そろそろ所得税の確定申告の締め切りになるという段階で、
「入院時の個室代も医療費控除になるよ!」
なるツイートがタイムラインに流れ、かなりリツイートをされていたので、これはまとめておいたほうがいいな、という気持ちになったので、まとめます。
省庁を跨ぐ話になります。
長いので、結論だけ先に書きます。
結論
・厚生労働省の通知により、「患者本人の希望」以外による差額ベッド代の請求は認められていない。
・国税庁(所得税基本通達)により、自己都合での差額ベッド代は治療に直接必要でないから医療費控除の対象とはならない。
・よって、「差額ベッド代が発生しているのであれば、厚労省通知によりそれは患者都合であるので、差額ベッド代は医療費控除の対象とはならない」
・しかし、なぜか現実の病院では半ば強制的な「同意書」がまかり通っている。
・そもそも医療費控除とは?
No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|所得税|国税庁
自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために医療費を支払った場合には、一定の金額の所得控除を受けることができます。これを医療費控除といいます。
(1) 納税者が、自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために支払った医療費であること。
(2) その年の1月1日から12月31日までの間に支払った医療費であること。
一般的には「一年間に医療費を10万円超払ったら税金(所得税および住民税)が戻ってくる」ということで知られています。
※10万円というのは、一定金額以上の所得がある人のことで、国税庁のリンク先にも書いてありますが、総所得金額等が200万円未満の場合は、その5%超です。
給与所得しかない場合は、勤務先から配布された源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」が総所得金額等です。
「総所得金額」と「総所得金額『等』」は異なり、以下のリンク先が詳しいです。
総所得金額等とは | 税理士なら港区の税理士法人インテグリティ
実はかなり細かな要件があり、ある支払いが「対象」か「対象外」かというのは区別が難しいものです。
大体は「保険診療+α」だな、という認識でいいのですが、本稿では割く余裕がないので、
法第72条《雑損控除》関係|通達目次 / 所得税基本通達|国税庁
国税庁のリンクの通達を読むか、各自ググってください。
交通費を含んだり、ドラッグストアの薬を含んだり、一般的なメガネ作成時の検眼を含まなかったり、レーシックを含んだり、金歯を含んだりします。
さて、その中でも、入院時に請求されることのあるいわゆる「差額ベッド代」についてですが、国税庁の見解ではこのようになっています。
・差額ベッド代の国税庁の見解
入院の対価として支払う部屋代等の費用で医療費控除の対象となるものは、医師等の診療等を受けるため直接必要なもので、かつ、通常必要なものであることが必要です(所得税基本通達73-3)。
したがって、自己の都合によりその個室を使用するなどの場合に支払う差額ベッド料については、医療費控除の対象となりません。
一読すると、「自己都合では差額ベッド代は医療費控除の対象とならない」が「自己の都合によりその個室を使用するなどの場合」ではない「診療等を受けるために直接必要なもので、かつ、通常必要なもの」である「差額ベッド代」は「医療費控除の対象になり得る」かのように読めます。
では、「差額ベッド代」とはそもそも何なのか、医療を管轄する厚生労働省の通知を確認してみます。
・差額ベッド代の厚生労働省の見解
通知文は
「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定め る掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医 薬品等」の実施上の留意事項について」の一部改正について
で、リンクはこちらです(PDF注意)。
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000041925.pdf
抜き出そうかな、と思ったのですが、彩の国埼玉が説明してくれているので、そちらをご参照ください。彩の国埼玉、えらい。
要約すると、
差額ベッド代とは、「特別療養環境室」と呼ばれるもので、
そこそこの広さと備品があるプライバシーにも配慮した4人以下の病室、ということになります。
また、差額ベッド代を求めてはならないケースがあり、これも彩の国埼玉が説明してくれているのですが、
1.患者側から同意書による同意の確認を行っていない場合
2.患者本人の「治療上の必要」により差額ベッド室に入院した場合
3.病棟管理の必要性等から差額ベッド室に入院させた場合であって、実質的に患者の選択によらない場合
これらの場合は差額ベッド代を請求してはいけないことになっています。
つまり、厚労省の通知に従えば、「患者からの同意書がない、患者の選択ではない差額ベッド代」は請求してはいけないのです。
この「病棟管理の必要性等」には「大部屋が空いていないため個室に入らざるを得ない」状況を含みます。
これを国税庁の通達と組み合わせると、
厚生労働省「差額ベッド代は患者の都合によらない場合は病院は請求してはいけない」
国税庁「厚労省の通達の通り、差額ベッド代は患者都合時に発生するのだから医療費控除の対象ではない」
という理屈が成り立ちます。
が、しかし!
入院したことがある人なら結構な数が思っていることがあるはずです。
求めていないのに差額ベッド代が請求されたんだけど?
はい、確かに、現在の大病院のほとんどで、入院時の書類の一枚として当然かのように「差額ベッド代の請求に対する承諾書」に署名をすることになります。
これは現実問題として、
・入院という緊急時に
・入院受け入れを拒否する可能性もある病院に対して
・差額ベッド代を払う意思がない
と言い切ることができるのか、というのがあります。
保険診療を中心としている病院は、その赤字に陥りがちな財政に対する穴埋めとして、自由に金額を設定できる差額ベッド代に頼らざるを得ない、という事情について、政策面で考慮すべき点もあるでしょう。
ただし、この通知を患者が知らないこと、場合によっては受け入れを拒否できるという姿勢をちらつかせること、を利用して、本来請求してはいけない差額ベッド代を請求することはあってはならないことでしょう。
インターネットの情報では「通知により請求してはいけないもの」と「患者側から確認したとき」だけ、請求をしない、などの無知につけこむ病院もあるようです。
これらの通報、確認先は、各厚生局指導監査課ですので、入院時に不本意な同意書への署名を求められた、病院側の都合で差額ベッド代を請求された、という場合には、そちらにご相談ください。
(もしくは都道府県庁でも相談窓口があります)
原則的に差額ベッド代を請求しないと決めている「全日本民主医療機関連合会」などがありますので、選ぶことができるのならそこに所属している医療機関を探すという手もあります。
(日本共産党の支持団体でもあるため、購買で赤旗が売られていたり、九条の会のビラが貼られていたりする病院でもあります)
税務署に差額ベッド代が医療費控除に該当するか確認した場合、
「治療に直接必要であったと医師の診断書」
があれば、と回答することもあるのですが、
これは医師、病院側が
「治療に直接必要であるのにもかかわらず差額ベッド代を請求した」
という証明にもなりかねないので、拒否されることもあります。
そもそも払う必要のない差額ベッド代であったのなら、それを税金の所得控除に使うよりも、差額ベッド代を病院に払わない、というのが筋でしょう。
これは厚労省と国税庁の連携が取れていないことの証左でもありますので、当該省庁におかれましては、 改めて差額ベッド代についてのとりまとめを行っていただきたいものです。
(以上、本稿を終わりとさせていただきます)
差額ベッド代とはまったく関係がありませんが、マネー小説を4/15にノベルゼロから発売しますので、 ご支援ください。
マネーロンダリングを暴いたり、詐欺犯を捕まえたりいろいろします。