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 犯罪の加害者から被害者や遺族に渡るはずの賠償金が支払われない例が相次いでいる。民事裁判で賠償命令が確定しても、効力は10年。支払いが一度もないまま、10年の時効を迎える前に再提訴を余儀なくされる遺族もいる。独自の支援制度を始めた自治体もある。

 「当然の判決だ」。そう言いながら、川原冨由紀(ふゆき)さん(61)の心は晴れない。

 1月、福岡地裁は殺人罪などで無期懲役が確定した吉岡達夫受刑者に対し、川原さんらへ約7千万円の損害賠償を命じる判決を言い渡した。川原さんにとって、10年前と同じ内容の2度目の判決だった。

 川原さんの娘の和未子(なみこ)さん(当時7)は、小学1年生だった2001年10月、当時住んでいた長崎県諫早市の自宅近くの路上で下校途中、吉岡受刑者に連れ去られ、山中で殺害された。

 川原さんら遺族は吉岡受刑者に損害賠償を求め、提訴した。長崎地裁大村支部は05年12月、吉岡受刑者に対し約7千万円の賠償を命じ、判決は翌年1月に確定した。賠償金の一部は和未子さんの月命日に支払われることになっていた。だが、賠償金は一度も支払われていない。

 民法の規定では、判決で得た権利は10年で時効を迎え消滅してしまう。時効を避けるには、賠償金が一部でも支払われるか、再び提訴する必要がある。

 「心からの謝罪もない。何もかも踏みにじられたままなのに、なぜ時効があるのか」。時効を目前にした昨年10月、川原さんは再び提訴した。吉岡受刑者は代理人を立てず、事実関係を争わなかった。弁論は一度だけ開かれて結審。川原さんは再度、賠償判決を得た。

 「お金がほしいわけじゃない。娘はやっと小学校に慣れてきた頃だった。朝、行ってきますと出かけていく姿を玄関で見送って、2日後には葬儀をせんといかん。この苦しみ、悲しみを犯人はわかろうとする義務があると思う」

 今後も賠償金が支払われる見通しはない。現在の制度では、時効はまた訪れる。「『10年経つけん、諦めんね』ということなのか。これからまた10年、私の闘いは続きます」