「もはや市場ではない」、国債市場の疲弊に嘆きの声-黒田緩和4年目
- 投資家の国債売買高が低迷する一方、ボラティリティは上昇
- 実質的には誰も取引に参加していない-メリルリンチ日本証の大崎氏
日本銀行の黒田東彦総裁による異次元緩和が4年目に突入した。金利の低下は狙い通りに進んでいるが、国債市場の機能障害という副作用は一段と深刻化している。
日銀は巨額の国債買い入れにより、発行残高の約3分の1を保有するに至った。マイナス金利政策の導入を受け、長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは先月18日にマイナス0.135%と過去最低を記録。残存12年前後までの利回りがゼロ%を下回る。投資家の国債売買高が低迷する一方、ボラティリティ(相場変動率)は上昇。2月の債券市場サーベイでは、回答した金融機関の41%が市場機能が低いと答えた。
黒田総裁は2%物価目標の達成に向けて緩和を強化してきたが、原油安で消費者物価上昇率は横ばい圏内にとどまり、予想インフレ率も低迷。世界経済や円安・株高に陰りが見え、景気の減速色も強まる中、ブルームバーグの先月のエコノミスト調査では40人中37人が年内に追加緩和を迫られるとみている。黒田総裁は金融緩和の限界説を否定するが、金融政策に依存した日本経済の活性化には悲観的な見方が広がっている。
メリルリンチ日本証券の大崎秀一チーフ金利ストラテジストは、国債市場は「どんどん疲弊して荒れてきている」と指摘。財務省の入札で仕入れて日銀に転売する日銀トレードなどを除くと「実質的には誰も取引に参加していない。もはや市場ではない」と言う。黒田緩和は「実験だった。資産価格の上昇など、やってみた価値はあったが、なかなか思うようには行っていない」とみる。
世界的な金融危機後の日本のデフレを背景にした円高・株安基調は、第2次安倍晋三内閣の誕生と異次元緩和導入で反転した。日経平均株価は15年6月に1996年以来の高値、円相場は1ドル=125円86銭と13年ぶりの安値を付けた。ただ、その後は世界経済の減速懸念や市場の混乱を受け、日経平均は2月、円相場は3月に14年10月以来の水準に逆戻りした。
国債市場では、10年債利回りは異次元緩和が導入された翌日の2013年4月5日に0.315%と当時の最低を記録した。翌5月には1%まで上昇する場面があったが、日銀による巨額の国債買い入れに圧倒される形で徐々に低下。今年2月のマイナス金利政策の導入後は、プラス利回りが残っていた超長期ゾーンの金利を中心に下げを加速した。
日銀は金融機関の日銀当座預金の一部に0.1%のペナルティーを課すマイナス金利政策について、イールドカーブの起点を押し下げ、巨額の国債購入とともに、金利全般により強い下押し圧力を加えると説明している。黒田総裁は3月16日の衆院財務金融委員会で、マイナス金利の理論的な拡大余地は「相当ある」と発言。4月1日の日銀入行式のあいさつでは、この3年間で「日銀の施策は大きく進化している」と述べた。
欧州中央銀行(ECB)もマイナス0.4%の中銀預金金利と月800億ユーロの量的緩和を推進している。日欧の中央銀行による大規模な金融緩和がもたらした過剰流動性は国境を越え、海外金利の押し下げにも働いている。
米10年物国債利回りは日銀の量的・質的緩和の導入直前の1.8%台から約1カ月で1.6%台前半まで下げた。マイナス金利導入発表から約2週間後の2月11日には1.53%と、12年8月以来の低水準を付けている。英銀バークレイズなどは日欧の強力な緩和策が米金融正常化の妨げになっていると言う。