瀕死子ウサギ…徳之島発400キロリレー
鹿児島・徳之島で交通事故のため重傷を負った国の特別天然記念物のアマミノクロウサギ1匹が、島民や獣医師らの400キロを超える「命のリレー」で一命をとりとめ、鹿児島市平川動物公園で療養している。昨年生まれたとみられる雌の子ウサギは発見場所にちなんで「ボマちゃん」と名付けられ、飼育員ら関係者が成長を温かく見守っている。
子ウサギが発見されたのは昨年12月13日夜、徳之島町母間(ぼま)の農道上だった。保護したのは、野生動物の保護活動などに取り組むNPO法人「徳之島虹の会」の副理事長、池村茂さん(59)。車で通りかかったところ、道路脇にうずくまって血を流している子ウサギを見つけ、すぐに島の獣医師のもとへ運んだ。
車にひかれたとみられる子ウサギは頭を強く打っており、あごの骨が折れていた。命の危険もあり、翌日、奄美大島に船で移され、野生動物治療の経験が豊富な奄美市の獣医師、伊藤圭子さん(38)に託された。伊藤さんは、子ウサギが落ち着けるようにと、勤務先の動物病院ではなく自宅で治療を開始。約1カ月半、安静を保ちながら流動食と投薬治療を続け、容体を回復させた。
ただ、奄美地域には長期間飼育できる施設がなく、療養には別の場所が必要だった。環境省を介して、動物園としてアマミノクロウサギの繁殖に初めて成功するなど実績がある平川動物公園が受け入れることになり、フェリーによる移送を経て、2月5日に引き渡された。
徳之島で「ボマちゃん」と呼ばれるようになった子ウサギは、ウサギ用の餌と薬を混ぜた流動食を1日3回食べる。保護当初800グラムだった体重は、3月上旬で1400グラムまで増えた。右目は見えず、首にも障害が残ったため野生へ帰すのは難しいが、体重の推移や投薬などのデータは今後の希少動物保護にも生かされる。
担当する飼育展示係長の桜井普子(ひろこ)さん(47)は「多くの人の気持ちで助かった貴重な命。まずはしっかり治してあげたい」と意気込む。
奄美群島では近年、アマミノクロウサギの交通事故被害が深刻化している。環境省奄美野生生物保護センターによると、2000年以降、昨年11月末までに死体で発見された672匹のうち、交通事故死は157匹と約23%を占め、判明した原因では最も多かった。ボマちゃんが見つかった場所も、ドライバーに注意を促す看板が立つ要注意地点だった。
奄美大島では、事故発生地点を中心に減速帯設置などの対策も始まっている。ボマちゃんを最初に保護した池村さんは「元気になってほっとしたが、同じような事故は今後も起こりうる。防止策と負傷動物の受け入れ態勢を強化しなければならない」と訴える。【津島史人】
アマミノクロウサギ
鹿児島県の奄美群島のうち、奄美大島と徳之島にしか生息しない固有種。夜行性で、耳と後ろ脚が短いなど大陸にかつて生息した原始的な種の特徴を残す。環境省によると奄美大島で2000〜4800匹、徳之島で100〜200匹が生息する。