     JR東日本によると、同社の車両はドアに20〜30ミリ以上(検査基準値)の物が挟まると異常を検知して発車しない仕組み。東京メトロの15ミリ(同)に比べ緩やかなのは、精度を上げると服などにも反応しかねないからだ。

     検知できなくても、ホーム上の非常停止ボタンが押されれば自動的に車両は停止する。JR東日本管内の設置駅は山手線など5線区に限られるが、担当者は「駅ではとにかく止めることが重要」と指摘する。同様のシステムは小田急電鉄も全駅で導入している。

     東京メトロは自動停止するボタンを導入していない。地下鉄の駅は閉ざされた空間で「火と煙が最大の恐怖。火災時に一般乗客が押して、火災現場に停車してしまう恐れもある」(担当者)ためだ。同社は「危険度の見極めと緊急停止の判断は、専門の訓練を受けた乗務員らに委ねるべきだ」との考えを取っているという。

     挟み込み事故などを防ぐため、国はホームドアの設置を進めている。国土交通省の調べでは2015年9月現在で全国621駅に設置され、06年度の約2倍に増えた。ただ、扉の数が異なる車両が運行される駅は、位置がずれるため設置できない。半蔵門線は東急田園都市線も乗り入れるが、一部の東急車両はメトロ車両と扉の数が異なる。

     国交省が12〜13年に実施した都市部の鉄道会社への調査で、「車輪がドアに挟まれた」などベビーカーに関する事故が、回答した30社の3割で起きていた。事故につながりかねない「ヒヤリ・ハット」例を含めると8割の会社が経験していた。

     ベビーカーによる電車への乗車を巡っては、国交省は14年3月、「電車ではベビーカーをたたまなくても良い」との指針を示した。これを受け、横浜市営地下鉄は15年7月、最短20秒だった駅での停車時間を5〜40秒延ばし、乗降にゆとりを持たせた。運行時間は片道4分延び、担当者は「速達性を犠牲にする難しい判断だった」と明かす。

     国交省は6日、全国の鉄道事業者に対し、注意喚起と安全対策の徹底を要請する文書を送った。ある鉄道会社幹部は「乗務員個人の問題とせず、乗務員の教育・訓練強化はもちろん、安全運行に協力してもらうよう利用者に訴えていくことも重要」と指摘する。【高橋昌紀、内橋寿明】

    乗務員・乗客は安全意識を

     「失敗学のすすめ」で知られ、電車のドアに潜む危険を調べてきた畑村洋太郎・東京大名誉教授は今回の事故について「10年以上前と同じような事故が起きているのはおかしい」と指摘する。

     畑村氏は2004年、さまざまなドアを巡る事故の原因を究明する「ドアプロジェクト」を発足させ、ベビーカーが挟まれるメカニズムも調査した。

     東京都内の駅で同種事故が相次いでいたJR東日本の協力を得て、山手線の車両で実験したところ、ベビーカーの前輪車軸が細すぎると、ドアに挟まれても発車禁止を知らせるランプが消えてしまうことが分かった。これを受け、同社はベビーカーの製造会社に前輪部分の寸法変更を要請し、国内大手メーカーの多くが改善に応じたという。

     それだけに、畑村氏は以前の実験を再現したような今回の事故に驚く。東京メトロは「全乗務員に監視業務を徹底させる」と再発防止を誓っているが、畑村氏は「マニュアルを覚えさせるだけの安全管理は無力。自分で考えて判断し、行動する訓練が必要」と指摘する。

     利用者にも安全性の過信に警鐘を鳴らす。「『電車のドアは安全』と信じて駆け込み乗車をするようではいけない」【鳴海崇】

     <事故の概要>

     4日午後3時ごろ、母親と子供2人が6両目に乗り込んだ後、父親が空のベビーカーを押して乗ろうとした際、左前輪のパイプ(幅15ミリ以内)がドアに挟まれた。電車はそのまま発車し、約100メートル進んだところで車内の非常通報ボタンが押された。車掌室や車内で警報が鳴り、その頃ベビーカーはホーム端の柵に衝突した。さらに約50メートル進んだところでホームの非常停止ボタンも押され、ホームに警報音が流れた。同社の運行規則は、車両の一部でもホームに残っている時に非常ボタンが押されたら、車掌が緊急停止させるよう定めているが、車掌は2度の警報音を認識しつつ走行を続けた。「次の駅で確認しようと思った。非常停止をためらった」と説明している。

    都市部の鉄道でのベビーカーを巡る主な事故例

    ・乳幼児が乗ったまま扉に挟まれ列車が出発

    ・扉への車輪の挟み込み

    ・ホームと車両の間への車輪の挟み込み

    ・乗降時に乳幼児を乗せたまま転倒

    ・電車の走行風圧でホームから無人で転落

    ・シートベルトをしていなかった乳幼児が転落

    (2014年3月、国土交通省まとめ)

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