つくることの「不安」を抱えて、みんな闘っている!
曽田正人(以下、曽田) お会いできてうれしいです。すごく緊張します。もう僕らは大ファンでいつもR-指定さんの話をしているくらい。
瑞木奏加(以下、瑞木) 我々二人は別々に『フリースタイルダンジョン』を観て、あるときお互いに「おもしろい番組があるぞ!」と興奮して報告したら同じ番組だった(笑)。
曽田 さらにそのとき、「なかでもひとり、すごい人いるよね」と言ったら、「そうそう、R-指定さんでしょ」と。見事に意見が一致しました。
R-指定 それはうれしいですね。僕のほうも『テンプリズム』、一気に読ませていただきました。もともと漫画はよく読むんですけど、『ミナミの帝王』ですとか、ハードなもの、ヤンキーものが中心でした。ファンタジーものってあまり手を出してこなかったから、どんな感じだろうと思っていたら、ハマりましたね。何がおもしろいって、人間の描きこみ方がこんなにぎっしりしている漫画ってあるのか! というところ。登場人物たちの思考がどんどん巡っていく感じに惹き込まれます。僕もふだんけっこうあれこれ考えたりするタチで、よくもわるくもいつも頭が動いている状態。同じようなことが漫画のなかでも展開されているのが新鮮でした。
曽田 R-指定さんのフリースタイルバトルを観てから、楽曲にも興味を持ってアルバムを聴かせていただきました。即興で言葉を紡ぐバトルのときとはまた違う創り込みの魅力があって、漫画の、特にネームを練る作業と重なるところがあるんじゃないかと思ったんです。僕は『みんなちがって、みんないい。』が特に大好きなのですがR-指定さんがこの詩を創っている姿、言葉を絞り出し、研ぎ出している姿を想像して興奮した。そして今僕らが感じているのは今度は『テンプリズム』がフリースタイルバトルに少し近づいて行っているという事なのです。
瑞木 最近だとベルナというキャラクターが、頭をフル回転させて考えを巡らせ、それに作者と物語が引っ張られていく状態。その臨場感と作者の心持ちはまさにMCバトルだ!と自分たちを鼓舞しながらやっています(笑)。
(ベルナが頭をフル回転させているシーン。第62話より。)
R-指定 ベルナはキーマンですよね。状況をいい具合にかき乱してくれます。
曽田 『テンプリズム』では、描いているうちにどんどんそうなっていったんです。今やあらかじめ用意した設計図通りに話を進めることはあまりなくて、登場するキャラクターたちの動くに任せようという描き方をしています。ベルナとツナシが出会ったあとは、本当にもうベルナに委ねきっていました。描きながら、こんなことを話しはじめるとは、と僕自身が驚いたりするほど。そういう描き方って、楽しくもあるけれどとても苦しい。次のコマさえ見えないので、恐ろしくてしかたがないです。 毎日不安ばかりで、いったいどうなってしまうのかなと思っている時期に、ちょうど『フリースタイルダンジョン』と出会ったんです。相手が発した言葉に対して、また言葉をぶつけていくというあのバトルのかたちに、僕たちのやっていることも近い部分があるのではないか。観た瞬間にそう思いました。漫画を描きながら、僕はベルナ相手にフリースタイルバトルをやっていた。ベルナが投げかける言葉を受け止めて、僕がストーリーを返す。張りつめたやりとりを延々としていて、心細くもあったけれど、ああここに同じ闘いに挑んでいる人がいる! と知ってうれしかった。いや、もうほんとうに勝手な解釈なんですけれども。
(主人公ツナシの真意を問い正すベルナが描かれた、第55話(単行本7巻収録)の試し読みはこちら。)
R-指定 一瞬先もわからないのが楽しい反面、苦しいというのはよくわかります。ライブでよく、お題をもらってラップをするんですけど、ほんまに自分が何を言い出すか、自分でもその瞬間までわからないですからね。あ、いまなんか口走ってしまった、その言葉につられてこう言ってしまった、いまのところいい感じに話つながっているけど、オチが見つからへん、どうしよう! なんて頭のなかでいつも考えてます。
曽田 それをお聞きしたかったのです! R-指定さんも先が見えないままに進んでいる?
R-指定 もうその場でなんとか考えながらやってます。それでもオチが見つからないときは、そのままめっちゃ脱線していって、なんとか探そうとしてみたり。
曽田 ああワクワクする!僕も毎週、そういう気持ちです。こんなに先がわからずに描いているのは、これまで漫画をやってきて初めての体験なのですけれど。
R-指定 創作をする人は、内側からこんこんと内容が湧き出てくると思われがちですけど、そんなことはないんでしょうね。生み出すことの不安を感じながら、みんなやっているんでしょう。自分の考えをかたちにすること、表に出すことは孤独で不安な作業なので、ジャンルが変わっても、つくり手同士は共感できる部分が多いんじゃないですか。
曽田 なにかを創るときは、不安なのが当然だということですね。すごく励まされます。闘おうという気持ちになります。
ファンタジーにはもっといろんなものが盛り込める!
瑞木 R-指定さんが発するラップの言葉は、日ごろ考えていることから紡ぎだされていると思うんですけど、ふだんはどんなことを考えているんですか?
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